日本人学校のランチタイム事情

 海外で暮らす子どもたちの食事情はどうなっているのだろうか−−世界十数か国の日本人学校のランチタイム事情を調べたところ、すべての学校で給食は行われておらず、家庭からの弁当持参が基本となっていた。給食を行っていない理由には、設備、人材、食材の問題が多くあげられていたが、各国の食事情は実にさまざま。今回、シンガポール、アメリカ、インド、カナダの4校を取材し、ランチタイムの様子を中心に子どもたちの食事情全般についてレポートする。

シンガポール・小学部クレメンティ校
 同校の児童は1年生から6年生まで22クラス、645名。12時20分になると、いくつかの班を作り、各自がお弁当を広げる。側には必ず大きめの水筒がある。1年中暑いシンガポールでは水分補給が欠かせない。単にのどの渇きをいやすためだけでなく、「サバイバルの道具」なのだという。そのため、児童は毎日お弁当と共に水筒を持参し、各教室の後ろに置いておく。そして、休み時間などに随時飲むのだ。中身も甘い炭酸飲料ではなく、水やお茶がほとんど。ランチタイムには教師も教室内で一緒に食事をし、天気がいいと、ピクニックを兼ね、学校の裏にあるクレメンティ・ウッドに行くこともあると言う。ほとんどの児童がハンバーグやミートソース、マカロニ、おにぎりといった日本の子ども達の大好物を入れた日本国内と変わらないお弁当を持参する。多民族国家で知られるシンガポールだが、現地のさまざま民族料理が登場することはまずない。シンガポールの現地校ではキャンティーンと呼ばれる、値段が手ごろな学生食堂が一般的だが、カロリーの高い油や肉中心の欧米式の食生活により、昨今、いわゆる肥満の生徒が目立つようになってきた。肥満を恥辱と考え、肥満撲滅を国家課題に掲げるシンガポールでは、教育省が校長に指示を出し、肥満気味の生徒には専門の栄養士によるカロリー計算のもと、ダイエット用の特別メニューが提供される。クレメンティ校にはキャンティーンもないかわりに肥満に苦しむ児童もいない。そこでその秘密を探ろうと、現地の学校やメディアから訪問者が絶えないのだという。「特別な食事指導を行っているわけではない。日本食がいかに栄養バランスがとれ、太りにくく、すばらしいかを証明しているに過ぎない。強いて言えば、ランチタイムの雰囲気づくりは大切にしている」と同校の間瀬静夫校長は話すが、ランチタイムの内容の充実にも熱い視線が注がれている。

インド・ボンベイ日本人学校
 飲用水は必ず煮沸 調理実習には細心の注意
 同校には、ムンバイ在住の小学生21人、中学生8人が通学しており、少人数のため雰囲気はとても家庭的である。また中学生と小学生が一緒に遊んだり、さまざまな行事で協力し合ったりと、日本の学校とはひと味ちがった和やかな雰囲気である。ランチタイムの様子について尋ねてみると「全員がお弁当持参。設備や人材、食材などの条件が整わず、給食の実施はむずかしい」と同校の中嶋孝佳先生は話す。インドの衛生状況は日本と比べて悪く、入国する場合は、大人も子どもも予防接種が欠かせない状況。飲み水は、水道水を、浄水器を通した上にさらに煮沸をして飲んでいる。子どもたちは必ず水筒でお茶を持参している。家庭科の調理実習など食物を取り扱う場合は、細心の注意が払われており、使用する水はすべてミネラルウオーターで、食材も念入りに洗浄。ブドウなど皮のついた果物は特に気をつかうそうだ。

 お弁当は日本食が中心
 インドでは野菜や鶏肉以外の食材は入手が難しく、多くの家庭はバンコクやシンガポールに出かけて日本の食材を大量購入している。子どもたちのお弁当の中身は日本食であるという。「インドの食べ物は、辛く、お弁当、家庭での食事もほとんどが日本食中心になっているようです」(中嶋先生)。

アメリカ・ニューヨーク日本人学校 グリニッチ校
 現地校との交流の場に 週2回パンと弁当の提供も
 同校のランチタイムは、家庭からのお弁当が基本であるが、週に2回、希望制でパンと弁当がそれぞれ1回ずつ提供される制度が設けられている。メニューは1種類で大小があり、パンは日本の菓子パンが出される。現在、利用している生徒は初等部で半数以上、中等部で2/3以上になるという。しかし「毎日作るのは大変」という声も受けて開校当初よりこの制度が開始されているという。学期のはじめに業者がメニューを持ってきて希望者を募るが、業者との折衝や配膳、片づけなど全ての運営は保護者ボランティアによって行われている。ランチタイムの時間は教室での食事をするほかに、年に数回生徒会主催で学年やクラスを越えたグループでの食事が行われ、初等部でも数学年が一緒に食事をする交流昼食が行われている。

 現地の子どもとの交流
 現地校との交流会は年に1、2度行われており、お弁当を持参して一緒に会食が行われている。

カナダ・ヴァンクーバー日本人補習校
 豊富な日本の食材使い バランスのよい弁当
 日系人の多いヴァンクーバーでは日本食を扱うスーパーなどが多く、かなり割高であることを我慢すれば、容易に日本の食材を手に入れることができる。また、おにぎりなどに欠かせない米はカリフォルニアから大量に入ってくるため、日本国内で買うよりずっと安い。日本の米同様、銘柄も豊富だ。味に関しても生徒の間では「日本の米よりおいしい」という声もあるほど。そのため、ほとんどの生徒は日本国内と同様、母親が栄養のバランスを考えて作った彩りのよいお弁当を持ってくると言う。野菜をたくさん食べさせようときんぴらごぼうや肉じゃがといった手の込んだメニューも珍しくない。そのためかどうか、肥満に悩む児童も生徒も全くいない。しかし、何らかの事情でお弁当を持ってくることのできない生徒や、中学・高校生になり、自分で食べるものを選びたいとしてあえてお弁当を持ってこない生徒もいる。そうた生徒はお弁当を持ってきている生徒から少しずつ分けてもらうのが普通だそうだが、日本人補習校の道を隔てた向かい側にはファーストフード店があり、そこで買って食べたいという要求が出ているのも事実だ。

(2001年1月13日号より)