児童虐待に歯止め
 防止プログラム着々と

 今年になっても全国で児童虐待事件が相次いでいるなか、厚生労働省が各地の児童相談所と精神科医と連携し、「平成13年度から子どもに虐待を加えた保護者へのカウンセリングを強化する」と発表するなど、中央・地方自治体レベルによる児童虐待防止に向けた各種プログラムが策定されつつある。厚生労働省のカウンセリングについては、児童相談所が専属の精神科医と専属契約。児童虐待問題に対応する児童相談所職員に対して、専門家の立場からアドバイスして虐待が深刻化するのを防いだり、保護者からの相談に適切に助言する。そのための経費として平成13年度予算に4000万円を盛り込んだ。

 児童相談所に寄せられる児童虐待に対する相談件数は、近年うなぎ登りの状況で平成11年度には1万件を超えた。虐待によって子どもが死亡するケースも多く深刻な状況。その背景には核家族化の進行によって若い親たちが、経済的な問題や育児の孤立感などから精神的に不安定な状態に陥っている−−と指摘する専門家も多く、これを少しでも解消するのが目的。
 現在、児童相談所には保護者からの相談を引き受ける「児童福祉司」や「心理判定員」などが配置されているものの、虐待相談の増加で慢性的な人出不足状態に陥り、保護者に対して十分に対応できていないのが実情。このためまず事業では全国に174か所ある児童相談所のうち、都道府県と政令指定都市に1か所ある中央児童相談所のすべてと、一定以上の相談件数がある55か所で実施する。
 具体的には保護者へのカウンセリングに関する年間契約を精神科医と締結。契約医は週1回程度児童相談所に出向いて、悩みを抱え精神的に不安定になったり、実際に虐待を行っている保護者の悩みを聞き、子どもへのふさわしい接し方をはじめ、保護者の心を和らげるためのさまざまなアドバイスを行う。精神科医への費用は年間70万円。国と相談所がある地方自治体で出し合う仕組みだ。

地方自治体も本腰
 一方、各地方自治体レベルでも、独自の児童虐待防止のプログラムを策定している。主なプログラムは次の通り。
 【東京都】=学校の教師や医師などの専門家で構成する「連絡協議会」を設置する。都内の学校の教師や医師に児童虐待発見のためのマニュアルを配布。虐待に気づいた場合には同連絡協議会に報告させ、報告を受けた専門家が対応を判断し、場合によってはその情報を警察に通報するなどの抑止策を図る。また虐待を行った保護者への精神科医によるカウンセリングも行う。
 【茨城県】=医師や弁護士、学校の教師などが、児童虐待を早期発見するためにどのような行動を取るべきかを定めた「行動指針」を策定。1虐待が疑われる不審なけがについて、医師は写真を残すなど証拠収集を行う2弁護士会は相談窓口を設置し、自治体が開催する虐待の相談会に弁護士を積極的に派遣する3民生委員や児童委員は管内の児童宅をはじめ小学校、幼稚園などを訪問し、情報収集や啓発活動を行う−−などを盛り込んでいる。
 【愛知県】=児童虐待やいじめ、非行などに対して迅速に対応するため、平成13年度に警察官や教師、医師など関係機関の実務担当者で構成する「危機児童・家庭サポートチーム」(仮称)を県内8か所の児童相談所に設置する。学校や児童相談所で対応し切れない問題が生じた際に、事務局となる児童相談所が構成員を召集し、チームとしての対応策を決め問題解決にあたる。
 【広島市】=児童虐待への対応などで年々負担が増している、児童福祉司を補助する臨時の「児童虐待対応協力員」を配置する。協力員には、トラブルの対処に慣れた警察OBをあてることも検討。虐待家庭の情報収集のほかに、実際に虐待家庭を訪問する際に同席してもらう。
 【兵庫県伊丹市】=医師会や弁護士、警察、保健所、社会福祉協議会、教育委員会などで構成。虐待を早期に発見・対応し、防止のための啓発活動を行う「児童虐待防止市民ネットワーク会議」を設置。具体的な対応方法を検討する。
 【岐阜県岐南町】=いじめや体罰、虐待などに悩む児童・生徒から相談を受ける「子ども相談専門電話」を開設。町内小・中学校の全児童・生徒に電話番号と利用案内を記した小型カードを配布し、電話をかけてもらう。相談は元学校長や大学教授など民間人5人で構成する「子どもの人権オンブズパーソン」が受け付け、学校や両親などがら事情聴取し、人権擁護の必要があれば関係者に改善勧告も出す。

(2001年2月10日号より)