健康情報は自分を守るもの
ライフポートフォリオで健康指導を



 子どもが自分の体の成長を振り返り、健康状態を知ることを通じて「自分の健康を自分で守る」ことを目的とした、ライフポートフォリオ(健康ポートフォリオ)の実践が注目されている。さらに4月からの総合的学習導入により、健康教育の実践と共に加速するものと思われる。本紙は小・中学校でその実践者や実践を検討している養護教諭と、ポートフォリオ実践・指導の第一人者で未来教育デザイナーの鈴木敏恵さんの座談会を開催した。前号(2月9日付)に続く後半部分の今回は、「養護教諭にこそ必要なIT活用」、「ライフポートフォリオ定着のために」などの話題をとりあげた。


養護教育にこそ必要なIT活用
      
鈴木 健康に関する校内の情報センターである養護教諭にこそ、ITが活きると思います。先ごろ澤先生はここに有効な本を出されました。

 「養護教諭のためのパソコン活用法」です。
鈴木 すごくいい本ですよ。養護の先生は学校に一人しかいないのに、学校中の子ども達の健康を管理されるのですから、そのデーター処理だけを考えてみても、何百人分もの記入、ここにコンピュータが不可欠ですね。パソコンならデーター化、グラフ化もすぐ出来るわけじゃないですか。食事と体重の関係など、工夫の仕方でいろいろ活用できます。

 学校に今パソコンがどんどん入ってきて、校内のイントラネットができてくると、養護教諭もやりやすくなると思います。

鈴木 ここで大切になるのが、学校内における情報共有ですね。背景には学校のIT情報共有の下手さがあります。担任は担任、事務は事務、養護は養護と、子どもの名前と住所のデータをカードに各自が入れてる学校もあります。

関根 それは小学校と中学校に違いがあるかもしれません。小学校は自分のクラスの子の部分だけ把握していれば、大抵は済んでしまうかもしれないけど、中学校は各教科の先生が使うわけです。子どもの基本データは共有しないと大変。本校ではメインパソコンにすべて集約されています。

鈴木 逆に言うと小学校はスタンドアロン状態なわけですね。それで済むので逆に共有が難しい。さてメーリングリストやネットワーク、インターネットが養護教諭に必要だと澤先生は著書に書かれています。

 学校内で養護教諭が自分から孤立してしまう場合もあるかもしれません。なぜかと言うと学校に一人しかいないので、担任とうまく連携できても、専門が違うと本当に理解し合えるまでにはいきません。

鈴木 担任の先生や体育の先生との連携は必須ですが、相談する相手がいないのですね。
澤 相手がいないのではないですが、相談しても養護教諭じゃないとわからない面があるのです。つまらない差別事例も少なからずあるようです。

関根 人にものを教えるのと教えないのでは、立場が違うというような雰囲気があります。

鈴木 校長先生が率先して、他の先生方の前で養護教諭を尊重する態度を見せれば、担任の先生方も見習うでしょう。そしてこれを変えられるのは養護教諭自身です。さてそこで、横の連携をとるため澤先生はメーリングリストを立ち上げました。そしたら北海道から沖縄まで大勢の仲間が参加してきたのですね。

 小・中・高、養護学校や盲学校などの特殊教育学校、学生や大学の先生もいます。

鈴木 MLは、例えばどういう面が便利ですか。

 ちょっと困った時の相談や情報交換、健康情報など。最近の例では「ツベルクリン反応の結果、陽性と言われたが結核菌の保有者ということとどう違うか」と聞かれたんだけど、誰か上手な応え方を教えて下さいなどです。

鈴木 時々の流行りもの、例えばカゼなども連絡して情報共有できますね。

 昨年の冬は、インフルエンザの流行状況を各地で一斉に調べました。MLの仲間の先生が作ったホームページ上の地図に、現在どこで流行っているか掲載して下さいました。

石井 インフルエンザマップですね。

鈴木 興味深いですね。イメージとしては、桜前線が移動していくようなものですね。こういうものがあれば予防に力をいれたり準備ができますね。

赤坂 本校の地域のインフルエンザは駅の方から順番に来るようです。

鈴木 なぜ駅の方から来ることが分かるのですか。

赤坂 地区の養護教諭で情報交換をしているのです。千葉市は総武線と京葉線が通っていて、インフルエンザはその沿線もしくは利用者が多い地域から流行り始めるのです。するとうちの学区はそろそろかなと予測が出来ます。

石井 子どもにもおおよそ、そんな話を赤坂先生がしてくれます。

鈴木 そうするとリアリティを持って聞くと思いますね。ただ「うがいしましょう」と言うだけでは納得しないですよ。でもインフルエンザマップをプロジェクターで、「インフルエンザが今、学校の50メートルまで近づいた、ほら」と見せると、効果的ですね。

赤坂 見て分かると子どもは反応がいいです。教室に湿度計を置いたクラスがあります。乾燥するとインフルエンザが流行りやすいということを知っていますから、湿度が下がると霧吹きをしてくれるんです。

石井 霧吹きは100円ショップで買ったものを置いています。

 霧吹きで湿度はどの位上がりますか。

赤坂 わずか10%くらいですが上昇します。

石井 時間は決まっていませんが、窓や観葉植物、ストーブのまわりに噴霧します。霧吹きをするのは主に保健係りの子です。

赤坂 去年は市内全体的にインフルエンザは流行りませんでしたが、確かに本校の欠席者は少なかったので、子どもたちには頑張ったからだと伝えました。

鈴木 データを子どもに示すということは、大事なことだと思います。

ライフポートフォリオ定着のために

鈴木 前半部分を含めてまとめに移ります。どのようにすればライフポートフォリオが学校に定着すると思われますか。

赤坂 自分が今まで作ってきた保健だよりなどを見直しました。まず自分のポートフォリオを作ってみようと思って。本日の澤先生の実践をうかがっても一方通行でない内容が必要だとわかりました。これまで私がして来た歯の指導は、カラーテスターで染め出しして本人の歯磨き状態の感想を聞く程度でした。それを今度は子どもと保護者も共有できるよう、学年ごとのねらいに合わせてワーク形式の学習プリントを作りました。

鈴木 保健だよりに記録し保管、その後も使えるようにしたわけですね。

赤坂 はい、子どもが結果を書いたプリントに、保護者からのお返事を頂き、そのプリントを閉じこんで振り返りができるように考えました。

鈴木 まずは子どもと先生にともに意識の変革が必要だと思います。これまでなぜ、子どもの健康情報のデータ管理を養護教諭が預かり、子ども自身が所有しなかったのでしょうか。子どもが持つと紛失するから、というのは本質的な問題ではありません。子どもに帰属していない情報の管理が最大の課題。マスター側と子ども本人側がまず自分の健康情報や身体についての大切な情報を自分のものとして管理しなければ、自分で自分の健康をどうして責任と意識をもって守り大切にすることができるでしょうか。持っていなければ話し合いもできない。ぜひ情報は共有化させたいと考えます。他にポートフォリオのアイディアやビジョンはないですか。

石井 やはり養護教諭と保護者とをうまくリンクさせていかないと、子どもの健康や心の面は育んでいけません。それは養護教諭だけではやりきれない。担任と保護者とを情報でつなぐのがライフポートフォリオではないでしょうか。

 「ポートフォリオとは何か」ということをまず知らしめる。私は鈴木さんのアドバイスで、最初の年は1つのモデルクラスを作りました。翌年からは3年生以上全部に。「完璧でなくてもいいから」と他に呼びかけたら、実践が広まったのです。今は総合的学習も課題ポートフォリオで、・いのち・をテーマに6年生が実践してます。

鈴木 素晴らしいですね。色々な教科ともクロスしてきますね。

 時々、ポートフォリオ通信を発行して実践の展開や、進め方をマニュアル化して担任や子どもたちや保護者にもわかるようにしています。子ども向けの保健だよりだけでなく、保護者向けの保健だよりでも知らせるのです。

鈴木 まずモデルクラスから試運転するのは、プロジェクトを成功させる時の常套手段です。全部を一斉に変えようとするのは無理があります。あの先生なら一緒に出来るかもしれないと対象を決めたら実践してもらう、そこから実態も成果も見えてくるのです。

関根 中学校では生涯を通じて、自分の健康ポートフォリオを自分で作っていくように指導したい。本校の子どもたちはパーソナルポートフォリオや課題ポートフォリオを経験しているため、ポートフォリオとなると発表しなきゃいけないと思っています。

鈴木 なるほど、思い込みがあるのですね。ライフポートフォリオの所有者はまずは本人です。

関根 それをどう指導したらいいか。ライフポートフォリオは自分だけが知っている記録で、見せるとしたら家族に自分はこれだけ成長したという程度。そして将来は自分のパートナーにだけ見せられるものになるといいなと思います。

鈴木 ポートフォリオは目的によって色々な種類があるので、全体像とそれぞれの特徴をまず子どもたちが理解することが大事です。中学校だったら保健室の金庫で「あなたの情報はここで私が責任を持って守ります、しかしこれはサブでメインはあなたがしっかり管理してください」といようなアピールも必要かも知れませんね。

関根 そうですね。どう活用してもらえるか。せっかく小学校で自分の振り返りの1年間があったものを、中学校ではどういう形で生かし、自分で管理していく能力を育てていくかが課題です。費用の問題がなければライフポートフォリオの正と副があって、学校では原本を保管し写しを生徒に持たせるという方法も考えられるのですが、ファイルがいっぱいになるだけで活用されなくては意味がありませんし…。

 小学校で、いかに自己管理が大事かという健康教育の実践が出来れば、中学校では自分でできる部分は自分で管理してもらうことも考えられますね。

鈴木 ライフポートフォリオは自分だけが開けられる形式にしてもいいかもしれません。ポートフォリオとは価値ある情報の一元化。価値ある情報とは、その子の未来のために心や体を守ること。ライフポートフォリオを生涯にわたり役立てて欲しいと思います。

−−どうもありがとうございました。


ライフポートフォリオは価値ある情報の一元化

 「ポートフォリオ」を辞書でひくと「紙ばさみ」。それはバラバラの情報を一元化するもの。バラバラの「情報や知」は価値を持たないけれど、一元化し俯瞰するとそこから様々な「価値ある成果」や「重要な発見」や「成長のプロセス」が見えてくる−−鈴木敏恵・ポートフォリオで教育革命!・(学事出版)から。
 ポートフォリオを実践することで児童生徒には、自分の学習歴や成長の足跡が見えてくる。また「結果」ではなく学習の「プロセス」から評価できるものとして、総合的な学習の時間をすすめる上でも評価に最適だとされている。内容や活用目的により、ポートフォリオは「課題(テーマ)ポートフォリオ」、「個人(パーソナル)ポートフォリオ」、「身体(ライフ)ポートフォリオ」などに大別して使い分けられる。
 今回の座談会の中心テーマは健康や保健の指導における「ライフポートフォリオ」の活用。「ライフポートフォリオ」の目的は1健康2自分の体や心の成長を見つめ大切にする3ライフスキル4自尊感情などの指導・育成にある。基本的にプライベートなもので、主に自己管理・自己成長のために活かされる。生涯にわたり、自分の心と体の良き明日を守るもの。
 【ファイル例】「内情報」=1体重、身長、視力などの記録データ2生理周期、体の変化データ3アレルギーなど自分の病気情報/「外情報」=1健康だより2喫煙・薬物の害3性教育資料4食事の目安など。
http://www02.so-net.ne.jp/~s-toshie/


(2002年3月16日号より)