子どもの心とからだの健康
滲出性中耳炎

 「中耳炎」といえば激しい痛み、38度前後の発熱、耳だれ、ひどくなると鼓膜切開と、「急性中耳炎」を思い浮かべる人がいるかもしれません。でも、痛みが無くまわりも気づきにくい中耳炎もあります。今回は、最近子どもの患者さんに多いという「滲出性(しんしゅつせい)中耳炎」について、どんな病気なのか、その見分け方、治療法などを千葉県こども病院の耳鼻咽喉科主任医長、工藤典代さんに伺いました。

−−よく「外耳炎」、「中耳炎」などといいますが、まず、耳のしくみと働きについてお話ください。
 耳は外耳、中耳、内耳に分かれています。「外耳」は耳たぶと外耳道から成り、音を集めて中耳に伝えます。「中耳」は鼓膜、耳小骨、耳管から成り、音を内耳に伝える役目をします。外耳から伝わってきた音は鼓膜を振動させ、耳小骨を動かし、内聡を経て内耳に伝わっていきます。「内耳」は蝸牛と三半規管で成り、中耳から伝わってきた音は蝸牛の中を通って聴覚神経に行き、そこから脳に伝わります。人はそこで初めて、「音を聞いた」と感じることができます。

−−そのような耳の働きの中で、「滲出性中耳炎」とはどのような病気ですか?
 中耳と呼ばれる鼓膜の内側には空気が入っていて、音が伝わりやすくなっています。その空気は、鼻の奥から耳の奥へつながっている耳管を通って中耳へ運ばれています。
 ところが子どもの耳管は大人のものより相対的に太く短いのですが、機能的に空気が入りにくい状態にあります。たとえば外が1気圧なら中耳は1気圧より低く、陰圧となります。このため中耳の粘膜からは水(滲出液)がにじみ出て、中耳にその滲出液がたまってしまいます。すると鼓膜が振動しにくくなり、耳小骨の動きも悪くなって、音が伝わりにくくなります。これが「滲出性中耳炎」になった状態です。

−−聞こえが悪くなるという程度は?
 正常の聴力を25デシベル以内とすると、滲出性中耳炎の時は30〜40デシベルまで落ち、ささやき声が聞き取れず、普通の調子でべらべらしゃべる声は聞き取りにくくなります。(まっすぐに目を見ながら大きめの声でゆっくり話すと聞こえます)

−−聞こえにくそうにしている子は滲出性中耳炎の疑いがありますか?
 この病気は幼児期にも多いのですが、聞き間違いや聞き返しが多い、テレビの音を大きくする、後ろから呼んでもわからないなどのことがあったら、注意した方がいいでしょう。もっと小さい子でも、よく耳にさわるという仕草をすることがあります。耳がなんとなく不愉快であるためと、耳をいじると気圧が少し変わり、空気が入って不愉快が緩和されるからです。

−−学校に行く年齢になるとどのような行動がありますか?
 たとえば先生が「鉛筆を出しましょう」といっても、ぼーっとしていて出さない、隣の子のすることをきょろきょろしてみている、ワンテンポ遅れた行動、忘れ物が多い、などです。軽い難聴は気がつかないものですが、子どもが書いたものをみてください。しっかり聞こえない子は、間違えて書いているからです。

−−大人が滲出性中耳炎になると、どんなふうに感じるでしょう?
 エレベーターに乗ったり、飛行機に乗ったときも耳がつーんとしますね。あのような感じでしょうか。そのとき大人はつばを飲み込んだり、あくびをしてのどを動かし、耳をスカッとさせます。ところが子どもは小さい頃からずっと耳が詰まった感じなので、それが普通になってしまっています。

しくみと働き
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滲出性中耳炎は、どういう状態のときに起こりますか?
 風邪やアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎のように鼻が悪いとき、または耳管の入り口が腫れたアデノイドでふさがれてしまい、空気が中耳に入っていかないときにおこります。また、昔は「急性中耳炎」になると鼓膜切開をして膿や水を出してしまい、完治させました。ところが今は親の意向もあり、切開をせずに薬だけの治療が多く、治ったようでも水分が残ることが多いのです。この状態で滲出性中耳炎へ移行することがあります。

−−最近この病気は増えていますか?
 数はわかりませんが、治りにくい子は増えています。今はアレルギー性鼻炎の子は多いですし、アデノイドが腫れている子も多い。大気汚染も関係していると思われます。25年程前は、子どもの滲出性中耳炎のことを意識しないお医者さんもいたと思いますが、今は3歳児健診や就学時健診などで聴力の検査があり、病気を見つけやすくなっています。

治療
−−治療はどのように?
 鼻の奥から耳の方に空気を入れると中耳に空気が入り、聞こえが良くなります。これを1週間に3〜4回または毎日続けます。それで治らない場合は、鼓膜に1〜2ミリの穴を開けます。すると鼻の方からと、鼓膜の穴の2カ所が開いて通りが良くなり、滲出液が外に出ていきます。しかし鼓膜は再生能力があり、2、3日で穴は塞がりますから、これを1回の切開で治らない場合は、1か月に1度程度のペースで3〜4回行います。

−−それでも治らないときは?
 鼓膜の穴にストローのような孔のあいた小さなチューブを入れ、チューブを固定させます。これを入れると、1〜2か月に1回チューブをチェックするだけでよく、毎日通院しないですみます。チューブには短期(半年)のものから長期(2年位)のものまであります。ときには10年くらいチューブが抜けない難治性の子もいます。

−−痛みがなく気づきにくい子どもの滲出性中耳炎を、放っておいてはいけない理由は?
 この病気は軽い難聴状態となるからです。たとえば大人は30〜40デシベルの聴力でも、前後の関係から話がわかりますが、子どもは新しく言葉を覚えていく時期ですから、話がわかりません。軽い難聴でも、大人と子どもではその意味合いが大きく違うということです。子どもの聴力低下は言葉の遅れや学力の低下につながり、ひいては情緒や性格面にも影響を及ぼしますから、早期に治療することが大切です。

−−ありがとうございました。




(2002年6月13日号より)