特集家庭科教育における食の学習−学校栄養職員の関わり−
新指導要領のポイント 「家庭科教育のねらい」

 文部科学省初等中等教育局 河野公子視学官に聞く

 家庭科は、家庭を中心とした生活をより良くすることができる能力と態度を育てることをねらいとしています。一人ひとりが衣食住や家庭生活に関わる知識や技術・技能を身に付け、心豊かな生活を工夫できるようにすることが主な目的です。学習した基礎・基本を各自の生活の場で生かすことが大切であり、そのような意味から、家庭科の特徴は、総合的・実践的であるといえます。
 例えば、豊かな食生活をするためには、栄養の知識を個別に学んだだけでは、実践に生かすことが十分にできません。栄養のみでなく、食品の性質や調理上の性質などを組み合わせて考えることで、「何を」「どのくらい」「どのようにして」食べたらよいかが分かって、実際の生活に生かすことができるようになるのです。
 自分の年齢や活動を考えて、まず何をどれくらい食べたらよいかという知識を身につけることが大切だと思います。また、皆で食事をすることで精神的にも満足するなど、栄養素の面だけでなく家族や人間関係との関わりについても家庭科教育では大切にしたい部分です。

〇小学校
 小学校では、家族の一員として生活を工夫しようとする実践的態度を育てることが目標です。食に関する指導については、食生活の自立までは難しいのですが、自立の基礎として、自分の食事が1食分整えられるようにすることをねらいとしています。従前の学習指導要領では、五大栄養素名を覚えさせていましたが、今回の改訂では、栄養素名を暗記するようなことは求めていません。細かい栄養素の種類や働きなどの知識までは求めず、まずは食品から考えさせ、体内での働きについて学んでいくようにしました。
 栄養素名を覚える事だけにポイントがおかれると、実際に何を食べたらよいかという具体的な食品で把握できないため、栄養の知識が実際の食生活の場で生かされないとか、何回学んでも定着しないという現状がありました。そこで、あまり個別の栄養のことよりも、実際の食品の働きについて考え、いろいろな食品を組み合わせて取らなければならないということを理解しましょうとしたのです。また、小学校では、量的な把握をさせていません。これは、細かい数字を覚えさせても実際には生かされにくいことから、ある程度いろいろな食べものを食べましょうという程度の指導を行うことになりました。
 調理に関しては、これまでジャガイモ、卵など具体的な食材が例示されていましたが、新学習指導要領ではごはんとみそ汁以外の食材を特定していません。また、食品衛生上の配慮から、生の魚や肉の調理は扱いませんが、肉や魚の加工品を使用することはできます。ごはんとみそ汁に加えて、1品の副食を工夫したり、地場産の食材を使ったりするなど各学校の裁量に任せています。

〇中学校
 中学校における食に関する指導は、中学生の時期が成長の盛んな時期であり、この時期の食生活が大変重要であることから、自分の食事の管理ができるようにすることをねらいとしています。したがって、中学生の時期の栄養と食事ということで、五大栄養素や水など、以前は小学校で指導していた内容を扱うこととなりました。栄養のことをしっかり理解させた上での食生活の自立を目指しています。また、小学校では1食分の食事を扱いましたが、中学校では1日分の食事を考える力をつけることとしています。また、食品群別摂取量の目安を用いて栄養の量的な把握をすることとしていますので、例えば、卵1個がおよそ何グラムかなどの食品の概量が分かるようにすることがとても重要です。
 給食や外食の1食分の食事を見た時に、野菜の量は十分かとか、何が不足しているかなどについて漠然とでもできるといいと思います。栄養素の数字あわせではなく、実際の食品がつながる形で、1日どのくらいのものを食べたらよいかということを実物をとおして視覚的に把握させてほしいと思います。
 
学校栄養職員の関わり
 学校栄養職員は栄養についての専門性という点では優れており、学校給食の献立づくりを通して、食に関する指導が期待されるところです。
 小学校では、必ずしも全校に家庭科専科の教諭が在籍していない現状があります。また、担任教諭の中には家庭科、特に、栄養については苦手意識をもっている方も少なくないので、学校栄養職員の方が栄養や調理など食に関する内容については深い知識と技術をもっているとも言えます。
 しかし、学校栄養職員は専門性が高いために、どうしても難しい授業内容になりがちです。小学校では細かい栄養素の種類やはたらきを中心的に学ぶわけではありませんから、家庭科教育のねらいを十分に踏まえて、発達段階にあわせた授業をしてほしいと思います。
 また、担任教諭が家庭科の授業をする際に、食に関するものは全て学校栄養職員任せにするのでなく、教諭としての主導権をもって、子ども達の実態を踏まえた教科の指導を進めていただきたいと思います。

 ・秋田・男鹿市立船川大一小学校
 ・東京・葛飾区立川端小学校




(2002年7月13日号より)