万が一の脱落歯に備え


名古屋市内全校に歯牙保存液導入

 歯が欠けてしまったり、抜けてしまった場合、再植治療の重要なカギとなるのが歯根膜と呼ばれる歯の根元組織である。これが生きた状態で保存されていればほぼ元通りに再植できるが、乾燥してしまうとその可能性は極めて低くなるといわれている。学校内で歯のケガが発生した場合、歯根膜をいかに生きた状態で保ち、歯科医へ渡せるかということがその後の治療に大きく影響してくるという。今回、市内全小中学校で歯牙保存液「ネオ」の導入を開始した名古屋市の取り組みを取材した。

 市内全校導入に至る以前は各地域の学校歯科医の働きかけにより学校単位、区単位で導入を進めていたが、その必要性が各地で認められ今回市内全校導入へとつながった。
 同市学校歯科医会常務理事を務める江場弘和先生は、担当する学区の養護教諭を対象に研修会を開き、保存液の必要性、再植治療の現状について盛んに訴えてきた一人。
 「学校内の事故により歯が抜け落ちてしまった場合、ティッシュぺーパーやハンカチに包んで来院するケースがほとんどで、歯根膜の保存について養護教諭の知識が十分にあるとは言えなかった」と江場先生は指摘する。再植には歯根膜の生存が重要条件であること、歯牙喪失を回避するためにも各校に歯牙保存液の常備が最低条件であることを伝え続けた。

 歯のケガが発生した場合、歯科医として学校側に求めることは、抜けた歯を専用液に入れ歯根膜を生きた状態で保存しておくこと。「歯牙再植できるかできないか、抜け落ちた歯が元通りに戻るか戻らないかは保管状態によるところが極めて大きいのです」と強調する。
 また多少の汚れがついていても歯冠部をサッと洗い流す程度ですぐに保存液につけてほしいと付け加える。治療に際して歯根部分の取り扱いには細心の注意を払っており、超音波などを当てて丁寧に汚れを取り除くこともあるほどだという。できるだけ歯根部にはふれず、洗浄も歯科医に任せてほしいとのこと。
 万が一保存液がない場合は、乾燥を避けるために牛乳、生理食塩水、口腔内に保管することも可能だというが、歯牙保存液につけた場合の歯根膜の生存時間が24時間であるのに対し、牛乳や生理食塩水につけた場合の生存時間ははるかに短いため、できるだけ専用の保存液を常備してほしいとのこと。

 「養護教諭だけでなく、子どもに接するすべての教職員が歯のケガについて関心、知識を持ち、不慮の事故が起こった場合に適切な対応ができるよう日ごろから心がけてほしいと思います」と江場先生。
 歯牙保存液「ネオ」は未使用の場合でも使用期限が2年と限られているが、今後も継続して予算化され各校に常備されることを願っていると話してくれた。

(2002年11月9日号より)


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