子どもの心とからだの健康 

インフルエンザ大流行への備えを

 冬がやってきました。ある調査によると、1人の人が1年間にかかるかぜの回数は軽いものを含めておよそ6回だそうです。かぜの中でも、症状の重さや流行の速さで最もてごわいのがインフルエンザですが、近い将来、世界的規模で新型が大流行するのではないかといわれています。そこで今回はかぜ、特にインフルエンザについて、久留米大学名誉教授で、呉共済病院名誉院長の加地正郎さんにお伺いしました。



かぜ・インフルエンザ

 
 かぜ          
 多くの原因でおこるかぜ症候群
 −−「かぜ」の原因は何ですか?
 かぜは1つの病気ではなく多くの原因でおこるので、「かぜ症候群」と呼ばれます。最近、かぜの原因の80〜90%はウイルスであることがわかってきました。インフルエンザウイルス、ライノウイルス、アデノウイルスなど、またそれぞれのウイルスに多くの型があるので、かぜのウイルスの種類は200以上ともいわれます。また、ウイルス以外にも頻度は低いですがマイコプラズマ、クラミジア、細菌などの病原体もかぜを起こします。
  かぜの治療法
 −−インフルエンザも含め、かぜの基本的な治療法はどんなことですか?
 まず体を暖かくして、充分に安静を保ちます。そして発熱や発汗で体の水分を失うので、水分補給も大切で、消化のよいバランスのとれた食事をとることが大切です。
 −−市販のかぜ薬は効果がありますか?
 鼻水、咳、熱、頭痛などによる苦痛が激しいときは、市販のかぜ薬で対応できます。かぜ薬には解熱・鎮痛剤、鎮咳剤(咳止め)、鼻汁分泌抑制剤(主に抗ヒスタミン剤)が含まれているからです。ただ、これらで症状が軽くなっても、ウイルスに直接効いているわけではないので、無理してはいけません。
 −−部屋の温度や湿度はどのくらいがよいですか?
 20度前後の室温で体を冷やさないこと。湿度は60〜70%に。空気が乾燥すると、それを吸い込む鼻やのどや気管支を覆っている粘液が水分を失いねばっこくなるので、粘液分泌物や痰を外に出しにくくし、治りが悪くなります。

  インフルエンザ
 肺炎や脳炎など 合併症に注意を  
 −−かぜの中で最も重症である「インフルエンザ」の病原とはどのようなものですか?
 インフルエンザウイルスは、直径が1万分の1ミリの球状の粒子です。ウイルスの増殖スピードは速く、試算すると1個のウイルスが24時間後には100万個に達するほどで、感染した呼吸器粘膜の細胞を急速に破壊してしまいます。
 −−感染を受けた人の体内はどうなりますか?
 体内ではインターフェロンを産生したり、マクロファージ(大喰食細胞)やNK(ナチュラル・キラー)細胞などを動員して、ウイルスに対抗します。この戦いが呼吸器の場での炎症で、高熱がでます。ウイルスの増殖は発病後2〜3日で最高となり、以後は急速に減って、5〜7日でいなくなります。これがヒトの側の防御反応の勝利で、そのあと免疫ができてゆきます。
 −−インフルエンザで注意することは?
 合併症が多いことです。インフルエンザでは5%前後、高齢者では20%あるいはそれ以上に肺炎がおこります。インフルエンザによって呼吸器の感染防御機構が低下して、インフルエンザウイルスに続いて細菌(ブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、レンサ球菌など)がのどから入り(二次感染)、肺炎を起こすのです。熱が一向に下がらなかったり、咳や痰がひどくなる、呼吸困難などの症状がでたら肺炎の可能性があります。また、小さいお子さんでは、脳炎を合併することがあります。インフルエンザを発病後まもなく、意識障害、けいれんなどの症状が現れたら、時として命にかかわることもあるので、早急な治療が必要です。

 −−インフルエンザの型と流行の関係は?
 インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3種類がありますが、流行するのはA型とB型です。ウイルスの表面には、H(赤血球凝集素)とN(ニューラミニデース)という2種類のトゲのようなものがあり、このHの免疫の型を少しずつ変えていくことで(連続変異という)、流行を繰り返します。

  インフルエンザ・パンデミック 
 新型ウィルス流行の恐れも 
  −−最近聞かれる「インフルエンザ・パンデミック」とは何ですか?

 新型のウイルスが出現して急速に広がり、地球規模で大流行を起こすことをいいます。A型のウイルスはそれまで流行していたものとは全く違う新しい型が現れることがあり(不連続変異)、人はそれに対して免疫が全くないので、世界的な大流行となります。1918年のスペインかぜでは、世界で2千万〜4千万人がなくなりました。最近では1957年のアジアかぜがその例です。
 −−近い将来に、大流行の兆しがあるのですか?
 そういわれています。というのは、A型には亜型が多く、もともとヒトではなく、トリ、ブタなどの動物で病気を起こしています。そこでヒトと動物が共生している地域では、ヒトのA型ウイルスとトリのA型ウイルスが、同時にブタに感染し、ブタの体内で遺伝子が混ざり合い、新型ウイルスが出現すると考えられていますが、1997年香港ではニワトリから直接ヒトに感染が起こりました。
 −−パンデミック対策はありますか?
 わが国でもすでに対策が検討されています。パンデミック対策は、もともと通常のインフルエンザ対策の延長線上にあるものです。平常時の流行で適切に対応できる状況が整備されているかが重要といえます。
 −−インフルエンザワクチンは効果がありますか?
 ワクチンの効果についてはかつて議論されましたが、すでに欧米では有効性は確立されており、現在では日本でも前向きの姿勢をとっています。現在はまずインフルエンザにかかると肺炎を合併しやすいハイリスクグループ(高齢者など)に対して、接種がすすめられています。
 −−ワクチン接種の時期はいつが最適ですか?
 ワクチンは、1回または1〜4週間の間隔をおいて2回皮下に接種します。接種してから効果がでるまでには1〜2週間くらい、免疫のピークはおよそ4週間後で、効果があると考えられる期間は接種後3〜6ケ月間です。インフルエンザの流行は12月か翌1月に始まり、2月にピークを迎え、3月まで続くことが多いので、ワクチン接種は毎年10月終わりから11月にかけて受けるとよいでしょう。

  抗インフルエンザ剤
  (新しい治療)

 −−インフルエンザに効く薬が現れたそうですね
 今までは症状をやわらげる対症療法だけでした。しかし、1998年からインフルエンザA型に効く「アマンタジン」という、薬が用いられています。また、2001年からインフルエンザウイルスのN(ニューラミニデース)を阻害する薬も登場し(A型、B型に有効)、これらはインフルエンザの治療法の新局面を開くものとして、期待されています。発病後48時間以内に内服を開始すると、治療効果が期待できます。
 −−ありがとうございました。

(2002年12月14日号より)