教育家庭新聞・健康号
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都立高に精神科医派遣モデル事業
相談支援や連携構築
 東京都は不登校や問題行動、精神疾患等心に問題を抱える児童・生徒への取り組みとして、平成15年度から3年計画で「健康相談活動支援体制整備事業」を実施している。これはスクールカウンセラーを全校配備している都内公立中学校と違い、数的に配置が不足している都立高校が対象で、精神科医等を派遣し、学校において具体的な相談支援を行うとともに、地域関係機関とのネットワーク構築を図る事を通じて、生徒の心の問題に迅速・的確に対応できるようにしていく方針。昨年7月には健康相談活動支援体制検討委員会(以下=検討委員会、岡田謙委員長)を設置、モデル地区として千代田区で現在、日比谷・九段・一橋の全日・定時制6校に相談医として2名の精神科医が携わっている。連携の強化

■深刻化する
  学校の現状

 主な事業内容は、1検討委員会の設置・運営、2健康相談活動の課題把握のための実態調査、3モデル地区における健康相談活動支援事業の実施、4健康相談活動支援体制に関する普及・啓発。

 なぜこのような事業が必要なのだろうか。表1,2は(財)日本学校保健会が平成14年9月、「保健室利用状況に関する調査報告書」(全国調査)をまとめたもの。高校では約半数の学校に「摂食障害」に悩む生徒がおり、ほぼ1000人に1人の割合で存在している。「精神疾患あるいは心身症」は約7割の学校で1000人に3人。

 同事業が昨年9月に都立高校を対象に実施した実態調査のアンケート回収率は99%(通常このようなアンケートの回収率は6割が一般的)。記述欄は養護教諭の細かい文字で埋められていた。これだけでも難しい現実を反映している。

 平成12年3月の「保健室相談活動にかかわる実態調査結果」(東京都教育委員会、平成10年度についての調査)では、「保健室を訪れる児童・生徒の内容別状況」として「外科的対応」と「内科的対応」に分けた場合、「外科的対応」は小学校で68%、中学校39%、高校(全)38%、同(定)36%。「内科的対応」は小学校32%、中学校61%、高校(全)62%、同(定)64%となっている。

 「保健室付属の相談室が必要」と回答した学校は小学校75%、中学校76%、高校(全)81%、同(定)87%。「保健室相談活動を円滑に進めるため、学校医以外の専門的スタッフ等は必要か」では、各学校とも58%以上が必要と回答。両設問とも平成8年度より10年度の数値の方が上回っている。


■事業の方向性
  相談医の役割

 検討委員会委員長で昨年10月からモデル地区の学校で相談医の実務に就いている、関東中央病院精神科部長の岡田謙医師は、今年1月までに事例の対応やケースごとのカンファレンスを行った。

 これは心に問題を抱える生徒をその場に招くものではない。担任や養護教諭がその生徒の発するサインを受け、状態や背景を見取って対応を判断し、必要に応じて図・のような関係者・機関とも連携しながら適切な対応を行っていく。

 生徒への対応は1人ひとりに応じて異なる。本人との対応だけで心が癒され解決に向かうケース。家庭と連携し、教職員で対応できるケース。学校医やスクールカウンセラーなどと連携して対応するケース。学校外の専門医・機関に相談して対応するケース。

 岡田医師は、「(子どもたちが直面している)メンタルヘルスケアの実態を分かってもらいたい」と言う。
 現代人は多かれ少なかれ誰でもさまざまな問題や悩みを抱えている。それが生活の中でブレーキやバランスを崩す原因となり、障害や疾患として現れる場合もある。不登校や思春期やせ症、過呼吸、「リストカット」、家庭内暴力や家出など、心の問題に起因するものを持つ子どもは増加傾向にあり、その予備軍ともなると実は自分のすぐ隣にいてもおかしくない。

 それには現状を理解する事が必要で、担任や養護教諭だけでなく、それぞれの生徒に関わりのある教職員が役割を認識し、関わり重視で生徒の不自然なものを発見しすくい取り上げることが必要。その上で、学校内で解決する問題か、治療が必要かなどの判断を相談医はサポートする。


■共通認識でメンタルヘルス
 来年度は多摩地域にもモデル地区を設ける。多摩地域に選定する理由は、専門医療機関が区部に比べて少なく、学校を取りまく環境が異なっているためという。

 同事業に対して検討委員会委員である近藤太郎医師は、都医師会理事と学校医の立場から次のように語る−−相談にのぼるべき案件は多く、事前に担任や養護教諭により必要な情報をポイントごとにまとめておくことが重要で、その体制づくりが検討されている。これにより効率よく相談活動を行うことができ、担当される精神科専門医にかかる時間的負担が大きくならないものと考える。学校とのコミュニケーションを多くして、学校が子どもの心の問題への意識向上と、本来の力を発揮できるよう役立ちたい。

 都医師会は20年近く、精神保健委員会を設け思春期の子ども達への対処も検討してきた実績がある。いくつかの地区では、精神科学校医も配置されているが、そうでないところは内科の学校医がその面を受けていた。これからも医師会では学校医(内科)研修で強化も続けて行っていくが、その上で同事業には全面的に協力していくとしている。

 学校では「精神科」という名前に抵抗感を持っているところがあると近藤医師はいう。岡田医師はメンタルヘルスを全体の共通認識として、特に学校長には当然行うべき事という認識を持ってもらいたいと話す。



【2004年2月21日号】