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正しく・楽しく「なぜ?」に答えるために

インタビュー 〜東京薬科大学・加藤啓太教授

加藤啓太教授 子どもたちのなかには病院を受診して処方された薬だけでなく、薬局で販売している一般用医薬品を使っているケースも少なくないが、使い方を間違えて副作用を起こしてしまう危険性もある。しかし、ちょっとした工夫で子どもたちでも十分理解できるということを、東京薬科大学の加藤哲太教授は実感しており、約7年前から小学校を中心に「くすり教育」の授業を実施している。学校薬剤師が養護教諭と手を携えて児童・生徒に正しい知識を教えることの大切さ、今なぜ「くすり教育」が必要なのか、そしてその授業を成功させるための秘訣を伺った。

 

薬物乱用授業を行う前に

―子どもたちに「くすり教育」の必要性を感じたきっかけを教えて下さい

  今、セルフメディケーションという言葉がいろいろなところで使われています。自分で自分の健康をケアすることですが、それにはまず一般市民が健康に関して高い知識を持つことが大切で、さらに、その健康の相談をできる人が薬剤師だと知ってもらうことが重要です。

  そのために小・中学校でくすりの教育を行い、そこに薬剤師が「お薬の専門家・健康の専門家」として入ることで、高い知識の教育ができます。そのような考えを持っていたところ、ある小学校が興味を示してくれたことがきっかけとなり、この活動を始めました。

―授業をしたことで見えてきたことはありますか。また、くすり教育の現状を教えて下さい

  最初に感じたのは、薬が簡単に手に入るために、薬に親しみすぎている子どもたちが多いことです。本来薬は小・中学生は飲まなくても良い、具合が悪くなった時に元の状態に戻すために使う、というのが私の基本的な考えであり、親しみながら、正しい知識を身につけるのが一番良いと思います。

  授業では例えば、ぬれた指でカプセルを触ると、くっついてしまう、水なしでカプセルを飲んだ場合、これが喉でもおこるから、コップ1杯の水で飲まないと駄目だよ、というような実験をすると、絶対これからは沢山の水で飲む!という反応が返ってきます。子どもたちは大変純粋で、すぐに理解してくれます。

  タバコや薬物乱用の授業も大切ですが、それは化学物質の間違った使い方であり、健康の意味、そしてくすりの正しい使い方を知ることで、薬物の誘惑があった時に、善悪や危険性を判断する力をつけてもらうことも、くすり教育の目指すところです。

  最近は、くすりの適正使用協議会、日本製薬工業協会、日本大衆薬工業協会、日本学校保健会、日本薬剤師会など、サポートする団体が増えています。くすり教育を指導要領に入れる動きもあります。今でも少なくない先生が学校でくすりの授業を行っていますが、点として行うのではなく、点を面に広げるために、今行っている先生達の情報を集約したホームページを作っておけば、将来指導要領に入った際の備えとなると思います。

実験や模型でひきつけて

―学校内・保護者等の理解を得るために必要なことを教えて下さい

  現在小中学校の指導要領には、薬が含まれていないため、くすりの授業を行うためには先生方に納得してもらう必要があります。それぞれの学校にあった授業形式や内容を、校長や養護教諭と相談して決めています。

私が授業を行っているある市では、既に市内の半分の小学校で授業を行っており、残りの学校からも要望が出てきています。全小学校で行うと、今度は中学でもとなりますが、学区内の全小学校で行っていれば、中学校ではステップアップした話ができます。

―おすすめの教材、学校薬剤師と連携する際の注意点を教えて下さい

  自分で教材を作成されている先生もいますが、パワーポイントの教材をくすりの適正使用協議会のホームページからダウンロードでき、自分が話しやすいようにアレンジできます。また、生徒の集中が途切れることもありますので、カプセルがくっつく実験などでアクセントを加えたり、人体やカプセル、錠剤の模型を組み合わせて授業を行うと良いと思います。あとは実施まで持っていくことです。

  授業は養護教諭が進行し、薬の疑問、ポイントに関しては学校薬剤師に担当してもらうという流れで、子どもたちを含めたトライアングル方式の授業が良いでしょう。

  なお、学校薬剤師は地場のそれほど規模の大きくない薬局に勤める方が多く、授業を行うためには本来の職場を休まなくてはなりません。無理な負担をかけない程度で授業を行うことが重要です。今後それをサポートするシステムを作っていけば、日本中でくすり教育の必要性が出てきた際に対応できます。

4つのポイントで理解を深めて

―「くすりの教育」を行う上でまず何を教える必要がありますか?  

ルールだけを教えるのではなく「なぜカプセルなの?なぜお水で飲むの?」といった「なぜ?なぜ?なぜ?」を教える必要があります。  
小学校であれば、教えるポイントは「薬は水かお湯で飲む」「用法・用量」「薬の種類や工夫」「副作用」、の4点を押さえておけば十分で、例えば「用法・用量」をなぜ守らなくてはならないかを教えるには「血中濃度」の概念を教えます。薬は血の中に入り体中をまわるが、血中で薬の量が適切な量に保たれることで一番よく効くことを理解してもらえば、2倍飲んだらどうなるか、なども考えてもらうことができます。  今、子どもたちがなんとなくでもくすりの正しい使い方を理解し、その子どもたちが社会人になって初めてセルフメディケーションが根付いている時代がくるかもしれませんね。

教材作成のヒント」として

加藤哲太(かとう・てつた)=1947年岐阜県生まれ。岐阜薬科大学卒業(薬学博士)。社会活動として、薬の正しい使い方やたばこの害、薬物乱用、アンチドーピングに関する講義、体験実習などを通じて、青少年の薬教育の拡大を目指す。現在は、東京薬科大学薬学部教授・薬学教育推進センター長。著書に知の森絵本「なるほど!くすりの原料としくみ ―基礎知識と正しい使い方―」(岡 希太郎と共同監修・素朴社)。