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子どもの心のケアシンポジウム

非常時には学校が地域の核
日常時のケアや連携が大切

被災地からの提言

 文部科学省は、11月30日、都内で「子どもの心のケアシンポジウム」を開催し、「学校における非常災害時の子どもの心のケアの進め方‐被災地からの提言‐」を主題に、宮城県子ども総合センターの本間博彰所長の基調講演(詳細4面)と、学校長、養護教諭、臨床心理士、学校医の4者が登壇したシンポジウムを実施。管理職、養護教諭、スクールカウンセラーなどが多数参加した。

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会場からも質問があがり
活発なシンポジウムに

安全を守ることは  心のケアにつながる

  最初に、真岡市立真岡西中学校の小高邦夫校長が、「非常災害時の学校における生徒への心のケアの取組と課題」について発表。真岡市は震災当時震度6強と発表されたが、後に震度7相当となり同校は大きく揺れた。
卒業した3年生を除く328名(内8名欠席)は、約10分後に第1避難場所の校庭南側へ避難を完了。通学路の安全が確保できたため、班編成で最後の一人まで確実に送り届ける手順を踏んだ。

  その後、「家庭訪問の状況から生徒にASDやPTSDの兆候が見られたため、対応を始めたいと思いました」と3月16日に学校を再開。小高氏は以前に、新潟中越地震の話を聞く機会があり、生徒は早く日常の生活に戻してあげることが大切と言われていたことを思い出し決断した。

  今回の大震災を受け、同校は地震発生時の対応マニュアルを変更。避難経路を3パターン作り、避難訓練は地震だけでも年間3回実施。「校長として全生徒、全教職員の安全を守ることはいざという時の心のケアでもあります」と強いリーダーシップで安全の確保に努めている。

養護教諭の日々の対応 災害時にも生きる

  次に、秋田県立本荘高等学校の加藤智子養護教諭が、「災害時の養護教諭の役割 東日本大震災に係る宮城県への養護教諭派遣経験から」について発表。秋田県は宮城県に養護教諭を派遣し、3月末には先遣隊が、4月から5月末までは養護教諭と後方支援がグループとなり派遣された。

  被災地の養護教諭は、児童生徒の安全確保や心身の確保だけではなく、避難者への応急処置や心身の対応も求められ、学校・地域の核となり、大きな信頼を寄せられる存在であった。それは派遣養護教諭も同様で、「養護教諭というだけで頼りにされることがわかりました。養護教諭の日々の対応が災害時にも生きてきます」と話す。

  今後は災害時の教職員の心のケアについて、具体的な対応の検討が必要だと考えている。

  また、福島県臨床心理士会スクールカウンセリング委員会委員長の下田章子氏、岩手県教育委員会学校保健技師の山口淑子氏が、それぞれ学校との連携を発表した。

  下田氏は、勤務校では子どもたち、教職員に様々な相談を受けたが、特に夏休み前後になると、放射線被ばくへの不安・不満や、暑さとともに不調を訴えることも増え、教職員も避難先と元の学校との行き来で負担が大きくなっていた。

  県はスクールカウンセラーの追加配置や他県からの派遣も行い、他県からの臨床心理士による集中的な緊急支援は続いている。「当初は都会のカウンセラーに何がわかるのかという意見もあったが、実際はみんなに余裕ができました」。

  また、下田氏は風評被害や過剰な報道などの2次的な影響への対処が求められる、と説いた。

  山口氏は、養護教諭が現場で子どもたちにいかに寄り添っているかを目の当たりにし、「心のケアは養護教諭の存在が大きいと思います」と話す。

  岩手県医師会では石川育成会長から盛岡少年刑務所長へ、こどものこころのケアに対しての支援を依頼し、法務省関係の児童精神科医の派遣が実現。宮古児童相談所内に宮古・子どものこころのケアセンターを開所し毎週木曜日に交代で相談にあたっている。宮古地域をモデルとし、蓄積したノウハウを他地域に波及していこうとしている。

  「震災はきっかけで原因ではない場合もありました。発達障害など何かきっかけがあって顕在化した時にケアをできるように、平常時の対応が大切となります」と言う。

◇    ◇

  4名の話から、平常時の連携や各機関の体制を整えることが、重要な要素となるということだ。

学校保健の平時の備え 災害時に明白となる

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本間博彰所長

 宮城県子ども総合センターの本間博彰所長(写真)は、「子どもの心のケアシンポジウム」の基調講演『災害や事件などの危機的事態における心のケアと学校保健』で、東日本大震災後に実施している取り組みから見た心のケアの状況と課題を発表した。

  同センターは、児童精神科医、保健師、心理士、保育士、教師でチームを組み、宮城県で精神科医療的な介入の必要な子どもの把握とケア、地域の教員や保育士へのガイダンスをベースとした活動を行っている。

  震災後、子どもたちは、恐怖、イライラ、退行、不眠、身体的訴えなどの初期反応を示したが、その多くは小さな子どもたち。今後は、小中学生へのケアが重要となると本間氏は分析する。

  また、発達障害の子どもたちが避難所で落ち着かないことが多く、初期の介入対象となり、さらに、今回を機に発達障害の診断を受けたケースもあったという。

  震災が子どもたちに与えた影響は、(1)強烈な緊張(2)自分を圧倒する恐怖感や悲しみ(3)一時的ではあれ親との分断による強烈な不安(4)転居・転校による故郷の喪失や孤立などだ。

転校生に長期間の 温かい目を向けて

  今回の震災の特徴として、福島県をはじめ転校を強いられた子どもたちが多数いることがあげられる(2万5751人/10月13日現在)。「転校生をフォローし、温かい目をずっと向けてほしい、それが私の最大の希望です」と本間氏は訴えた。

  また、子どもたちの集中力の低下や学業の低下にも注目してほしいという。「適切なケアがなされなかったことで、社会変化やリスクが増えることもあります。アメリカでは、ハリケーン『カトリーヌ』の被害後、犯罪や非行が増えました」。

  子どもたちへ対する支援の方法は、(1)安全安心な環境づくり(2)日常生活の建て直し(3)子どもたち自身が計画した活動の機会を提供する(4)感情を出せる配慮だという。

  では、学校保健として何ができるのか。本間氏は、混乱せずに「真に話を聴く」こと、平時の備えの是非が災害時に明白になるため平時が大切であること、危機的事態では保健室が多機能スペースとなることなどをあげ、平時の備えがいかに重要であるかを説いた。

【2011年12月19日号】

教育家庭新聞