保健室経営の基盤に危機管理の視点をー全国養護教諭連絡協議会 第18回研究協議会

全国養護教諭連絡協議会

開会式であいさつする堀田美枝子会長

 全国養護教諭連絡協議会(以下=全養連)は2月22日、東京・港区のメルパルクホールで「第18回研究協議会」を開催した。

  「時代の変化に対応した養護教諭の役割を追究する」〜養護教諭の専門性と役割とは〜、を大会主題に、特別講演、基調講演、フォーラムが行われ、全国から多くの養護教諭や学校保健関係者らが参加。

  開会にあたり全養連の堀田美枝子会長は、「東日本大震災をはじめ予期せぬ災害や事故に直面した時にこそ養護教諭の専門性が問われるところです。震災から間もなく2年を迎えます。フォーラムでは、各学校や地域で対応された実践を伺い、万が一の場合に備えて、学校として危機管理体制を確立し、養護教諭として保健室経営の基盤に危機管理の視点をより具体的に位置づけたり、心のケアの重要性をより明確化するための参考とさせていただきます」とあいさつした。

教職員・地域・家庭のコーディネーターに

 2月22日に開催された全国養護教諭連絡協議会(以下=全養連)の「第18回研究協議会」では、特別講演、基調講演、フォーラムを通じて、養護教諭の資質向上が目指された。

■【特別講演】取り戻したい日本人の心ー志村史夫氏

全養連

志村史夫教授

 特別講演は、静岡理工科大学教授、ノースカロライナ州立大学併任教授の志村史夫氏による「日本人の忘れもの‐寅さんに学ぶ‐」。

  半導体結晶の研究が専門だが、著書に「寅さんに学ぶ日本人の『生き方』」(扶桑社)があり、山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズの大ファンでもある。

  志村氏が同シリーズの主人公・寅さんに引き付けられるのは、寅さんが世間体や社会的権威など全く気にしないアウトサイダーでありながら、学歴や出世といった競争原理とは無縁の価値観を持ち、他人の幸せのために懸命に尽くそうとする姿勢が、最も人間らしい生き方だと感じるから。

  今の日本人は経済効率ばかり追い求める余り、礼節がおろそかになっているのではないかと説く。寅さんのセリフ「お天道様は見ているぜ」を紹介した志村氏は、「日本は『恥』の文化がある国と言われていたが、今では恥を恥と思わない人が増えてきた」と嘆く。

  「豊かさ」という言葉を新明解国語辞典で引くと「(1)必要なものが十分満たされた上に、まだゆとりが見られる様子、(2)いかにもおおらかで、せせこましさを感じさせない様子」とある。「拝金主義に偏ることなく、今こそ寅さんの生き方を思い出し、日本人が忘れてしまった恥や礼節を取り戻しましょう」と会場に呼びかけた。

■【基調講演】学校経営に学校保健を位置づけてー岩崎信子氏

全養連

岩崎・健康教育調査官

 基調講演は、文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課 健康教育企画室健康教育調査官の岩崎信子氏による、「『健康教育の推進と養護教諭の役割』‐学校保健の課題とその対応‐」。

  学校保健安全法が改正され、保健室の役割として、従来の「健康診断」「健康相談」「応急処置」に、「保健指導」が加わった。また、「地域の医療機関との連携」や「児童生徒の心のケア」が法律に位置付けられた。

  平成22年に日本学校保健会が実施した「養護教諭の職務等に関する調査」によると、小中学校の44%が「救急処置に関する校内研修」を行っていない。緊急時に迅速に対応するためには、校内研修において養護教諭が指導者としての役割を果たすことが大切。

  また、「健康観察」は小中学校では行われているが、高校での取り組みが低い。「健康観察」は、感染症などの発見だけでなく、いじめや虐待の早期発見につながるので、各学校に合った方法で実行してほしいと語る。

  「養護教諭の授業参画・実施」については、「歯と口の健康づくり」や「性に関する指導」が多いが、大切なのは自校の児童生徒の実態を把握し、健康課題を見つけることで、そこから各校に見合った指導内容を考えることがポイント。

  「健康相談」では、「学校医等による健康相談」の実施が低い。医療等の支援を必要とする児童生徒も増えていることから、「学校医等による健康相談」を学校保健計画の中に位置付けて計画的な実施が求められる。

  「学校経営の中に学校保健をきちんと位置付けて、学校全体で取り組む体制を整えることで、養護教諭の資質向上が図られることを期待します」と講演を締め括った。

■【フォーラム】震災の記録を未来に残すー東日本大震災に学ぶ

全養連

フォーラムでは子どもたちの今を映像で紹介

  フォーラムのテーマは「東日本大震災に学ぶ 養護教諭の専門性と役割とは」。名古屋学芸大学大学院子どもケア研究科兼名古屋学芸大学ヒューマンケア学部子どもケア学科教授の采女智津江氏がコーディネーターを務め、被災地から3名の養護教諭がシンポジストとして登壇した。

  岩手県・山田町立織笠小学校の村上貴美子養護教諭が勤務する地域は、津波と火災により大きな被害を受け、小学校に約280名が避難。多くのけが人が運び込まれたため、地域の保健室として開放された。

  「地域の方や数名の看護師とともに衛生医療班を作り、けが人の救急処置や感染予防に努めました。車が使用できず、保健室で亡くなられた方もいました」

  この、「地域の保健室」は4月7日まで続き、授業は4月20日再開。普通の生活に近づけることが子どもたちの回復につながると信じ、教職員は取り組んだ。今年度の準要保護児童は52・8%で、仮設住宅での生活が児童に影響を及ぼしている。それでも児童は元気に毎日登校している、と村上養護教諭はその様子を、スライドで見せた。

  宮城県・仙台市立高砂中学校の伊藤香奈養護教諭は、同市内で校舎が津波で浸水した唯一の中学校に勤務。震災当日は1000人以上を収容した避難所となり、その夜は教職員が不眠不休で対応にあたった。

  「過呼吸やパニックを起こす生徒には寄り添って落ち着かせ、動揺する生徒は友達同士で手を繋がせることで安心感を与えました。また、動ける生徒に役割を与え、責任感を持たせたことが心のケアとなりました」

  新潟県から養護教諭14名が支援に入り負担が軽減し、学校業務に力を注ぐことができた。避難所となる学校において、養護教諭は唯一の医学的知識を持つ者として救護係の役割が期待されることを、震災を通じて実感したという。

  宮城県石巻高校は、避難者1048名、生徒・職員約500名が一夜を過ごしたが、千葉久美子養護教諭は、備蓄なども無い状態で対応にあたった。「生徒を安全に保護者のもとに帰す」ことを最大の課題とし、全職員が臨んだ。

  「保健室には多くの人が運び込まれ、近くの診療所から医師が何度も往復するうちに、学校が診療所として機能することになりました。この診療所は5月4日まで続きました」

  石巻市では保健室が命と向き合う場となり、養護教諭が被災者への対応にあたった。家族を亡くした生徒も多かったが、教員は生徒に寄り添い、目標を失わせないように取り組んだという。

  東日本大震災により転校を余儀なくされた子どもは約2万人で、新しい学校に馴染めず不登校となる児童生徒も多い。震災後の調査によると、「安否確認の方法や津波からの避難を規定している学校が少ない」「保護者への引き渡しを臨機応変に対応する難しさ」等の課題があるとコーディネーターの采女氏は説明する。

  「避難所となった学校では、養護教諭が地域住民から頼りにされるとともに、そうした人に支えられて厳しい状況を乗り越えることができました。養護教諭が教職員や地域住人の間を取り持つコーディネーターとして機能しているかどうかが重要なカギ。東日本大震災での養護教諭の取り組みを記録に残し、未来の災害に備えることが大切です」

【2013年3月18日号】

 

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