【和食特集】学校給食が伝え伝承する場に

家庭の和食率「5割」以上に―スーパー食育スクール 杉並区立三谷小学校

山岸一良校長
山岸一良校長
江口敏幸栄養教諭
江口敏幸栄養教諭

今年度、文部科学省は先進的な食育の取り組みを実施する「スーパー食育スクール(SSS)」として33件42校を委嘱。東京都では杉並区立三谷小学校(山岸一良校長)が指定され「学校・家庭での和食推進の取り組みを通した社会性の向上と生活リズムの改善」をテーマに、和食教育を推進していく。同校の山岸一良校長と江口敏幸栄養教諭に、現在進行中の活動について聞いた。

和食教育で社会性を高め生活習慣の確立を図る

学校で食育を進めるに当たり、文部科学省では「食事の重要性を理解」「生活習慣を改善」「食品を選択する能力を習得」「食に対する感謝の心を醸成」「社会性を習得」「給食の充実」「食文化への理解を深める」の7つの目標を定めている。

栄養教諭を核にして 体系的な食育を実践

同校では和食教育を主体にそれを実現しようと、コミュニティ・スクールとして地域や家庭と一体となった食育を、栄養教諭を核に進めている。江口栄養教諭は、東京都の栄養教諭第1期(平成20年度)5名の一人。その年より、国産食材を使った和食中心の「国産給食」を始動した。

「"おいしい給食"はもちろんですが、"学び"の要素を入れることが食育。トピックス的な体験活動をするのではなく、栄養教諭である江口先生が本校で勤務している今だからこそ、体系的な食育を確立し、残していきたいと思っています」と山岸校長は話す。

コミュニティ・スクールの役割

それを踏まえ、昨年は学校経営方針の柱に「健康」を取り上げて活動し、「東京都教育委員会表彰(健康づくり功労)・優秀校」として実を結んだ。そして、SSSについて耳にした山岸校長は名乗りをあげた。

「本校はコミュニティ・スクールですので、食に関してデータを蓄積し地域へ啓発することで、地域全体が光っていくと考えました。そして、それは子供達のためでもあります」

SSSに求められる、食育の多角的効果について科学的データに基づき検証するということを考慮し、既に実施していた「国産給食」をベースに「社会性」「生活習慣」「和食」の3つをテーマに組み込んだ。研究の仮説は、「和食給食の増加・栽培活動や生産者との交流により家庭での和食が増加し、児童の望ましい生活リズムの向上と社会性の向上につながる」とした。

「和食教育の充実」「国産食材を活用した和食給食回数の向上」「和食食材の栽培」「食と農・水産に関わる人々との交流」「地域への発信」を事業計画に据え、最終的には大学と連携し評価を検証していくことになる予定だ。

学校と家庭で共通の和食の定義を設定

学校での活動をベースに、それを家庭へ・地域へ広げていくその波及効果に期待が持てる同校のSSS。「全教育課程において和食教育を推進し、ゴールは家庭での和食の割合を朝食5割、夕食6割にもっていくことを目指しています」と江口栄養教諭は話す。

その際「和食」の考え方としては、ごはんと(1)おかず1品、汁物の食事、または(2)汁なしでもおかず2品以上の食事を同校の「和食」と定義し、家庭と学校給食の足並みをヨえた。学校給食では、昨年100回超の国産給食を提供し、本年度は約150回を予定している。

4月と5月の2か月間では27回(全36回)の国産給食の日が設けられた。同校のWebにも献立表が掲載されており、産地やミニメモも紹介。

野菜の栽培・販売で 地域とのつながりも

国産給食
この日の給食も国産給食を提供
校内には広い畑スペースがあり、春と秋にわけて育て、収穫している(上)
「寺島茄子」の苗をプランター、土と一緒に希望する家庭へ配る(下)

子供達だけでなく保護者を巻き込んだ活動も始まった。同校の和食推進の柱の一つでもある栽培活動は、学校と家庭の両輪で行われている。

学校ではかぶ、にんじん、大根、さつまいも、大豆、小松菜、じゃがいもなどを栽培し、家庭ではベランダ菜園ができるように土とプランターと苗をセットで希望者に渡している。5月には昨今注目を浴びている江戸東京野菜の一つ「寺島茄子」を70家庭に配布。同様に、秋には「亀戸大根」を配布する予定だ。

家庭への配布はSSSに指定された今年度から始めたもので、5月には毎年田んぼを借りている山梨県忍野村での、保護者による田植え体験も実施。子供達の社会性を育むだけでなく、保護者にも生産者への感謝の気持ちや国土を大切にする思いが育まれている。

また、学校から徒歩数分の都立農芸高校の畑を借りてトマトを育てているが、収穫後はトマトケチャップに加工して販売する予定で、現在5年生が理科で発芽を観察中のいんげんも、学校行事で販売していく計画だという。

これらSSS事業の活動は、山岸校長が「校長だより」として随時保護者へ報告。リーフレットにして、配布できるようにしたいと思案中だ。

米飯の習慣化で 食卓の変化に挑む

和食を家庭で50%以上取り入れていくためには、和食の見本を示していくことも重要である。同校の調査ではまだ20%程度にとどまっているので、保護者の声を取り入れるなど「メニューブック」を作る準備を整えている。

1学期はまずごはん(お米)を家庭で食べる習慣をつけ、2学期からは味マやだしについて学んでもらい、3学期には自然に和食が食卓に並ぶようにしたいと江口栄養教諭は家庭での和食の浸透を段階的に考えている。「和食は"旬"の食材を取り入れやすい料理です。なぜ和食が良いのか、また文化として子供達に伝えていくためには、社会の実態を見ていくと同時に学校給食で食べ、教えていかなくてはならないと思って取り組んでいます」






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【2014年6月16日号】

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