学校給食・食育特集 和食・地場産物で育む心とからだ 

平成25年に和食文化がユネスコ世界無形文化遺産に登録された一方で、家庭での食事は洋食中心となり、子供たちが和食を食べる機会は減っている。そこで、まずは学校給食から子供たちに和食を食べる機会を増やしていこうと、全国30名の和食料理人を中心とした「和食給食応援団」が平成26年度に結成された。9月15日には今年度のキックオフイベントならびに調理実演が、都内で開かれた。

学校訪問で和食推進 自治体ごとの活動へ

和食給食応援団2年目へ

和食応援団
キックオフイベントに登壇した応援団の料理人。「給食から和食を」と語る奥田透氏

 「和食給食応援団」は、プロの和食料理人が全国各地の小中学校を訪問して、栄養教諭や栄養職員に和食のメニュー提案などを行うもの。昨年度より本格的に始動し、30名の和食料理人と農林水産省、文部科学省、大手食品メーカーが連携。昨年度は全国26校で取組が行われ、食育の授業に参加した児童生徒数は6454人、9万1414食に及んだ。

 昨年度、学校訪問前に児童生徒の食生活に関する調査を実施。その結果、家庭では1週間の朝食(7食)のうち5食がパンで、1日に1回も米飯を食べない子供がいるという現状が見えてきた。

 そこで、和食給食応援団は全ての給食が和食であってもバランスが取れるのではないかと提案。訪問校の栄養教諭や栄養職員の理解を得られたことで、訪問後には米飯給食の回数や和食の提供回数が増えているという。

 昨年度、千葉県南房総市立嶺南中学校を訪問した「鮨 小野」の小野淳平氏は、県内には海があるが学校は内陸で、海の幸を食べる機会が少なく寿司が苦手な生徒もいるという声を受け、総合的な学習の時間に生徒の目の前で寿司を握った。内房と外房から届けられた新鮮な魚を使った寿司を食べ大喜びだったという。

 福岡県北九州市立藤木小学校には、地元店「御料理 まつ山」の松山相三氏が訪問。5種類の漬物を使って美味しく見える盛り付けの仕方を伝える中で、食べる人への思いを込めて食事を出すことの大切さを児童は学んだ。
今年度は、より多くの学校給食関係者と接点を持つため、学校の訪問数を12校に減らし、教育委員会を通じて栄養教諭・栄養職員に集まってもらうことにした。全ての自治体を訪問することが目標だという。

 課題は調理の設備面 安全と味の両立を

和食給食1
和食給食2
料理人が実演。鰤や大根、昆布を使ったり(上)、幽庵焼き(下)など給食でも作れる献立

 キックオフイベントでは、「学校給食で和食をどう進めるべきか」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

 パネリストの一人、東京都墨田区立押上小学校の松本恭子学校栄養職員は「『和食を給食に出すと残る』と口にする栄養士もいるが、子供たちは白いご飯は好きでそれに合うおかずも好き。学校給食で和食を出す際に問題となるのは、調理場の設備面。大量調理では煮込み料理が上手くできることから洋食を美味しく感じるのだと思う」と課題を挙げた。

 「京料理 たか木」の高木一雄氏は「スチームコンベクションがない学校もあり、それではプロの調理人でも大量の和食給食を出すのは難しい。安全は第一だが安全性を求めるあまり、美味しい給食が提供できなくなるのは問題。それらを両立させるためにも最低限必要な調理設備を整えてほしい」と述べた。

 キックオフイベントの最後には、「和食給食応援団」から7名の和食料理人が登壇。「銀座 小十」の奥田透氏は「世界に誇れる和食というが、国内では家で和食を食べない上、学校給食でも和食が少ないという問題を抱えている。日常であった和食が非日常になってしまった今、給食から和食を取り戻していきたい」と決意を新たにした。

 季節の素材を使って 和食給食献立を考案

 続く第2部の調理実演では、来場した栄養教諭らに対して、和食料理人が学校給食のために開発した和食給食献立を実演。難しいものではなく、日本の文化を伝えるためにも和食給食を提供する大切さを知ってもらうことがねらいだ。

 1品目は「ご飯、鰤と大豆の大根あんかけ、筍と若布のごまみそ和え、紅白うまみ汁・雑煮仕立て」、2品目は「ご飯、鰆のみそ幽庵焼き、もって菊と菊菜の白和え、蕪と鮭のみぞれ仕立て」。いずれも季節の素材を取り入れ、和食が苦手という子供でも喜んで食べられることを考慮。

 

【2015年10月19日号】

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