生活で生かす食育に

食育推進全国大会で実践を報告

6月11日、12日の両日、福島県郡山市で東北初となる「第11回食育推進全国大会」が開催された。ブース展示の他、学校給食や食育を主題にした講演や報告会が行われ、スーパー食育スクール事業を中心に、学校給食を教材とした食育の広がりが確認された。

担任と栄養士が連携 "知識"を"実践"に

講演:女子栄養大学 金田雅代名誉教授

金田氏教材
金田氏が教材として使用された献立を紹介

女子栄養大学名誉教授の金田雅代氏による講演「学校給食と子どもたちの食育」では、学校給食を生活につなげる実践的な食育の工夫が紹介された。

日本の学校給食は、昭和29年の学校給食法の制定から、食事内容の多様化、給食業務の合理化などにおいて大きな変遷を遂げてきた。平成20年には法改正に伴い、その目的に「食育」の観点を追加。これにより、学校給食の役割は単なる栄養補給ではなく、学校教育の「生きた教材」として明確化された。

学校給食や食育の法的整備が実現したことについて金田氏は、「日本だからできたこと」と話す。日本の学校給食制度は、高い栄養摂取基準や徹底した衛生管理などで、海外からの評価も高い。昨年開催されたミラノ万博では、和食継承の場として学校給食が取り上げられ、大きな注目を集めた。

厚生労働省の調査では、平成16年から26年までの20歳以上の食塩の摂取状況は減少傾向にあるが、金田氏は「食育の法整備後に学校給食を経験した世代が成人になり、食育の成果が少しずつ出てきている」と分析する。

しかし、平成28年から始まった第3次食育推進基本計画では、依然として若い世代を中心とした食育が重点課題であり、「教科書で得た知識を生活で生かす力につなげられなかった。学校給食を通して、知識≠実践≠ノつなげる必要がある」と提言した。

献立と教科を連携 実物教育が実践に

教科学習と連携させた給食献立の作成は、「食の重要性」「食品を選択する力」「感謝する心」の育成などにつなげられる。

例えば中学2年生での英語科の「ハンバーガーの注文」を題材とした学習との関連付けだ。授業時期に合わせて献立にアメリカの料理を取り入れ、生徒の食に対する関心を高める。「食育における実物教育は実践につなげやすい」と金田氏は話す。

栄養士が作成する献立表についても、「家庭と給食をつなげられるように、時代とともに変えていくべき」として、親子で給食の話をするきっかけとなるような工夫を促した。家庭の食卓でも実践できるよう、地元野菜の使用をアピールすることも工夫のひとつだ。

また、栄養教諭・学校栄養職員が指導できる時間は限られていることから、「担任が給食という実物の教材を活用して食育を行い、家庭での実践につなげることが必要」と、食育における実物教育は、栄養士のみならず、担任も含めて活用することが重要であるとまとめた。

SSSの取組みで目に見える効果

「平成27年度スーパー食育スクール(SSS)事業実践報告」では、文部科学省が行うSSS事業において、福島県内の指定校から実践の成果が報告された。発表は、平成26・27年度にSSSの指定を受けた新地町の全小中学校(福田小、新地小、駒ケ嶺小、尚栄中)と、27・28年度の指定校である三春町立三春中学校の食育事業だ。

福島県新地町

地場産物活用と意識を高める取組

原発事故の影響による地場産物使用の敬遠や、肥満傾向児の増加などの問題を抱えていた新地町は、学校給食における地場産物の活用について26年度に実践。それを踏まえ27年度には家庭での地場産物活用と食と健康の意識向上を目指した。

家庭の町産食材利用前年度比22%増加

26年度に引き続き、27年度は学年別の食育講座・講演会を中心に進めた。地元出身のシェフの指導による親子料理教室「新地町産の野菜をおいしく食べるイタリア料理」など、地場産物を活用した各種授業を児童・生徒のみならず保護者の参加も促しながら実施。

それらの結果として、アンケート調査では、家庭での町産食材使用の割合が26年度と比較して20%増加し、保護者の99%が「食育が大切」と回答。様々な取組が、家庭における地場産物の活用に大きく影響を与えている。

学校給食の地場産物 震災前に近い水準に

学校給食における使用地場産物数(県全域)は、27年6月に67品(前年比45品増)、11月に103品(同17品増)。地場産品の使用割合も増加し、震災前の数値に近い水準まで回復したという。

安全管理体制については放射性物質測定機を設置し、給食食材の事前検査、給食1食丸ごと検査を実施。入口・出口検査を徹底し、Webでも公開している。

児童の運動量を計測し肥満児傾向の出現が減

小学校の児童へは、運動量を確保するため「業間チャレンジ」を実施。運動会後の体力向上と肥満解消を目指し、業間に5分間の持久走を行った。児童の運動量を計測するため、活動量計(タニタ社製)と体組成計を活用。肥満傾向児の出現率は28年度には小・中学校ともに低下し、活動量計の導入をきっかけに、通学を徒歩に切りかえた児童も現れたという。

三春中学校

給食を目安に食習慣を見直し

三春中 身体測定
三春中は身体測定の結果を食育につなげた

三春中学校では、肥満・痩身生徒の出現率が、全国平均値を大きく上回っていたことを受け、食育に対する意識向上を喫緊の問題とし、生徒一人ひとりに合わせた食の課題を提示。学校給食を目安量として家庭での食習慣を見直し、自らが改善し行動できることを目指した。

身体測定の結果から主食の中央値を決定

まず4月に実施する身体測定の結果から、給食時における全生徒の必要カロリーを算出。その中央値となる主食の量を決定し、給食に反映した。同様に9月、1月の測定で再計算する。加えて、給食の栄養成分含量を算出し、個人の給食摂取量を計測。個人レベルで、給食時に必要なエネルギー量と、実際に摂取しているエネルギー量を比較し、実態を数値で明らかにした。

総合で弁当箱法を活用 食事量を可視化

さらに総合的な学習の時間では、必要なカロリーと同じ容量の弁当箱を利用し、個人で食事の目安量を可視化する「弁当箱法」を活用。生徒に自分の必要な食事量を把握させると共に、家庭での食事量の見直しにつなげた。生徒からは、「朝食の量が少ないため、改善したい」「自分に合った量を考えて食べていきたい」などの声があがり、自身の食生活の振り返りと、今後の生活につなげていった。

学校給食を目安とした食育指導の結果、1月の身体測定では、2年生の肥満傾向の生徒が全体の5・5%(4月8・2%、9月6・4%)に減少するなどの効果がみられた。

 

 

【2016年7月18日号】

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