10年後の栄養教諭が向かう道

児童・生徒の心身の変容を「科学的根拠」で示せる人材に

平成17年度に34名から始まった栄養教諭制度は、27年4月1日現在で5356名に増加し、「学校給食」を教材にした「食育」の牽引者として活躍している。平成24年から(公社)全国学校栄養士協議会(以下、全学栄)会長に就任した長島美保子会長は、自身も平成19年に島根県で栄養教諭となり、全学栄会長に就任する前まで5年間奮戦してきた。長島会長に、これまでの10年余りの栄養教諭の活躍と、今後10年への期待を聞いた。

子供の意識が高まり教員・保護者から信頼

長島美保子会長
全国学校栄養士協議会
長島 美保子会長

「食育の教科があるわけでもなく、栄養教諭の明確な位置づけもないまま、栄養教諭は食に関する指導≠ニ学校給食の管理≠フ両立に務めてきた。食に関する指導の全体計画を作成し、それに沿って教職員と連携し指導するという重要な仕事も加わった」

これまで以上に系統立てた食の指導が求められる中、栄養教諭はその専門性と連携調整能力を発揮して、学校・家庭・地域をつないだ活動に一生懸命取り組んできた。

「栄養教諭配置校の管理職からは、栄養教諭がいることで子供たちの食への意識が高まった∞アレルギー対応のキーマンとして、教員も保護者も信頼している≠ニの声も聞いている」

総務省の政策評価 食育体制の整備に寄与

平成27年10月、総務省の食育の推進に関する政策評価が発表され、栄養教諭について「栄養教諭の配置が学校における食育に関する体制の整備に寄与していると考えられる」と評価を得た。

一方で、「児童が朝食を欠食する割合の減少への寄与は明確には把握できなかった」など、その変容を数字に示すことがまだ不十分という認識も示された。長島会長は、「栄養教諭の関わりによって児童・生徒が変わった姿を見える化≠キることが、栄養教諭の今後10年を左右するとも考えている」と話す。

様々な教科と連携しながら、「食への意識において、この児童、この生徒を卒業するまでにこのように変容させたい」という具体的な食育の姿を示すことが、栄養教諭の役割だ。そのためには「学校給食」を教材としていかに活用するかがポイントとなるが、「食の全体計画を視野に献立の年間計画を立て、季節、旬、行事などを盛り込み、教材としてメッセージ性のある給食を提供してほしい」と長島会長は願う。

また、総務省の政策評価で、朝食欠食の割合を減少させることへの寄与が明確に把握できなかったとされているが、栄養教諭の指導により「朝食を大事と考える℃剴カ・生徒の割合が向上」、同様に「朝食の内容≠ノついて品数が増えた」など、栄養教諭の関わりを科学的根拠で示せるような取組も必須だという。

栄養教諭制度が始まった平成17年は、食育基本法が施行された年。現在の大学生は、小学校から食育を学んできた世代だ。地元の島根県立大学で教鞭を執る長島会長は、これまでなかった傾向として、小・中学校の時代に栄養士と話したという学生が増えていることを実感している。

「ここ数年、給食献立をイメージできる学生が増え、栄養士との会話や食育の内容を覚えており、小・中学校で学んだ食育の姿が明らかに見てとれる。栄養教諭が関わった食育の本当の成果は、これから見えてくると思う」

地域の教育力や民間の活力とも連携

平成26年から、食育を科学的に検証しその成果を広げていこうと、文部科学省がスーパー食育スクールを始めた。そこからは、様々な産官学の連携も生まれている。

「チーム学校≠フ中で栄養教諭が核となり、教職員と共に家庭・地域連携のもとに食育に取り組むことが大切だが、その際に民間の活力≠竍地域の教育力≠活用できるよう、アンテナを高くして、連携のネットワークを作っておくことも重要となると思っている」

 

 

【2016年7月18日号】

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