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第40回 【教職員のメンタルヘルス】時期に応じて職場環境の改善を

夏季休業期間にこそ取組みたい「メンタルヘルス計画」の再検討

どの職場においても新たな年度を迎えるにあたっては、前年度の反省を踏まえて改善点をリストアップし、リスクを予想し、より効果的な教育活動を実現するための計画を立案します。組織が硬直しないために欠かせない事ですが、これが優先されてしまうと、教職員のメンタルヘルス面では逆にリスクが増大する危険性をはらんでいることも見過ごせません。

1 「メンタルヘルス計画」再考のための視点

夏季休業期間に、教職員がより安心して職務に励める職場を目指し、「メンタルヘルス計画」を再考することが必要です(下の表参照)。

具体的にどの様な視点で再考したら良いでしょう。学校組織の特徴は「人が人に、直接的・間接的に、様々な働きかけをして成長を促す組織」と言えるでしょう。学校組織における「人に対する対応」は、考えられる最良の方法でなければなりません。児童生徒に対応するための生徒指導では「問題が100あれば、その対応は100通りある」と言われ、長い期間取組まれてきました。

ところが教職員のメンタルヘルスは歴史の浅い分野ですから、計画を再考する際には−−

@教職員の実態・意見を広く見聞し、的確な現状分析をする、A一人職≠フ教職員について、管理職が率先して正確な状況把握をする、B当初計画を変更する勇気を持つ、C予防的な視点を重視して再考する

この4点を最低限おさえておく必要があります。

問題が発生してからでは、解決するまでの時間と労力は予防の時間と労力の何倍にもなるのです。

2 予防的視点から取り入れたいこと

(1)年度当初に予想されなかった事案が、新学期も継続する可能性がある場合=全教職員が当該事案について情報を共有する。情報共有に特化した会議を開催し、主担当の職員に孤立感や不安感を抱かせない準備が必要です。

【年度当初の計画に潜むリスク】
■組織体として
学校全体で新たに計画した取組や、前年度から改善した取組は、誰にとっても初めてである。
前年度から続く取組は、職員の入れ替えで、これまで発生しなかった事案が発生する可能性がある。
■人間関係の面
職員の異動により、それまで職場の中で保たれていた人間関係のバランスが崩れる可能性がある。
児童生徒、保護者との関係が新しくなったこと、変化したことにより、新たな課題が発生する。
■自分自身のこと
生活での新たな出会い、突然の離別、不慮の事故等、当初予想しなかったことで、職務が影響を受ける。
新たな校務分掌を担当したことで、不安や戸惑いが発生する。

(2)年度当初に大幅な人事異動や途中で人事交代等があった場合=2度目の職員室開きを実施する。生徒指導では、長期休業明けは年度当初と同様に「人間関係の再構築」をする必要性があると言われ、グループエンカウンターを始め様々な実践が行われます。教職員間でも、夏季休業終盤に同様に取組むことで、若手教職員や初めて職場に着任した人には、今後の不安感が軽減されメンタル不調のリスクが回避されます。

(3)複雑な生徒指導事案、保護者対応事案の発生が想定されている場合=それら事案の予備的知識を全教職員で共有し、万が一発生した場合の窓口を一本化(管理職の担当がベター)し、担当者の不安を減らす体制を整備し準備する。

「ハッとした、オヤッと思ったらすぐ行動」「悲観的に準備し楽観的に対応」。生徒指導分野で常に言われているこの言葉は、教職員のメンタルヘルスでも大切なことを言い表しています。

3 「パワハラ」への心がけ

最後に管理的立場の教職員が心がけることの一つに、いわゆる「パワハラ」への対応があります。夏季休業中に、自らの対応について冷静に分析することが大切です。できるだけ同じ職場の管理的立場の者同士で話し合い、相手の意見を取り入れる謙虚さと、勇気を持つことも必要です。『過(あやま)ちて改(あらた)めざる是(これ)を過(あやま)ちという』。この言葉を肝に銘じて、管理的立場の方にはメンタルヘルスに取り組んで頂きたい。

 

執筆=多田出 正(ただいで まさし)日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会常任理事、埼玉県公立中学校スクールサポーター、元公立小・中学校長、元市教委生徒指導担当指導主事、元県立総合教育センター主任指導主事

 

【2017年7月24日号】

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