教育家庭新聞・健康号
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医療の現場から子どもの心を考える
1.反復性腹痛の事例
岡田謙医師(関東中央病院 精神神経科部長)
はじめに

 事例は、公立幼稚園に在籍の6歳男子(以下Cl・と略)。反復する臍周囲部の痛みを主訴に、小児科開業医を受診、そこで心因による反復性腹痛と診断、筆者を紹介された。

 Cl・の家族は両親と2歳上の姉の4人、特に既往歴はなかった。初回面接は筆者が行った。以後週1回50分の母子並行面接をCl・は女性治療者が、母親は筆者が担当した。
経過の概要

 Cl・との第1回面接では、「〇君に傘で叩かれた」「×君にお菓子をもってこいと脅かされた」など、“いじめ”の話が矢継ぎ早に飛び出した。第2回面接では、「ウルトラマンエースは×という怪獣に倒されたが、ウルトラ兄弟が助けに来た」という“死と再生”の話をし、面接終了間際に箱庭の砂に少し触れたが「何か痛い」といって遊ばなかった。

 第3回面接では“いじめ”の話は少なくなり、砂に手を入れ「気持ちがいい」と砂の中のゴミを取り出した。第4回と第5回の面接では砂遊びが中心となった。「金魚死んでる」と金魚のおもちゃを砂に埋め、それを再び探し出すという遊びに熱中した。第6回の面接からはかくれんぼが加わり、腹痛の訴えは第7回から消失していたため、母子合同面接を筆者が行い、治療終了を伝えた。

 並行して行っていた母親面接では当初、母親は強い不安を示していたが、支持的精神療法でその不安は軽減した。また、途中、Cl・が退行した時期には母親に対する甘えが強く、それを十分に受け入れるよう指示した。
回復する力

 人間の心には年齢を問わず、心の状態が歪んだり、疲れてしまったり、傷ついた時にそれを回復しようとする力が備わっている。それを自己治癒力という。

 この事例では、砂遊びを通じて治療的退行が生じ、Cl・自身による心の内面の整理が行われた。すなわち、砂遊びとかくれんぼに共通する“かくす”“見つける”ということは、心の「死と再生」を意味し、「今までのいじめられていた弱い自分」を(心理的に)死なせて、「あたらしい強い自分」を探していたと考えられる。
4歳から6歳まで

 人間は0歳から3歳までに、将来自立した社会生活が送れるよう生活の基盤を作る。母親との1対1の人間関係を中心に、言葉はなくても心と心は通じ合えること、心と心のやり取りが大切であることを学ぶ。これは「三つ子の魂百まで」ということわざの通り。子育てにおいて、母親の存在を支える父親の生き方が重要視される理由はここにある。

 4歳から6歳までの間には、将来大人になったら体験するであろういろいろなことの予行演習が始まる。生活の場が家中心から外へと拡がり、家族以外の他人との人間関係も増えていく。その中で、自分の思い通りにならないこと、自分が傷ついてしまうこと、自分が我慢しなければならないこと、自分をしっかりと表に出さないといけないこと、などを体験する。失敗すること、挫折すること、傷つくこと、叱られることを恐れずに、自分のやりたいことがやりたいようにできる試行錯誤の機会を子どもに提供することが大人の仕事である。その中で子どもは自分の資質の特徴、傾向、限界を知り、できることとできないこと、やってもよいことといけないこと、自分1人の力ではどうしようもできない時にどうしたらよいのかを学ぶ。無我夢中で生きている自分を、親が支え、見守ってくれていると感じている子どもは、個性を生かし、自分らしくたくましく育っていく。

 今回の事例で、症状が早期に消失した背景には、0歳から3歳までの母子関係がよかったことがある。

支持的精神療法=患者の症状などの訴えを聴いて受け入れ、それらが何によるものかを説明。さらに病気からの回復を保証し、回復へ向けて患者の行動や意思を支え、時に助言を行う療法。


【2004年7月17日号】