教育家庭新聞・健康号
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子どもの心と体の健康
21世紀の駄菓子屋さん
自然体で子どもと関わろう
ただの子どもで居られる場所
遊びと駄菓子屋たかさんち店主 高橋裕香子さん(右)と母親の愛子さん
東京都レクリエーション協会公認講師
余暇生活開発士
遊びと駄菓子屋たかさんち店主
高橋裕香子さん(右)と母親の愛子さん
 東京・新宿から京王線で10分、世田谷区と杉並区にまたがった街・下高井戸は、昔の宿場町の面影を残し、今でも数多くの商店でにぎわう街である。そんな街の一角に高橋裕香子さんが営む「あそびと駄菓子屋・たかさんち」がある。高橋さんは長年「あそびプランナー」として、児童館、教育委員会、子ども関係施設などで子どもや指導者に遊びの提供をする活動を行っている。その肩書き「東京都レクリエーション協会公認講師」は協会の認定資格であり、のちに「余暇生活開発士」を同協会の第一期生として取得した。いわば遊びのプロである高橋さんが自宅を開放してオープンした駄菓子屋。その意図するところはどんなことなのだろうか。
(レポート・中 由里)


世界一落ち着く
  駄菓子屋

「たかさんち」は下高井戸公園通りの商店街からほんの少し路地を入ったビルの1階にある。大きな看板やこれといったディスプレイもなく、失礼ながらうっかり見落としてしまいそうなほど目立たない。しかし、学校がひける時分になると、たとえ店の戸が閉まっていても子ども達がこの小さな間口目指して集まってくる。

 並んでいるのはお馴染みのごえんチョコ、うまい棒、粉ジュース、ミルクボーロ、おいしいゼリー、ブタメンなど約百種類、いずれも5円から50、60円で高くても100円程度の値段だ。これらの駄菓子を高橋さんとお母さんとで手際よくさばいていく。店の一角には小さなベンチが置かれており、子ども達はここで寛ぐが、店からはみ出てしまった子達は路地で立ち話。顔ぶれは次々と変わる。

◇ ◇ ◇

−−駄菓子屋を開こうと思ったきっかけは何ですか?
 遊びプランナーとして長年子ども達と関わっているので、その経験を生かして今度は自分の地域で子供の居場所をつくりたいと思ったのです。子ども達にどんな場所がいいか聞いてみたところ、「子どもを集めるならお菓子を置けば」と言われ、ひらめきました。ところが、オープンにあたり都内の駄菓子屋をリサーチしてみると、高齢化と少子化の影響で衰退の一途を辿っており、どこも万引きや子どものマナーの悪さに対する不満が多くて、あまりプラス材料にはなりませんでした。そこで、私の店はもっと子どもとおおらかに関われる、居場所としての駄菓子屋にしたいと思いました。

−−現代の子どもの居場所が不足しているとお考えですか?
 学校、家庭、塾やお稽古事の場という場所はありますが、ずっと誰かに監視され、何か外れたことをしてはいけないという目で見られているのではないかと思うんです。だから子どもには、放っておかれて、しかも誰かに見守られているという時間とスペースが必要だと考えました。子ども達は隠れ家、秘密基地などと呼びます。ここではお菓子を買って食べて遊ぶだけのただの子どもでいられる。「落ち着くー」とため息をつく子どもも多いです。

今も昔も子どもは変わらない
今も昔も子どもは変わらない


子どもの
  居場所って?

 昔は地域の路地や空き地が居場所だったのが、犯罪の増加や地域の変化、大人の意識の変化などが原因で子どもが安全に遊べる場所がなくなってしまったんですね。初めはよかれと思って子どもを安全な囲いに入れて育ててきたんでしょうが、結果、子ども同士はもとより、大人と子どもが日常無意識のうちに触れ合える空間がなくなってしまった。そして長い期間を経て、そうした環境が生む歪みに人々が気づいたんです。ここへきてやっと、子どもは地域の眼で守って育てていくのが自然だと考える大人が増えてきました。行政もここ2年くらいで真剣に「子どもの居場所」を考えるようになってきて、ああ、やっと追いついてきてくれたなと思います。

 子ども達はここを自分たちの落ち着ける居場所として大切にしてくれています。大切な場所だから、自分達で気をつけてトラブルが起きないようにするし、私達にも協力してくれます。ずいぶん大きくなってもたまに通ってくる子もいますが、大きくなったなりに周りの小さい子に気を遣っていますね。もう卒業しなきゃと言いながらもここへくる。だから私も来てくれるうちはその子の居場所であり続けたいと思います。お互い憎まれ口叩きながらですけど。



子どもの
  自主性を尊重

−−遊びのインストラクターとは、遊びを教える先生ですか?
 「教える」というのは正しくないです。子どもはもともと遊びを思いつき発展させる力を持っています。ただ、何かしたい気持ちはあるけれどもどうしたらいいかわからないというような子がいれば、その時に助言をします。それできっかけがつかめたら、あとは自分達でやらせる。ここでも、場所さえあれば子どもは何かすると思っていますので、特に口は出しません。ちょっとしたトラブルでも、できるだけ子ども達で解決するように見守っています。逆に何も働きかけなくてもあれこれ相談を持ちかけてくる子もいます。

−−「今どきの子どもは遊びが下手で、導いてあげなければならない」という人もいますが?
 それはないと思いますよ。「今どきの子供」と言われることが残念です。子どもは昔も今も本質は変わりません。そういうことを言う大人に何かを言うより、子どもに直接関わる方が効果的だと思っています。

 開店当初は工作やゲーム大会などのイベントでも、子ども達を集めましたが、2年目を過ぎたころから口コミなどで客足が増え、何もなくても子ども達が自然に集まるようになってきました。ただ集まっておしゃべりするだけでも子どもには遊びになるし、お小遣いの範囲で選べるお菓子もある。子どもたち自身が居心地のよさをつくってきたような感じです。つくづく、遊びや楽しみは子ども自身の中にあるのだと思います。

 

皆な顔見知り
  という環境を

−−今年開店七年目ですが、すっかり地域に溶け込んでいるようですね。
 子ども達だけではなく、大人との関わりも盛り込んでいければ本当に地域の心地いい居場所になると思います。この春ごろから、子育てが終わった年頃のお母さん達から子ども相手の活動のお手伝いをしたいという申し出が出始めたんです。それは予想外の嬉しいことでした。世田谷区では公益信託「まちづくりファンド」の一環として「まちづくりはじめの一歩」という、これから町のために活動を行う団体に対しての助成を行っていまして、これにこの仲間達と駄菓子屋サロン「ハローサークル」として応募しました。先日内定が出まして張り切っています。何を行っていくかはこれから練り始めますが、当面は勉強会を重ねていきたいと思っています。ひとつ明確に掲げている目標は、「大人も子どもも顔見知りの町」をつくるということです。地域の中で大事なことは、ごく簡単すぎて見逃されがちですが、子どもも大人もみんなが顔見知りになり親近感を持つことなんです。そのきっかけを提供できる店でいられればと思います。

子どもは
  そのままで

−−高橋さんが考える地域の子育てとはどういうことですか?
 子どもにとっては何気ないことが大事です。大きなイベントを行う事業は、それはそれでいいことだと思いますが、私の店は何気ない店でありたいと思っています。

 子どもを構い過ぎず、いじり過ぎず、どうこうしないでそのままにしておくのがいいですね。そして信じること。世の中にはこういう環境の子はこうだと決めつけてかかる大人もいますけれども、子どもは子ども、みんな同じです。間違った方向へ行かないように気をつけて見ていれば、ちゃんと自分で育ちます。人生は長いから悪い方向へ行くこともあると思います。巻き込まれることも含めて。でも、この子は大丈夫だ、という考え方で見ていたいんです。誰でも病気にかかるけれど、病気はいつか治るし、病気にならないように鍛えることもできます。生きる力の免疫力を強くしてあげる、それが周りの大人の役目だと思います。

【2005年6月11日号】