教育家庭新聞・健康号
TOP健康号子どもの心とからだの健康   バックナンバー
子どもの心と体の健康
思春期健康相談モデル事業
より深い知識と高い意識を
 平成16年度末から「思春期健康相談モデル事業」として、東京都医師会と東京産婦人科医会は、産婦人科医を都立高校2校へ派遣している。産婦人科医が公立学校の活動に参与するのは歴史的にも画期的なことだが、このような働きかけが高校生にとって必須になってきた厳然たる問題があることは、識者の間では周知のことである。思春期の青少年を取り巻くさまざまな事情を考慮し、さまざまな立場の専門家が連携して事に当たる必要がある。事業の発足当初から尽力してこられた、東京産婦人科医会常務理事・東哲徳氏、東京都医師会理事・近藤太郎氏に詳細を伺った。
(レポート/中 由里)


討論・議論を
  重ねて

−−現在、中・高校レベルで、産婦人科医が必要になってきたという逼迫した状態があるのですか?
思春期健康相談モデル事業について語る両氏
思春期健康相談モデル事業について語る両氏
 近藤 健康相談活動等の実態調査の結果では、都立高校の養護教諭から、産婦人科医が必要であるという意見が精神科医に次いで二番目に挙がってきています。日本医師会でも、若年層の性問題が非常に悪化しているということが認識されています。先進国の中では日本が最悪の状況です。

 東 私は開業医ですが、性の問題を抱えた10代・20代の人達が毎日来院するという現実を見続けてきました。望まない妊娠も性感染症も、知識があれば防ぐことはできるのです。いかに知識を与えられるかということが長年の課題でした。
−−実際に産婦人科医を学校の機構の中に組み込むことについて何か問題はありましたか?
東京
産婦人科医会
常務理事
東 哲徳さん
東 哲徳さん
 東 生徒にはそれぞれの家庭環境、社会環境、精神的・肉体的個人差、あるいは彼らを取り巻く宗教・思想環境などがありますから、全人に順応できる性教育はないのです。ですから、産婦人科医が性教育を行うというのは、母性サイドから見た教育ができるという点ではいいのですが、やはり違う視点から見た場合異論も出てきます。例えば医療側から見れば、ピルの普及や避妊具の知識などは重要な問題ですが、教育現場においてはどうかという議論が出てくるわけです。

東京都医師会
理事
近藤 太郎さん
近藤 太郎さん
 近藤 東京都医師会としては、学校現場で産婦人科専門医に活躍してほしいと考えていました。東京産婦人科医会では医療対策委員会の中で討論されていましたが、検討する中で、いきなり教育の場に産婦人科医が入るよりは、医師会の中でできるだけ討論を重ねた上で、慎重に事を進めていくべきという考えに至ったのです。
 まず、東京都医師会を本部として、東京産婦人科医会の代表メンバーが入って検討するという方法を取りました。さらに、現実に養護教諭による健康相談の中で困られていたわけですから、都立高等学校養護教諭代表にも加わっていただきました。現場で生徒に接する保健体育担当教諭代表、さらには校長会代表も必要になり、東京都教育庁学務部・指導部、地域保健に関わる東京都福祉保健局にも加わってもらいました。学校保健は多くの専門職種から成り立っているわけですから、多方面の方々の意見が必要なのです。
 平成15年度から多くの議論を重ねてきて、ようやく導入することができました。


よきアドバイザー
  として


−−学校での具体的活動を教えてください。
 近藤 学校によって課題は異なりますが、基本は、一つ目は教職員への産婦人科領域の知識や情報をレクチャーする活動、二つ目は、生徒への健康講話、三つ目が保護者への健康講話、この三種類です。
 また、養護教諭、あるいは担任教諭が日常の健康相談を行っていく中で、スーパーバイザーとしての役割を持つというのも大事なポイントです。生徒と専門医が直接会話を交わすと、それは学校という場を利用した医療になってしまうのです。学校で行われることは、医療相談というよりは生活指導であるべきですから、生徒と直接関わるべき人物は教諭であり、そこへ専門的なアドバイスをするほうがいいと思います。
 また、「いざという時の」医療との連携も重要です。明らかに性感染症や妊娠が疑われると保健室で判断した時、学校現場のことをわかっている専門医がいれば、いろいろな配慮ができます。10代の生徒が保護者とともにではあっても産婦人科の医師を訪ねるというのは、よほどの心構えが必要です。心理的なサポートや医療についてのインフォメーションがあれば、安心感を持ってもらえるのではないかと思うのです。

 東 大事なのは、当事者が一番安心できるところで相談ができるということです。多くの生徒たちは問題があっても親には言いたがりません。誰にも言えなくて問題が大きくなってしまうことはつらいことです。身近に心を開ける相手がいることは大きいことです。


急がれる
  整備の充実


−−今後はどのような展望をお持ちですか。
 近藤 いずれ、相談の事例が増えれば、事例集なども作れるでしょうし、健康講話のマニュアルも作成できると思います。そうした内容が各関係者に行き渡れば、それぞれの役割がより深く捉えられるでしょうし、お互いの連携も深まると思います。

 東 私たち産婦人科医会は平成11年ごろからこの思春期相談教育の立案化を検討していました。しかし、ここに至るまですでに6年がたっているわけです。理想とする線まではさらに数年から十年かかると思います。しかしそうしている間にも子どもたちは育っていってしまう。医師会、学校現場、行政の三位一体で真剣に取り組まなければならない問題です。大都市である東京都である程度の整備ができれば、各県も追随してくると思うのです。そのためにも絶対失敗はできません。

【2005年12月17日号】