教育家庭新聞・健康号

子どもの心とからだの健康

被災地の子どもたちとともに歩む

 東日本大震災から2か月余りが経った。復興への声は高まっているものの、原子力発電所の事故はいまだ収束できず傷跡は大きい。各都道府県は、震災発生以来、福島県知事からの全国知事会長に対する緊急要請に応えて、震災による被災者、原発事故による避難者の一時避難場所を提供している。学校現場ではこの春新学期を迎え、都道府県の公立小中高校の被災児童生徒の就学受け入れも行っている。文部科学省の調査では(4月20日現在)、3県を除く44都道府県が被災児童生徒を受け入れており、中でも埼玉県は1101人と最も多い。昨年度児童数369人であった加須市立騎西小学校では、現在101名の被災児童を受け入れ、456名でスタートした。現場の状況、問題点、今後の展望を伺った。(レポート/中 由里)

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埼玉県加須市立騎西小学校
校長 松井 政信さん
スクールソーシャルワーカー
篠塚 三千子さん

約1200名を町ごと受け入れ

埼玉県・加須市・双葉町で協議・検討

 ‐騎西小学校に子どもたちを受け入れた経緯を教えてください。

松井 騎西小学校には現在、福島県双葉郡双葉町の町立双葉南小学校と双葉北小学校の子どもたちが通学しています。双葉町の約1200名の方々は、被災後さいたまスーパーアリーナに町役場ごと一時避難されていましたが、3月下旬に旧県立騎西高等学校へ移転しました。加須市は加須市役所内に双葉町支援対策本部を設置し、支援の内容を双葉町と埼玉県と加須市の三者で協議・検討しながら支援を進めてきました。旧・騎西高等学校は、生徒数の減少に伴い現在では閉校となっています。体育科があったため合宿施設などが充実しており、また閉校後、映画やテレビドラマのロケ地として活用されていたため、保存状態がよく、すぐに活用することができたのです。今は1117名の方が(5月11日現在)行政単位で教室を仕切って生活されています。ここで生活する子どもたちが徒歩10分圏内の本校に通っています。

個人の高い意識 地域の力で支援

‐震災から新学期が始まるまでの期間は1か月足らずでしたが、準備は大変でしたか

松井 3月から4月にかけては、新学期の準備でただでさえ忙しい時期ですが、加須市が受け入れを決定してから、地域をあげて協力体制を整え、多くの方々の支援でここまでくることができました。まず机、椅子が足りなかったので、市内に呼びかけて集めました。教科書は教育委員会を通して新たに支給できるよう手配し、学用品は、主にPTAのボランティア活動でまかなうことができました。ランドセルを募集したときには、情報を流した1時間後にはもう問い合わせがあったり、とにかく地域の力が非常に大きかったです。たくさんの人の、「何かしたい」「何とかしなくては」という思いが伝わってきました。

  やはり阪神の大震災以後、日本人の意識が変わったと思います。特に、大きな組織ではなく、地域で、個人でできることに労を惜しまないという気運が非常に高まっていると感じます。

‐地域の底力という感じですが、国からの補助や支援はないのですか

松井 今のところありません。支援活動に関してのマニュアルやガイダンスもありません。現場での話し合いによって対策を講じているという状態です。現実的な問題としてあがっているのが金銭の問題です。細かいことですが、例えば児童数が増えれば事務手続きにはゴム印が必要になります。一つひとつは安価なものですが、まとまれば万単位のお金が動くことになります。そうした細かいことの積み重ねが予算を圧迫すると思われます。現在は、加須市と双葉町の教育委員会で協議し、学校生活に係る経費については、就学援助費等の形で双葉町が支出することになりました。また教材業者の団体からの無償支援もあります。

ソーシャルワーカー 今春から着任

‐今春からスクールソーシャルワーカーさんが着任されたそうですね

篠塚 ソーシャルワーカーの篠塚です。この時期に私のような職員が入ったことは偶然なのですが、本当にタイムリーだったと思います。ソーシャルワーカーは福祉の観点から子どもたちの生活をサポートする役割で、スクールカウンセラー、養護教諭とも連携しながら、メンタル面のサポートにも取り組みます。まだ新学期から1か月余りしか経っておりませんので、PTSDや学校生活への不安などの具体的な相談はありませんが、今後増えていくと思います。5月のGW明けは、何もなくても子どもたちの精神が不安定になる時期ですので。

‐具体的な相談はなくても、問題点は感じられますか

松井 入学当初、低学年ではよく泣いている子がいました。そもそも自分の居住空間にいられないということ自体が不安なのに、親から離れるとさらに不安が強まるのでしょう。高学年の子は、表面には不安をほとんど出しません。もちろん、不安を感じていないわけではなく、内面はわかりません。我慢をしているとしたら、その限界を超えたときが非常に心配です。

  一つ幸いなことは、ここは他校よりずっと大人数で移ってきているので、少人数で転校する子どもたちよりは多少安心感があるのではないかという点です。受け入れる側の子どもたちも自然に馴染んでいるようです。

  しかし多くの子どもたちは、震災のことも原発事故のことも正確に把握しているわけではありませんから、常に漠然とした不安を抱えていると思います。メンタル面のケアについては今後も慎重に取り組んでいきます。

篠塚 今後は、スクールカウンセラーとソーシャルワーカーの連携で相談室を設けます。これまで子ども達のよりどころであった保健室に加えて、新たなおしゃべりの場と思ってもらえればと思います。

  悩みがあるかと聞いても子どもはなかなか答えられませんから、自分から言わない限りは追究せず、本人も自覚しないまま出てくる不定愁訴を受け止め、一つひとつ解決していくという段階から始めようと思います。また、保護者のメンタルケアも必要になるでしょう。

透明で正しい 情報提供を望む

‐今後最も必要な支援は何ですか

松井 物質面ではまだまだ不足しているものもあり、予算面の不安もありますが、これは努力によってクリアできると思います。被災者の方々が一番ほしいのは情報だと思います。この生活がいつまで続くのか、いつ故郷に戻れるのか、通っていた学校、職場はもう機能しないのか、そういうことがはっきりしないと、今後のことは考えられないわけです。先行きが不透明であることが最もストレスになるのではないでしょうか。また、5月16日より福島県の公立学校教員4名が配置されたので、転入学児を中心にきめ細やかな教育活動の支援に努めていきたいです。

【2011年5月23日号】


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