教育家庭新聞・健康号

子どもの心とからだの健康

日本の伝統芸能の継承を
キッズ伝統芸能体験

 平成13年、文化芸術全般にわたる振興のための基本的な法律として文化芸術振興基本法が制定された。また平成18年の教育基本法改正では、「伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛する」という文言が第2条に盛り込まれた。賛否両論のあった改正だったが、子どもたちが伝統文化を始め文化芸術に触れる機会が増えるのは喜ばしいことに違いない。その一翼を担うプロジェクトが活況を呈している。4年目を迎えて大好評の「キッズ伝統芸能体験」について取材した。(レポート/中 由里)

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社団法人日本芸能実演家
団体協議会 芸能文化振興部
研修・教育課主査
谷垣内 和子さん

学校での授業から実演家のフィールドへ

―「キッズ伝統芸能体験」プロジェクトとはどのような事業なのでしょうか。

  この事業の前は、日本財団の助成を得て、伝統芸能の実演家が学校を訪問し、先生方と一緒に授業を行って、子どもたちに興味を持ってもらうプログラムに関わっていました。学校で伝統芸能の授業を行って、子どもたちに伝統芸能を広めるというものです。

  かねてより日本芸能実演家団体協議会に関わる実演家の方々から、年々伝統芸能の世界に入ってくる人が減っているのは、学校の授業で伝統芸能を扱っていないからではないかという声が上がっていましたが、そんな折、平成14年から施行された学習指導要領に「和楽器の指導については、3年間を通じて1種類以上の楽器の表現活動を通して、生徒が我が国や郷土の伝統音楽のよさを味わうことができるよう工夫すること」という一文が入りました。これは伝統芸能を教育の場にアピールする好機だと思われた方が多かったでしょう。ただ実演家は学校へ関わるノウハウを持ちませんし、学校の先生方は外部の人を授業に招くということに慣れていませんでした。そこで、我々が橋渡しをすることになったのです。

  初めは先生方に実演研修を行って、その過程で相互理解を深めると共に、その経験を授業に活かしていただこうと考えました。しかし何年もかけて習得する芸能が、一日の研修で身につくはずもありません。やはり実演家が直接子どもに教えるのが現実的という結論になり、3年目に、実演家を活用した授業プログラムを作って、中学校で50分授業を2回行うという内容に変更しました。

  この方法はかなり成功したのですが、生徒は毎年変わりますし、先生方も異動がありますので、定着するまでには至りません。何よりも相応の経費は必要ですし、準備に時間もかかります。コーディネートするのにも限りがありました。実演家もきちんと教えていることになっているのだろうかと疑問が生まれてきていました。そこで、子どもたちに実演家のフィールドに来てもらい、普通のお稽古をする方法に切り替えようということになりました。

  ちょうどその頃、東京都はオリンピックを招致するという大きな花火を打ち上げたときで、日本文化を世界に知らしめることにつながる事業を求めていました。子どもたちを伝統的な世界にいざなうことが日本文化の発展に役立つという提案をしたところ、企画が通り予算が下りたため、多くの子どもたちを実演家のフィールドに迎える事業が実現可能となりました。

小中高生が年16回18コースで稽古

―どんな芸能を取り上げていますか。

  条件としては、伝統的に教えるノウハウを持っていること、全国的に講師がいること、法人組織を持っていてきちんと事務局対応をしてもらえるような組織であること、などがありました。その結果、能楽(謡・仕舞・狂言・囃子)、日本舞踊、筝曲、長唄(三味線・囃子)の4分野、18コースが決定しました。

―完成されたプロジェクトの流れを教え下さい。

  4年目ですが、まだまだ改善の余地があることを踏まえた上で、今年の流れをお話しします。

  去る7月中旬の2日間、小・中・高校生を対象にお試し体験・見学会を催しました。「能と狂言はどう違うか」など、伝統芸能そのものがよくわからないという問い合わせに対して、電話では説明しにくいことと、指導に当たる先生との顔合わせの機会とすることをねらって始めました。短時間ずつですが、実際にどのようなお稽古をするのか数コースを体験します。それで入りたいコースを決めて応募します(多数の場合は抽選)。

  8月中に参加手続きを終えたら、9月から翌年3月まで、都内7か所、計16回のお稽古を行います。時間は約1時間、各クラス10から12名で、全てのお稽古が終了したら、3月末には発表会があります(今年度は宝生能楽堂、浅草公会堂)。これらすべての参加費は1人1万円です。

稽古場・道具の確保・人間関係が課題

―問題点はありますか。

  稽古場の確保が大変です。最初のうちは実演家個人の稽古場をお借りしていましたが、さまざまな問題があったので、今は公共施設かそれに準ずる場所を使っています。発表会会場の確保も、都内には適した場所が少なく、非常に取りづらいというのが悩みの種です。

  同時に道具の確保も難航しました。例えばお囃子では太鼓、大小鼓など、長唄では三味線などの道具を借りられる環境を確保しなければなりません。比較的安価で個人が購入できるもの、例えば日本舞踊で着用する浴衣にしても、何が必要でそれをどこで買えばいいのかをわかる保護者は少なく、そこから説明しなければなりません。扱う道具が日常的なものではないだけに、本当に一から整えなければならないというのが大変ですね。

  また長期にわたるお稽古なので、クラス内に複雑な人間関係ができやすいということも大きな問題点です。子どもの後ろには家庭があってそれぞれの事情がありますから、300人の子が入ったら300世帯を背負うというくらいの気持ちがないと、さまざまなトラブルに対応できませんね。

【2011年9月19日号】


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