子どもの心とからだの健康 

 増える冷え性・低体温症
   体温一定に保つ機能低下  −「暑い」「寒い」と感じる経験を−

 冬の夜に足が冷えて眠れなかったり、夏には冷房で体が冷えきったりと、女性は特に冷えには弱い存在です。ところが近頃は、子どもにも体温が低い子が多いといいます。そこで今回は「体の冷え」について、東京女子医科大学産婦人科講師で、江東区木場にある「東峯婦人クリニック」院長の松峯寿美さんにお話を伺いました。(取材=藤田翠)



 冷えとストレス
   ストレスによる自律神経の乱れも一因
───全身、あるいは部分的に体が冷えるのを「冷え症」といいますが、その原因は?
 「冷え症」というのは、もともとは東洋医学独自の考え方によっています。その病名を西洋医学でいうならば、「自律神経失調症」となるでしょうか。冷えはストレスなどにより、自律神経の働きが乱れることも大きな原因です。
───自律神経はどんな働きをしますか?
 自律神経には、交感神経と副交感神経があります。交感神経というのは「敵から逃げるための神経」です。そのため、血液循環では末梢の血管をしぼって心臓にたくさん血を集め、目はパッと見開き、心臓を全速力で走れる状態にする。だから手足が冷たくなるのです。逆に、「ああよかった。何かちょっと食べようかな」という時に働くのが副交感神経。呼吸もゆっくり、血管も拡がり循環も良くなって手も温かく、内臓が動く状態です。
───それらの自律神経がストレスによってどうなるのですか?
 逃げる時に働く交感神経が、逃げなくていいときに働くと、血管をきゅっと引き締めて手足は冷たくなるし、反対に逃げなくてはいけない時に、副交感神経が働いて、まったりしていては困るでしょう。ストレスがあるときは逃げないといけない時だから、交感神経が働きます。昼間、ストレスが過剰だと、交感神経も過剰になります。
 ところが、休むべき時にもまだストレスを抱えていると年中、頭でそのことを考え、常に交感神経優位の生活をしなければならず、手足が冷えてしまいます。
───ストレスは体によくないのですね。
 いいえ、適度なストレスはむしろ健康のために必要です。ストレスのない生活は、温室になってしまいますから。適度のストレスは良いが、過度のストレスは体によくないということです。

 女性の体と冷え
   女性の冷える理由

───なぜ女性は冷えやすいのですか?
 女性の身体のしくみが自律神経失調になりやすく、それが冷えにつながるのです。というのは、女性には性周期といって、「卵胞ホルモンが出て、排卵がおこり、月経がおこる」というように、いつもホルモン分泌の変動があります。「ホルモン分泌」を司るのは脳の「視床下部」という所ですが、そこにはもう1つ、「自律神経」(交感神経と副交感神経)を司る場所もあります。ですから「自律神経中枢」と「ホルモン分泌中枢」は隣どおしで影響しあい、その結果、自律神経失調になったり、ホルモンバランスを崩しやすいのです。男性の場合は性周期がないため、安定しています。
───更年期の女性が冷えるのはなぜですか?
 女性は排卵の後に黄体ホルモンが出ます。このホルモンは末梢血管を拡げて血液の流れを良くし、体温を高くしますが、その時期を過ぎると低温期がやってきて、常に体が冷たく感じられます。これは基礎体温表をつけていれば、はっきりわかります。ところが更年期になると無排卵になるので高温期がなくなり、冷えを感じるのでしょう。思春期を少し過ぎた若い女性で、卵巣の働きが悪い時期にも、高温期がないことで冷えを感じます。


 低体温症
   増えている低体温症

───近頃は、若い女性の体温が低いそうですが。
 それは「冷え症」というよりは「低体温症」ですね。その原因は2つ考えられます。1つめですが、体温が何によってコントロールされているかをお話します。私たちの体では「基礎代謝」といって、眠っている時でも心臓や肺が動いており、そうした臓器がカロリーを消費しながら発熱を繰り返して体温を一定に保っているのです。ところが最近は冷暖房が完備し、外気は一定していて、自分の体がコントロールしなくても、体温を一定にしてくれます。こうして人は、自分自身の本能的な「体温を常に一定に保とうとする働き」が落ち、体温が低くなっています。もう1つの原因は、移動にバスや電車や自家用車を使うなど、生活の中で体を動かす機会が減っていることです。それで、「エネルギーをどんどん使って基礎代謝をどんどん進める」という筋肉が足りなくなり、体温は低くなっています。
───子どもたちも「低体温症」の子が増えているそうですね。
 親に「座って勉強しなさい」とばかりいわれている子は、低体温の子が多いですね。子どもには小さい時からなるべく「暑い」「寒い」と感じる経験をさせることが、親の責任だと思います。あんまり過保護にして温室生活をしていると、温室のカトレアが外気にさらされると弱るように、ちょっとしたことで困ることになります。今の便利な生活は、人のもっている原始的なすばらしい機能をだめにして退化させ、低体温の状態にしています。低体温は一種の「退化の形」ともいえます。
───体温を保つためにはどうしたらいいですか?
 カロリーを十分にとれるような食生活をすること、腸が動かないとカロリーが消費されずエネルギーが出てこないので、規則正しい食事をして、常に内臓が動いているようにすること、心臓や肺がしっかり動くように、深呼吸したり腹式呼吸をすること、体を動かして筋肉を鍛えることは、いつの年齢の人にも必要なことです。
───ありがとうございました。
東峯婦人クリニック

(2003年2月8日号)