<特集>  学校給食調理場の衛生管理

〜O157集団食中毒から3年〜


  平成8年度に起ったO157集団食中毒。あれから2年半が経過し、学校給食における食中毒発生件数は大幅に減ってきている。文部省や各自治体、各調理場でどのような対策がとられてきたのかを取材した。

 

全国14か所を巡回指導  (文部省) 
    

 文部省では今年度の新規事業として「衛生管理推進指導者派遣・巡回指導事業」を行っている。未然に食中毒を防ぐという考えのもと食中毒を起していない調理場を巡回し、そこでの現地調査を通し問題点を指摘、さらに関係者を集めて指導するということを全国的に行っている。昨年8月の秋田県の調理場をかわきりに、今年度中に全国14カ所を調査することが決まっている。
 平成8・9年度は、食中毒を起こし再開した調理場の現地調査を行ってきたが、今年度の事業はそれをさらに拡大させたもので、それぞれの地域性にあった問題点を指摘し、より具体的な指導を行っている。指導には文部省の学校給食調査官や厚生省から派遣された医師、薬剤師など細菌学専門家の他、学校食事研究会事務局長の阿部裕吉氏、読売新聞論説委員の馬場錬成氏などもあたっており、様々な視点から調理現場の衛生管理を見ることで、試験管上の検査だけではわからないような問題点などもあがり、成果を上げている。
 

食材の検収から子どもの食事まで1日の流れを追う

 現地調査は、早朝の食材の検収から子どもたちの食事に至るまでの1日の作業の流れを実際に見ていく。それぞれの作業の中でどこに問題があるのかを探り、改善すべき点についてはその場で指導も行っている。細菌の拭き取り検査も同時に行い、データを示すことで、調理員たちの意識の改善に役立てている。「いくら設備を整えても、調理をする側がなぜ水を撒いてはいけないのかというようなことを理解していなければ改善はされていきません。そのためにも細菌のデータを示すことは調理員の意識の改善を図るために大変役に立っています」と金田雅代文部省学校給食調査官。

 拭き取り検査は、前日の洗浄消毒が十分になされているか調べるために朝の作業前の調理機器類の状態からチェックする。さらに納入されてきた食材のダンボールや袋、調理のそれぞれの工程で検査し、1か所の調理場で50〜60のデータをとっている。昨年度から調査に同行し、検査を行っている日本体育・学校健康センターの下山雅人主任研究員によると、最も細菌が出てくるのは食材が取り込まれてからの過程だという。「もともと食材というのは汚れているという認識を持ち、その取り扱いには十分注意が必要だという意識をもっと高めて欲しいです」。同センターでは今年度から、学校給食衛生講習会を夏に全国3か所で行い、学校栄養職員が現場で拭き取り検査から細菌の培養まで行えるようにと指導・協議を行っている。また菌の培養機械を学校栄養職員向けに貸与することも行っている。
 文部省は調理場のドライシステムの徹底を指導している。ドライシステムの調理場には補助金がつくため、新しい施設の多くはそれになってきている。また従来の古い施設でもどうすれば水を撒かないで作業できるのか検討し、改善へ向けて積極的に取り組んでいる調理場が増えたことで水撒きは徐々に減ってきているとのこと。
 同調査結果は今年度末に、報告書としてまとめられ、さらなる学校給食の衛生管理徹底が図られてゆく。

中村明子共立薬科大客員教授に聞く
 

 厚生省の食中毒部会のメンバーでもあり、今回の文部省の巡回指導にあたっている中村明子共立薬科大学客員教授に、学校給食における食中毒の発生件数が減少した背景について聞いた。
 民間の調理場で食中毒が起きた場合、厚生省が検査に入るが、事故が起こったそのままの状態で拭き取り検査と関係者の聞き取り調査を行うという後始末的な調査が行われる。これに対し、文部省が行った調理場の現地調査は、一連の作業の流れに沿って見ていくことで、作業中の調理員の悪い癖や動きを見つけることができ、それを基にして問題点を指摘していった。
 「なぜ二次汚染が起こるのかというのを、作業を見ながら人の動きの中で徹底的に探りました。肉を触った汚れたてぶくろで、新しい容器を持ったり、一生懸命水をまいて床にある菌を食材に飛ばしたりという行為が平気でなされているのを見て驚き、見た目のきれいさよりも、細菌的なきれいさとはどういうものなのかを直接指導していきました」調理員のちょっとした行動も見逃さずにチェックし、細かい作業まで徹底して指導していったことが、学校給食における食中毒の発生件数減少へつながっていったのではないかという。

 

依然として調理員の意識改革遅れ   平成9年度文部省調査
 

 平成9年度に行われた学校給食調理場の改善状況について全国的に一斉点検を行った。いまだに改善されていないところが多い項目として共同調理場では1調理後の食品の適切な温度管理、その時刻及び温度の記録(達成率88%)、2返却された残さいの非汚染作業区域への持ち込み(同90%)、3調理器具、容器等の衛生的な保管(同90%)、4原材料について納入業者が定期的に実施する検査結果の提出(同91%)。
 単独校調理場では1便所には調理作業に着用する外衣、帽子、履き物のまま入らない(同78%)、2原材料について納入業者が定期的に実施する検査結果の提出(同84%)、調理後の食品の適切な温度管理(冷却過程の温度管理を含む)及び必要な時刻、温度の記録(同86%)、4加熱調理食品の中心部の十分な加熱(同87%)、5下処理場から調理場への移動の際の外衣、履き物の交換(同88%)、6非汚染区域に汚染を持ち込まない下処理の確実な実施(同88%)7ねずみ、昆虫の駆除の実施及び記録の保存(同88%)などであった。
 改善率の低い項目は主として施設設備の改善を伴うものだが、便所を利用する際の履物の交換など調理員の意識改革で改善できるような項目も依然として改善が徹底されていないことがわかる。

 

 神奈川県鎌倉市 

     他校の栄養士が調理過程を点検

                        
 神奈川県鎌倉市では毎年1度、市内の学校栄養職員数名が1校に集まり、施設設備、献立、全調理過程を一つひとつ点検することを昨年度から始めている。気づいたことをまとめ、市内の学校栄養職員に報告していくということを行っている。取材した日は市内の関谷小学校の点検が行われた日であった。「その学校の栄養士がいいと思ってやっていることが、他から見た時に問題点として上がることもあり、衛生面の改善に役に立っています」と点検に参加した栄養士はいう。作業の各場面でチェックしながら、そこで意見交換をし、問題点をより良い方向に改善している。
 同市ではO157対策として、市内全小学校の給食施設の修繕を平成9年3月から行っている。関谷小学校でも、下処理室と調理室に明確な区別がなかったため、汚染区域と非汚染区域の床の塗装と下洗い室間仕切りを設置した。この仕切りは、下部がアルミ板で、上部が網戸になっているので、場内の風通しもよく、虫などの進入もシャットアウトしている。アルミ板の高さは90センチ。実際に水がどのくらい跳ねるのか測って確認してから設置したという。下処理の終った野菜を、仕切りの境にある水切り台にいったん置き、調理場にいる調理員に渡す。そこに調理員の出入りの必要はないので、床が汚染される心配もない。
 従来型のウエットシステムなので、ドライを保つためには不備な点もあるが、できるだけ水を流さずドライを保つよう心がけている。調理場の掃除は、ゴミを掃いて取り、モップで拭く作業をし、極力水をまかないようにしている。
 関谷小学校では、毎日作業行程表、作業導線を学校栄養職員が書き、調理員と一日の動きを確認している。そして、調理中に一つひとつできているか調理員がチェックし、揚げ物の中心温度、その時間などを記入しながら作業を進めていた。何かあった時のために管理を徹底しているということだ。作業については文部省の基準に自分たちの調理場の設備を照らし、話合いながら決めている。例えば、野菜の切断についても下処理室と調理場のどちらで行えばより衛生的かというのを設備を考慮して一つひとつ決めているという。

 

 千葉県鋸南町 

       生野菜の使用を開始
 

 千葉県安房郡にある鋸南町学校給食センターは平成4年に設立された比較的新しい施設であるが、設備はウエットシステムの調理場である。町内の幼稚園3園、小学校3校、中学校1校の1184食を調理している。
 平成6年から色分けのまな板やエプロンを使用するなど衛生管理に対しては以前から徹底した配慮を行っていたため、O157によって特別に改善する点はなかったという。平成8年度から揃えたものとしては、使い捨てふきんや、滅菌用の手袋など、こまかな備品類。下処理室と調理室に仕切りがないため、調理室の床の塗装をはがし、下処理室と区別するようにした。その境には消毒液が置かれ、調理員たちは、出入りの際に長靴をそこに浸して消毒している。さらに各学校に対して消毒液を設置し、手洗いの励行を促した。今年度からは試験的に1校の手洗い場にペーパータオルを設置。1か月でどのくらいの量が使用されるのか調べ、その結果をもとに今後町内全校でペーパータオルを使用できるように準備を進めている。
 同給食センターでは昨年の10月から生野菜の使用を月2・3回程度始めている。生野菜の使用については、各自治体の責任のもとでの使用が認められたことで、すぐに使用することにしたという。
 同センター高名所長は「火を通したボイル野菜は残菜が多く困っていました。やはり、子どもたちは生の野菜の方が好んで食べますので、徹底した管理のもと責任をもって献立に加えています」と言う。現在は、納豆に添えるねぎ程度だが、今後徐々に生野菜を増やしていくとのこと。

(教育家庭新聞99年1月9日号)