安全性を第一に給食を楽しめる食器を

学校栄養士大会特集 特別対談


 ポリカーボネート製食器から環境ホルモンの一種が溶出されることが問題となり、多くの自治体で他の材質の食器への切り替えが進んだ。文部科学省の報告によるとその溶出量は超微量で人体への影響はほとんどないとのことだったが、保護者からはより安全な食器を求める声が依然として強い。そこで、食器の衛生問題等に詳しい(社)日本食品衛生協会常務理事の辰濃隆さんと、(社)全国学校栄養士協議会会長の小林町子さんに学校給食用食器の変遷から新素材の食器、さらにこれからの学校給食用食器に求めることなどをうかがった。

学校給食用食器のはじまり

−−最近、学校給食用食器への関心が高まっているようですが、学校給食が始まった頃はどんな食器が使われていたのでしょうか。
辰濃 学校給食の歴史は明治時代までさかのぼり、山形の寺子屋で始まってから110年以上になります。その頃の食器は各自持参で、瀬戸物と汁椀だったそうです。戦後、脱脂粉乳や鮭缶、パイナップル缶などが給食時に配られましたがその頃も食器は各自持参で、給食袋に入れ、ランドセルの横に吊るして通学していました。主にベークライトの汁椀かアルマイト製の食器が使われていました。
小林 私が勤務しておりました山梨県では、昭和26年に第1号の学校指定食器としてアルマイトが使われ始めました。パンを入れる皿と、おかずを入れる皿。ちょっと大きめの汁食器にミルク食器と全部で4種類でした。アルマイトの食器は普通の家庭で使っていませんので、保護者を招いて試食会を開くなどして理解をしていただきました。

−−最初の学校給食用食器は各自持参とのことですが、その頃の食器の条件としてはやはり割れないものということだったのでしょうか。
辰濃 割れないという条件より、持って行きやすいということです。持ち運びができる素材というのが第一条件でした。その条件を満たしていたのがアルマイト食器です。
小林 しかしアルマイト食器は熱が伝わりやすく、熱くて手で持って食べることが困難でした。どうしても子ども達は食器を持たずに、置いたまま口を食器の方に持っていくようになり、それが犬食い問題になりました。姿勢を正しくしてちょっとお椀に手を添えてあげるだけでも、犬食いにはならなかったのですが、どうしても子どもは早く食べたいものですから、こんな食べ方をするようになったと思います。

−−学校給食の安全性というのはいつ頃から注目されるようになったのでしょうか。
辰濃 学校給食に限らず、食器の安全性というのは、常に高い関心を持たれています。そこで内務省(現厚生労働省)は食器の基準試験法を作ったわけです。その試験法は昭和40年頃まで続けられました。また昭和34年に器具容器法という食品衛生法の中の規格ができて、現在までいろいろと改正されてきました。さらに1つずつ個別の規定ができてポリエチレン・ポリプロピレン・塩化ビニール樹脂・塩化ビニリデン樹脂・ポリスチレンというように樹脂について1つずつ問題点が意識されるようになりました。

−−家庭で使う食器の素材に対してはあまり関心は高くないように思うのですが、学校給食の食器となると世間や保護者の関心が一気に上がる気がします。
小林 そうですね。ある学校では食器の材質が問題となりまして、学校の食器を、一時使用を中止しまして各自家庭から持参させたところ、学校で使っている食器と全く同じ材質の食器をみんな持って来たそうです。各家庭で用意したものが、使ってはいけないと自分たちが騒いだものだったと知って保護者たちもビックリしたそうです。騒がれすぎて誤解する保護者が多い。そこで学校栄養職員たちは専門家や業者を招いて定期的に勉強会を開き食器の専門的な知識を体得しており、現在でも続いています。学校で使っている食器を自信をもって使いたいからであり、勉強することによって保護者に対しても自信ある答えが出てきます。

プラスチック製食器の普及

−−学校給食で使う食器は、子どもたちの安全はもちろん、調理師さんの手間などいろいろ考えると、プラスチック製食器が最もいいのでしょうか。
辰濃 学校給食の場合は同一の形状のものを使わなければならない。さらに重さも同じようなものとかいろいろと制約条件があります。最も加工しやすいもの、割れないものとなるとプラスチックになる。ただ洗う作業を考えると、軽すぎてもだめなんですよ。水に浸した時に浮いてしまって洗えません。
小林 洗浄する際、前もって水に浸しておかないときれいにならない。アルマイトだと下に沈むので浸しやすいのですが、軽いプラスチックですと浮いてしまいます。ただアルマイトは食器同士がくっついてしまうという欠点もありました。そこである程度の重さのあるプラスチック食器への要望が強まっていったわけです。
辰濃 それらの要望を受けて開発されたのが充填剤を加えて重くなるように加工し、水に沈むようにしたポリプロピレン製の食器です。
小林 しかしポリプロピレンの食器はいくらきちんと洗浄しても、子どもからはちょっと色がついているだけで「よく洗ってくれないから汚い」という言葉が相次ぎました。「よく洗ってください。もう1回洗ってください」「他の食器と取り替えて下さい」とくるわけです。色の染み込みやすさは、献立によって差がありますが、特にケチャップ料理などでよくつきました。
辰濃 学校給食はどちらかというと油を割合使いますが、ポリプロピレンの場合は油を吸うんですよ。だから油がお皿の中に入ってくると今度は人参のカロチンなど油に溶けるから、中に染み込んでいく。それで色が抜けなくなっちゃうんですよ。これはいくら洗ってもなかなか取れないのです。そこで色が吸着しにくいプラスチック食器としてポリカーボネートが出てきました。

−−ポリカーボネートの主な特徴は。
辰濃 ポリカーボネートというのは、透明性・耐熱性がよくて、衝撃に強い。さらに煮沸消毒ができるということで、ずっと前から哺乳びんに使われていました。そこで学校給食用食器に最適ではないかと検討が行われ、大量に導入されるようになりました。弱点は加水分解性があり、分解して原料に戻っていく可能性があります。それでビスフェノールAが出ることが問題となってきたわけです。しかし、その量はほんの微量。人体に影響を及ぼすような量は出ないんですよ。試験上いくら安全だと言っても、ビスフェノールAが内分泌かく乱物質であり、それが微量でも含まれている食器を子どもに使わせるとそれだけで問題だとなったわけですね。

−−ポリカーボネートの環境ホルモン問題が騒ぎになってから、多くの自治体は様々な食器に切り替えたそうですが、その中のひとつ磁器食器はどんな特徴がありますか。
辰濃 磁器にアルミナを加え壊れにくくしたのが、学校給食で使われている強化磁器食器です。ただし欠点は重い。重いので児童がかごに入れて持って運ぶのに今まで1人で間に合ってたのが3人がかりで持たなければならないということも、大量に普及しなかった要因だと思います。
小林 食器のかごを3人で持つといっても3人では持ちづらいです。そこでもう1つかごを作って、2人ずつとなれば今度は設備が違ってくる。さらに共同調理場では車の数を増やさなければ学校への配送ができなくなるわけです。

−−強化ガラス食器はどうでしょうか。
小林 割れにくいといいましても、やはり結構割れることが多い様です。また割れると破片の角が鋭いので、ケガをしやすいという問題があります。強化ガラスといっても、割れにくいというだけで絶対割れないというわけではないということです。子どもの安全性を考えることが大切だと思います。
辰濃 かつてしばしばコカ・コーラのビンが爆発するという報道がされましたが、それと同様に瞬間的に砕け散るんです。
小林 洗浄の際にも食器同士がくっついてしまう。食器に糸尻がないため重なって洗いづらいのです。完全に消毒ができない場合もあるようですね。

新しい素材の食器

−−新しく開発された学校給食用食器もどんどん出ているようですね。
辰濃 今、注目されているものにPEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂を原料としているPEN食器があります。PENは世界的に清涼飲料水に使っているところが多いのですが、日本の清涼飲料水の容器は個別規格が決まっていないのでまだ使われていません。将来的には日本でもPENは使われるようになると思います。清涼飲料水などの容器として日本でもよく使われているPETは熱によって変形しますが、PENはしません。私がちょうど4年前にウルグアイにいた時、コカ・コーラの容器にPET容器を使っていたのですが、再利用する際に熱殺菌ができないことからPENにちょうど切り替えていました。それでPENというのをその頃から研究し始め、プラスチックリターナブル容器の研究ということで私が取り上げたことがあるんですよ。

−−PEN食器とポリカーボネートの違いはなんですか。
辰濃 PEN食器はポリカーボネートより若干重いですね。また原材料が高いので値段も高い。添加物は使用していないので安全性の面では問題がないといっていいでしょう。また食材による着色汚れがないので洗浄しやすい。さらに耐熱性・耐薬品性が優れており、使用後はリサイクルできるという特徴をもっています。

これからの食器の在り方

−−これからの学校給食用食器はどうあるべきでしょうか。
小林 21世紀は心を育てる時代だと思います。その中で学校給食はどうなるべきかを考えると、やはり食事内容が基になりますが、料理を入れる器も重要になってまいります。心を育てるというのは食事の中身と一緒に食器だろうと思うのです。同じ形でも柄が違っていたりしますと、今日はどんな食事だろうと考えると同時に、私にはどんな柄の食器だろうとか楽しさも増えます。楽しい学校給食にもつながってきます。予算的な問題等ありますが、学校給食でもいろいろな種類の食器を揃えられたら理想的だと思います。色・柄を違えて、心が躍るというのは感性が高まります。食事内容は入れ物によってもっと美味しくなるのではないでしょうか。
辰濃 いろいろな絵が描かれているだけで子どもたちは喜んでいるわけですから、食事をするときにそういう喜びを与えることも大切ですね。
小林 いろいろな料理に合った大・中・小さまざまな食器があった方がいい。お皿に美しく盛りつけることで、子どもたちにおいしそうという美的感覚がうまれます。また食器が変われば、食事環境が変わり、さらに人も変わることができると思います。
小林 また話は変わりますが、アルマイトの食器や先割れスプーンにしても、学校給食の発展のため少なからず貢献したわけです。新しいものが出てきた時に、それらの食器に文句を言うのではなく、ご苦労様と言って切り替えることも大切です。ありがとうと感謝する心。食器にも長い間お世話になりましたと、お礼を言うべきです。自然にお世話になった人々にも、いろいろな物にも大切にしていく心を積み重ねていってほしいと思います。

−−学校給食用食器として望ましい食器というのは何でしょうか。
辰濃 「望ましい食器はこれです」と一概に言うことはできません。それぞれに長所もあれば欠点もある。プラスチックの食器で言えば、食品衛生法の規格に合格していれば使用可能なわけです。時代の進歩とともに内分泌かく乱物質のような問題が出てくると、良いか悪いかというのはその時代の後でわかるわけですから。ただ分析技術が発達したことで超微量成分までわかってくると大騒ぎになる。教育委員会から衛生問題のことで電話がかかってくることがありますが、その都度ご説明しています。食器選択の際、皆さんの意見をよく聞いて、その中で材質なら材質についての食品衛生上の安全情報を集め、再度検討委員会でディスカッションして、その食器にした場合の経済的な問題や耐用年数、消毒・殺菌するまでの費用などあらゆることを調べて食器選定をした方がよいと思います。
小林 調理員の仕事の度合いや子どもの安全を考えて選んでほしいと思います。あらゆる人たちが集まり、それぞれの分野で責任をもって検討する。一方的な意見で決めることはあってはならないことです。保護者も含めそれぞれの角度から意見を出し合って検討することが大切です。

−−ありがとうございました。


(2001年7月14日号より)