未成年者のアルコール問題 今、求められる対策

 未成年者のアルコールの問題は年々深刻化しており、喫煙や薬物乱用などと同様に子どもの健康を考える上で非常に重要な問題となっている。新年を迎えたこれからの時期、学年末や新入学などで子どもたちが飲酒する機会が増えることが危惧される。今回、子どもたちが飲酒に至らないための予防教育について千葉県立船橋高等学校の今関豊一教諭に、飲酒の危険性や各業界の取り組み等について(社)アルコール健康医学協会の笹田俊爾氏、ビール酒造組合の村田幸七氏に、それぞれ現状と今後の対策についてお話しいただいた。

アルコール
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 アルコール依存症の低年齢化やイッキ飲みによる若者の死亡率の増加など未成年者とアルコールの問題は年々深刻になってきています。そこでこれらを防ぐために学校で行われるべき予防教育のあり方や各業界での取り組み、今後の対策等についてお話しいただきたいと思います。
笹田 子どもたちの体格は昔と比べだいぶよくなってきていますが、まだまだお酒による心身への影響は大人に比べて大きいといえます。子どもは大人に比べて体が小さいため、肝臓も小さく、その分代謝能力が低い。子どもの方がお酒に酔いやすいのは当然のことです。また若いうちから飲酒すると、脳はどんどん萎縮していきます。さらに子どもの場合にはセルフコントロールができませんから、飲酒が習慣的になりやすく、アルコール依存症患者の中には、未成年者の時から飲酒していた割合が高いと言われています。
―― 学校教育の中では薬物乱用や喫煙の害の学習と比べてアルコールの問題については低調のような気がしますが。
今関  アルコール、薬物乱用、喫煙それぞれの学習は取扱上並列で扱うことになっていますが、実際に取り上げる重点のかけ方は現場に任されていますので、どうしても喫煙と薬物乱用に重点がいきがちになっているとは思います。たばこの場合は受動喫煙が問題になってから一気に喫煙しない方向の指導が強まり、また薬物については新聞報道等で事件が大々的に取り上げられたりしますので、その点でインパクトがかなりあります。しかし酒については、飲酒がもとで殺人をしたとか、社会が壊れたということはあまりないことから、たばこや薬物とは違う捉え方があると思います。
 また現場の教師として、教材や授業を作っていく上では、酒に関して文化的に許容されているということが影響します。日本では20歳になるまで一滴も酒を飲まない大人が何人いるかというと、ほとんどいないのが現状であり、小学校高学年で興味をもったりした時や、幼稚園の頃に親がふざけ半分で飲ませてしまうといった場合が多いでしょう。また正月や冠婚葬祭時など文化的にお酒は付き物となっており、「酒を飲むこと自体が悪い」という価値観はほとんどないのです。たばこの場合は「たばこを吸うこと自体が悪い」「隣で吸われると被害を受ける」ということがありますが酒に対しては、たばこと比べてどうしても扱いが軽くなるということが言えると思います。
笹田 酒類は、一生を通じて健康を害する飲料であるとはいえないことが啓蒙活動の難しさです。大人になって、酒は適正な飲み方をしていれば、医学的にも健康上プラスの面があります。また「Jカーブ」といって、適度の飲酒は死亡率を下げるという結果が報告されています。しかし子どもの心身の発達には、絶対によくないことは先程述べた通りで、これを十分に説明しなければ説得力がなくなります。
村田 飲み過ぎは問題外ですが、適量の飲酒は昔から「酒は百薬の長」と言われておりますし、一日の疲れをとったり、コミュニケーションの役に立ったりというそれぞれの方々の生活の豊かさのお役に立っているという面でも大きな効用があることを理解していただいた上で、未成年者飲酒はよくないということをメーカーとしても啓発していければと思います。
―― 酒造メーカーとしても、未成年者の飲酒防止のために様々な取り組みを行っているようですね。
村田 未成年者の飲酒の始まりは家庭、親に勧められたというのが大半であることから、ビール酒造組合として10年前から家庭の親へ「20歳を過ぎたら一緒に飲もうや」、未成年者自身に対し「10代の青春にお酒なんていらない」等のキャッチコピーで啓発活動を行い、家庭と本人両サイドに呼びかけております。
 さらにビールメーカー各社それぞれが作成している適正飲酒に関するパンフレットの中でも未成年者の飲酒防止について取りいれていますし、学校教材としてビデオやCD−ROMを作成して配布し教育活動の一環として役立たせて頂いております。
 また「酒類の広告宣伝に関する自主基準」を作り、未成年者を対象としたテレビ番組や新聞・雑誌等に広告を行わない、未成年を広告のメインモデルに使用しない等を決め、酒類業界全体として未成年者飲酒防止に対応しております。さらに低アルコール飲料と清涼飲料水を間違わないようにするために「お酒マーク」をわかりやすく表示しており、酒販店において酒類と清涼飲料水の分離陳列を行うなど適切に対応しております。
笹田 (社)アルコール健康医学協会は昭和55年に設立され、それ以来、適正飲酒と未成年者飲酒防止の普及活動を2本柱として、事業活動を行っております。主な活動としては、未成年者の飲酒防止推進のポスターを毎年作成し全国の酒販店や居酒屋、学校等にも配布しているほか、リーフレットやビデオの作成・配布、シンポジウムの開催、さらに高等学校向けの教材を作成して全国5500校に配布するなどしております。
 特に今年は、家庭内におけるしつけが未成年者飲酒防止に重要な意味を持っていることから、養護教諭の先生方の指導のもとに、親が子に酒をテーマに話かけるためのツールを作成し、小・中学校に配布する予定です。親子で飲酒について話題にしてもらい、子どものうちから飲酒についての認識を高めてもらいたいと考えております。
―― 未成年の飲酒予防に対して、各メーカーや団体で様々な情報提供が行われているとのことですが、学校現場ではそれらをどのように活用されているのでしょうか。
  今関 
先ほど紹介いただいたビデオは私も授業で使用しておりますが、使っただけではダメだというのが印象です。現場の教師の力量にもよりますが、ただ見せただけでは「なぜいけないの?」という疑問が子どもたちに残ります。特に酒の場合は許容されている部分がありますので、「どうして未成年はいけないのか?」というのが率直な生徒たちの反応のようです。
 その部分を考えさせる授業として、ビデオ鑑賞後に「酒を勧められたら飲むか」という質問を投げかけると、40人中35、6人はほぼ無条件に「飲む」と答えます。その理由を尋ねると「うまい」と答える子もいれば、「断るのは悪い」「少し飲んでみたい」という意見が出てきます。しかし「酒は友達付き合いに必要か」と聞くと大半の生徒が「必要ない」と答えています。友達付き合いに必要のない酒をなぜ飲むのかと切り返えしてみると、「大人ぶりたい」「好奇心」「反抗したい」といった心理的要因が出てきます。このことから酒を飲む飲まないの選択に関わる心理的要因にはたらきかけるような教育を考えております。今度の学習指導要領の改訂では、「酒を選ぶ時の本人の意志決定と、行動選択についてのことを取り上げる項目が入ってきましたので、今後徐々に浸透していくと思います。しかし、学校現場でいくら取り組んでいても、簡単に入手ができて危険を感じない形で売られれば、多くの人間が手を出すことは心情だと思います。

(社)日本PTA全国協議会
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 (社)日本PTA全国協議会が平成9年に行った調査では、子どもの喫煙と薬物乱用について気がついたら注意する、辞めさせるとの親の答えがそれぞれ88%、98%であるのに対し、酒に対しては67%、3割以上が容認していることがわかりました。未成年とアルコールの問題については、親の認識不足が大きな課題になってくるようですね。
笹田 親自身に未成年者の飲酒がどのような影響を及ぼすかを十分に理解してもらうことが先決と思い、親が説得力をもって説明できるようなツール作りを今回はじめて行っているわけです。
 また親と一緒に飲むことも問題ですが、一番問題なのは親に隠れて習慣的に飲んでいる子どもたちです。これは、いろいろな面で極めて危険なことといわざるを得ない。
―― 親に隠れて飲むとなると、やはり子ども自身に学校教育の中で働きかけていくことが大切になりますね。
今関 基本的に「反抗したい」「大人ぶりたい」という気持ちをコントロールできない子が、比較的アルコールやタバコなどの健康上好ましくない誘いに乗りやすく、精神的にも不安定な部分があると思います。その部分を引き上げて、勧められた時に断れる自信やコミュニケーションツールをどれだけもっているかということが必要となってきます。
 授業の中でアルコールの問題だけを取り上げるという機会はそれほど多くありませんが、自分自身や相手を大切にする力、断れる力を養うことで飲酒へ向わない方向へ向けることができると思います。人とコミュニケーションする力、ストレスに対処する力、意志を決定する力を引き上げることで健康的な行動を選択できるようになるのです。飲酒防止に限ったことではなく、心の健康全ての面で共通して必要なこととして、小学校の段階でも徐々に行われるようになってきました。しかし、学校だけのはたらきかけではうまくいかない部分がありますので、社会的にも親を巻き込んで未成年者に酒を勧めないような体制作りをしていかなければならないと思います。
村田 政府に「酒類に係る社会的規制等関係省庁等連絡協議会」が設置され、未成年者の飲酒防止対策等の施策大網が策定されるなど行政でもその方向に進み始めています。未成年者の飲酒を防ぐためには、買わせない、飲ませないという2つの側面があると思います。買わせないということでは、酒販店での対面販売が中心となりましょうが、レジでの年齢確認や、未成年者飲酒防止のポスターを掲示したり、店内放送でメッセージを流すなどの対応が始まっています。飲ませないという面では、家庭、地域社会、飲食店などがそれぞれの立場で協力していくべきだと思います。
 個人的な思いですが、10代という素晴らしい時代はすぐに終ってしまうということです。例えば14歳から19歳までとするとほんの2000日位しかない。この2000日の中でしかできないことや、やらなければならないことが沢山あると思います。10代の青春にお酒を飲んでる時間はもったいない、もっとすべきことがあるということを見つけられる環境作りを、家庭、学校、地域社会、酒類業者それぞれでできればいいと思います。またそのためには、もちろん本人の自覚も大切であると思います。
笹田 売る方(酒販店)の意識も全く変わってきています。未成年者飲酒禁止法が改正されて、罰金刑が重くなったほかに、酒税法の改正で酒販店の免許の取り消しも行われるようになりました。未成年に酒を売った従業員だけでなく、経営者も処罰されるようになり、また常時に自販機を外に置きっぱなしにして、未成年者が自由に酒を買えるままに放置したような場合には処罰されることもあり得るということで、今後自販機はかなり消滅していくのではないかと思われます。
今関 教育現場にいる者からすれば、環境づくりをしてほしいということを製造者側、販売者側、行政にお願いしたいです。その中でも特にマスメディアの影響は非常に大きいですから、自社商品をコマーシャルで売りたいというのは当然あると思うのですが、その売りたいターゲットをどこにするのか、どう国民にアピールしていくのかということをぜひ考えていただきたいと思っています。
村田 関係行政がワンステップ踏み出し、未成年者飲酒禁止法の罰則強化、酒税免許法の一部改正など法的整備が整ってきている中で、後は具体的にどうやっていくのかという中身だと思います。今後もメーカーとしてやるべきことを適切にやってまいりますが、メーカーだけの対応ですべてが解決する訳ではありません。家庭、学校、地域社会、そして我々酒類関係者、行政それぞれがそれぞれの立場で責任を持ち、また協力してやっていくことで大きな効果があると思っております。
笹田 未成年者とアルコールの問題は、家庭、学校、行政、さらに業界(酒類業界以外に飲食店等を含む)が一体となって、社会全体で取り組んでいかなければならない重要な問題なのです。
―― ありがとうございました。

(2001年1月13日号より)