Web教材と実習を組み合わせ
    ネットワーク技術者を養成

IT革命を担う
 世界的に評価の高いシスコシステムズ社の企業姿勢と学校教育向けプログラムについて、黒澤社長にお話を伺った。
 −IT革命の中核を担うシスコシステムズ社について、簡単にご説明ください。
 「当社はもともと、ルーターの製造からスタートしたので、当社のことを良く知っている人は、ルーターの会社として認識していただいている。今もルーターが売上げの大きな部分を占めるが、その後LANやWAN用のスイッチ類のラインナップを揃え、そしてそれらを動かすソフトウェア、最近では光ファイバーの伝送の部分までビジネスを拡大している。インターネットの基幹のほとんどの部分を担っていると理解してもらっていい。
 技術の進歩が非常に速い。誰も一人で全部は担えない。だから、7割ぐらいは自前で、あとの3割は次に必要となる技術を持っている会社や人を買収して、広げてきた。
 当社(日本法人)の会計年度は8月から7月だが、社員数は1昨年の春ごろが約250人、現在約600人と倍増し、今年の7月には1000人近くになる予定だ」
 −シスコシステムズ社の拠点は世界55か所にあり従業員も2万人以上になりますが、その中で日本の特徴としていえることは。
 「今、ボーダレスとかグローバライゼーションと言われている。今世の中はグローバルマーケット(世界市場)があり、そこで事業をしているグローバルカンパニー(世界企業)がある。インターネットを使えば、福島の居酒屋でも米国人にお酒を売ることができる。
 シスコは、グローバルカンパニー(世界企業)で、全世界の顧客を相手に、サービスや技術や製品を提供している。その中の日本の拠点として、日本のシスコシステムズがある。
 今年は、非常に変化が激しくさらにスピードが加速した。もともとドッグイヤー(7年が1年)と言われていたのが、最近はチータイヤー(12年が1年)と言われている。売上げも伸びている。弊社のビジネスで電子商取引で行われる部分も90%を超えている」

学校向けプログラム「シスコ・ネットワーキング・アカデミー」
 −教育関係では、ネットワークの知識と技術を教える「シスコ・ネットワーキングアカデミー」を1昨年から始められていますが。
 「今、IT革命で必要なのは、インターネットのネットワークとその上に載せるソフトだが、それをサポートする人間がいない。それは、日本だけでなく米国を含め世界中で絶対数が少ないが、その中で特に日本は少ない。当社も社員を倍増したと先程話したが、ネットワークに詳しい人間はいないので、入社後教育している。
 IT革命を担うこうしたネットワークエンジニアは当社だけでなく、いろいろな部分で慢性的に不足しているので、それをなんとかしないとIT革命などできない。しかし、その人材の育成はそうした知識と経験のない政府や学校に任せることはできないので、自ら始めたわけだ。
 米国では、高校を中心にして展開されているが、日本では1999年4月から13校で始め、大学や専門学校が中心となり、現在92校、学生数1800人で開講されている。今年4月に就職する卒業生で、ある学校のゼミで一番先に就職が決まった5人のうち、4人がシスコ・ネットワーキングアカデミーの学生だった。それぐらい、人材がいない。
 内容は、ネットワークの知識や技術を教えるコースを提供するだけでなく、学校で教える先生のトレーニングまで引き受けている。ネットワーク技術を教えるためのトレーニングと、先生方が学校で教えてもらう方法と、実習機器を安価で提供しており、教材については無償で提供している。先生方を対象にしたセミナーも毎年、開いている」
 −ユーザーからはどのような反響がありますか。
 「E-Learning(インターネットを利用した学習)ということが昨年かなり言われたが、シスコ・ネットワーキングアカデミーはE-Learningを先取りしている。教材は、テキストではなくWeb教材で、オンラインテストも入っている。それを教室の中で活用すると、学生一人一人が自己学習ができるので、教師は机間巡視ができ、学生に教材について質問したり課題を出すこともできる。自然な形で教室の中で何か所かでグループディスカッションのようなものを作ることができる。知識の伝達はWeb教材に任せて、先生はコーディネーターとして、学生の学習意欲を高めることに時間を使うことができるということが、先生方から頂いている賛辞の一つである」
 −シスコ・ネットワークアカデミーの今年の展開は
 「今年中に300校に普及させたい。そして、高校にできるだけ展開していきたい。早稲田大学教育学部でも開講してもらっているが、同学部では高校の新教科「情報」の免許も取得できる。その中で、シスコ・ネットワーキングアカデミーの情報講座が必修になっている。
 そうした人が先生になれば、ある程度のネットワークのトラブルは解決できる。学習の設計も分かり、ネットワークも分かる先生が学校に一人はいることが必要である。
 そして、米国では普通高校のカリキュラムにネットワークの学習が入っているように、機器の設置をしたり調整をしたりすることができる人の裾野を広げることが大切で、全体のレベルの底上げの一つのきっかけになればいいと考えている」
 −日本の学校教育はどうごらんになっていますか。
 「私の妹が小学校の教師をしている。今の先生は基本的にITリテラシーがない。後ろ向きである。そうではなく、今が教育を変えるチャンスなんだという見方をすれば違う展開があるだろう。きちっとした環境を整えれば、子どもたちは自然に扱うようになる。
 先生には、もっと付加価値の高い仕事をしてもらう方向にもっていけばいい」

大切な転換点
 −IT革命がどんどん進んでいく中で、御社に入社してくる新卒の社員に、どんなことを望みますか。
 「21世紀の国の繁栄を決定するのは、インターネットと教育と言われている。われわれの置かれている環境は、非常に変化が激しい。昨日うまくいったことが今日うまくいくとは限らない、そういう環境で仕事をやらなければいけない。その中で活躍できる意欲とバイタリティのある人が欲しい。つまり、勝負はエグゼキューション(実行)になっていくので、自分で問題意識を持って、次々とチャレンジし情熱を持ち新しい技術をどん欲に吸収しようという人である。つまり、生涯学習である。必ずしもインターネットのことを知らなくてもいい」
 −21世紀になりました。シスコシステムズ社として、どう臨まれますか。
 「当社は、95%インプリメンテーション(実行)、5%プラン(計画)という会社。ともかくエグゼキューション(実行)、エグゼキューション(実行)をきちっとしていくしかない。ただ、ハッキリいえるのは、今インフレクションポイント(大切な転換点)に来ていることは確かである。言い換えれば、今までにないような非常に大きなチャンスがあり、そのチャンスをものにするために間違いのないエグゼキューションをする必要がある」

(2001年1月1日号より)