教育家庭新聞・教育マルチメディア新聞

Information and Communication Technology

TOP特集>ICT環境整備

 

 プロジェクターの普通教室での活用が広がってきた。先生方のニーズを満たすべく学校向けのプロジェクターも増えている。普通教室でプロジェクターを活用した授業を始めて今年で9年目を迎え、「毎日、毎時間のように、全教科で活用している」という福岡市立大原小学校の龍造寺譲生の授業を取材した。

動 画 の 活 用 が 飛 躍 的 に 増 え ま し た
 拡 大 提 示 で 新 た な「 発 見 も」

福岡市立大原小学校 龍造寺 譲 先生

プロジェクターの有効活用で普通教室が「音楽室」に
プロジェクターの有効活用で普通教室が「音楽室」に

 この日は音楽集会で6年生が演奏するG・ホルストの交響曲「ジュピター」(平原綾香バージョン)の練習が普通教室で行われていた。黒板のスクリーンにはスキャナで取り込んだ楽譜がプロジェクターで投映されている。リコーダーとピアニカの「低音パート」の児童が集まり、練習が始まった。

  コンピュータから「ジュピター」の演奏が教室に流れる。流れる音に合わせ、音符が赤く変わっ ていくので、今どこを演奏しているのかが分かりやすい。スキャナで楽譜を取り込み、自動で音楽を作成するソフトウェアを組み合わせた、龍造寺先生のオリジナル教材だ。

  「次に低音部だけを聞いてみよう」ワンクリックで、今度は低音だけの模範演奏が 始まる。何度かプロジェクターを見ながら演奏を聴いた後、各自で練習、その後全員で低音パートの練習だ。授業の最後には、コンピュータからの音楽にあわせ、全パートをあわせた全体練習が行われた。

  教室にはプロジェクター、スキャナ、プリンタ、スピーカーなどを龍造寺先生お手製のワゴンにセッティングした「ICT 教室セット」が設置されている。機器とソフトとの活用で、音楽室で練習するよりも効率的にパート練習を進められるとい う。「音楽には詳しくないのですが、不得意な部分をICTで補っていま す」という龍造寺先生は、全科目で毎日のようにプロジェクターやスキャナを取り入れた授業展開をしている。

  この日、国語の授業では、ワークシートをプロジェクターで提示、児童の発言を書き込みながら授業を進めた。毎時間配布されるオリジナルのワークシートは、過去のものも全てコンピュータに保存されているため、学 習の振り返りがしやすい。

◇   ◇

理科や社会でもプロジェクターは大活躍だ。「理科ではプロジェクターを使って動画や写真を子どもたちに見せていますが、動画はインパクトがあっ

プロジェクター・スピーカーなどがワゴンにセット
プロジェクター・スピーカーなどがワゴンにセット
児童の集中力も持続しやすい
児童の集中力も持続しやすい

て、授業に良い影響を与えます。拡大できる点も便利。社会科の 資料集や教科書の挿絵、写真をスキャナで取り込み、拡大して見せると、新たな発見があるんですよ」

  拡大することで、資料のままでは小さくて見えないものが見えるという。「それが発見と驚きにつながり、授業づくりのきっかけになります。プロジェクターとスキャナとの組み合わせは場所もとらないので、立体物以外はたいていスキャナで対応しています」

  算数でも、その場で教科書に掲載されている問 題をスキャナで取り込み、プロジェクターで提示。子どもたちは前に出てそこに答えを書き込んでいく。皆の方を向いて実際に書いて発表することで、聞く方も分かりやすい。また、全員がより授業に集中し、一人一人のやる気の向上にもつながる。「教室で即教材を作れるので、こんなに快適になると、もうプロジェクターなしではいられません」

  先生が同校に赴任して5年だが、そのICTを活用した授業スタイルを参考に、プロジェクターを普通教室で活用する先生も増えてきたという。「実物を見せるのが一番。口頭で、何ページを見て、と言うよりも、ここを見てと提示すればすぐに分かります。プロジェクターがあると、ピンポイントで画像や動画を見せることができるので、動画の活用も、DV Dを使っていた頃に比べると、格段に増えました」と「わかりやすい授業」作りに役立てている。

体育館でも十分な明るさ

 教科活動以外でも活用されている。同校では毎年、全学年で千羽鶴を折り、6年生が代表して修学旅行先でもある長崎の平和祈念像に奉納する。「体育館に 全校生徒が集まり、6年生が全学年の前でその活動の様子をプロジェクターで映しながら報告しました。口頭で報告するよりもずっと伝わりやすいし、みんなが集中している中、プレゼンすることができました」

  全校生徒の前での発表は緊張しがちだが、プロジェクターを活用して視覚に訴えることで、発表しやすい体制が整い、プレゼンを苦手に思う子どもが減ってきた。むしろ積極的にプレゼンできるようになってきた、という。

 

「でんぷんの化学反応」「血液の流れ」
 自然な色合いで感動がリアルに伝わる

黄色もきれいに映る

黄色もきれいに映る
(「NHKデジタル教材より」)

資料集を拡大すると見える「発見」も
資料集を拡大すると見える「発見」も
(光文書院「社会科資料集6年」より)
教科書を投影して答合わせ
教科書を投影して答合わせ
(東京書籍「小学算数6年」より)
板書をデジカメで撮影・振りかえりに活用
板書をデジカメで撮影・振りかえりに活用

 

長時間見ても目が疲れにくい

 現在龍造寺先生が活用しているのは、エプソンの液晶プロジェクター『EMP―1815』3500lmだ。「購入する際はあらゆる種類のプロジェクターを見て選んだ」というが、選択の決め手はどこにあったのか。 「一番重要視したのは、色合いの自然さです。人体や血液の微妙な色合いや、ヨウ素反応の色の変化が最もわかりやすいプロジェクターを選びました。

  理科の動画はもちろん、社会の資料集、図工の人物画などでも、肌色系がきれいに映ります。 火山の噴火の様子を動画で見せたときも、オレンジや赤がきれいに自然な色のまま映るので、余計な説明を加えることなくこちらの意図した通りに、子どもたちが映像をイメージ化できるんです」

  血液の流れ方やヨウ素の実験の動画では、「紫色」 がきちんと映ることが必要だが、他方式のプロジェクターではその紫色が黒っぽく映ってしまった、と述べる。次に重要視したのが、「明るさ」と「見え方」だ。

  「教室に電気をつけたままプロジェクターを投映してもきれいに見えること。以前は電気を消してプロジェクターを使っていましたが、あらゆる場面でプロジェクターを活用しているので、その状態でノートをとらなければならないこともありました。成長期の子どもの目を考えると、やはりそれはあるべき姿ではありません。電気をつけたまま活用できる点がいいですね。また、『液晶プロジェクター』は画面のちらつきがなく、ずっと見ていても疲れにくく、目に優しい点も気に入っています」「見え方」には細心の注意を払っており、スクリーンも何種類が試し、見ていて疲れにくいものを選んだという。

 

「早い・簡単・気持ちいい」使い勝手で教材研究も充実

レンズカバーの開閉で
レンズカバーの開閉で
臨場感ある授業展開が可能に

 このほか『EMP―1815』で気に入っているのが、スライド式レンズカバーだ。

  「レンズカバーを閉めれば即スタンバイ状態になり、開けると即稼動して画像が見える、という点も便利です。動画や画像を隠しておいて、さあ実際に見てみよう、とさっと見せることができるので、授業で臨場感を演出しやすくなりました」

  クールダウン不要のダイレクトシャットダウン機能も教室で活用するには便利だという。「使用後、すぐに電源を抜けるので、授業の後片付けに手間取りません。万が一、子どもが電源コードを抜いてしまったことを考えても、安心感がありますね」また、パワーポイントデータを添付ソフトで専用の形式に変換し、USBメモリに保存すれば、パソコンとの接続なしにUSBメモリをプロジェクターに直接接続するだけで、投映できる。子どもたちのプレゼン発表にも役に立つ機能だ。

  このほか、自動でタテヨコの歪みを補正する機能や、スピーカー(5W)内蔵、コンピュータとの無線LAN接続機能など学校での活用に最適な機能が搭載されている。 「あまりマニュアルを読まないのですが、すぐに使える機能のおかげで、授業研究が効率的で、しかも楽しい。言うなら『早い、簡単、気持ちいい』使い勝手です」と龍造寺先生。今後も新しい授業活用が期待できそうだ。