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最新IT教育―実践、成果を報告―    ICTフィンランド教育

補正予算後のICT環境
「活用」「管理」「研修」を考える

教育家庭新聞社主催 教育委員会セミナー


 昨年度、緊急経済対策として実施されたスクール・ニューディール構想により、全国の市町村教育委員会・学校のICT環境整備が進展した。今後それらの環境がよりスムーズに学校で活用されるためには教育委員会のサポートが必要だ。昨年度の機器導入を生かし、学校現場でのICT活用をより発展させていただくため、教育家庭新聞社では教育委員会を対象に6月25日、東京都内でセミナーを実施、全国から指導主事らが集まった。



◆ 効果的なIT研修を ―― 目白大学教授 原 克彦 氏

目白大学教授 原 克彦 氏
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「学校ICT環境力」で身に付けた能力を発揮

  教育情報化推進協議会では、原克彦氏が中心となり文部科学省委託事業「ICT活用指導力向上研修パッケージ」を提供している。開発の目的は、教員のICT活用指導力の向上だ。教員のICT活用能力を整理、各能力を伸ばすための研修とその評価を提供するもので、校内研究、自主研修、一斉研修など様々な形で活用できる。
 「ICTはなぜ必要なのか」、「どのような能力が必要なのか」、「何から始めたら良いのか」等、様々な疑問に対応できるよう、指導力を以下の4つに分類した。  1、教育の情報化に必要な能力(先生方の指導力)の全体像が分かる。 2、自分に必要なICT活用指導能力などが把握できる。 3、それらの能力が身に付いたことを実感できる。 4、つけた力を発揮できる。  研修前に「教員のICT活用指導力のチェックリスト」、「教育の情報化に関するチェックリスト」で、自分に必要な能力を把握してから、研修に進むことができる。  研修後には、確認テスト等などで事後チェック。事前事後のチェックはWeb上で実施するため、この研修を受けてどのような力がどれだけ身についたのかがすぐに点数化され、把握できる。実際に同システムを活用した小中高等学校の教員養成課程の学生102名の平均が、1・3点から2・7点に上昇したという。  これらの研修で身につけた力を発揮するには、「学校環境」の条件も重要だ。そこで、身につけた力を発揮できる学校環境を「学校のICT環境力」とし、「別冊 学校のICT環境力 基準表&基準表の解説(以下、『解説』)」としてまとめた。ICT機器の整備、校内体制、学校への支援体制、授業実践、校務活用、経費などの項目ごとに具体的な項目を設け、「達成基準」を3段階(A、B、C)設けた。達成基準Aは、これから何とかしようと考えているレベル。Bは着手し始めているレベル。Cは国や各自治体の整備基準や考え方には到達したレベルだ。  原氏は「各学校においては、この基準表をもとに、自分の学校のICT活用のための環境がどの程度整備されているのか、不足しているものが何かを調査、できるだけ早い段階で多くの小項目を満たすように努力してほしい」と述べる。
テキストやワークシートは、誰でもダウンロードできる。(http://www.t-ict.jp)また、事前事後の評価システムなども含めたカリキュラムはIDとパスワードを取得することにより利用できる。問合せ=JAPET事務局Tel03・5575・5365


◆ 全教室でICT活用 必要条件を考える ―― 日野市教育委員会 梶野 明信 氏

日野市教育委員会 梶野 明信 氏
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教員のICT活用力向上にICT支援員は欠かせない

 東京都日野市教育委員会では、ICT活用教育を1つの柱として取り組んでおり、教員に1人1台の校務用PCを整備し、校務の情報化に取り組んでいる。小学校は17校、中学校は8校。教員数が小中合わせて650名であるから、650台以上の校務用PCが配備されている計算だ。
 梶野氏は「大前提は、『すべては子どもたちのために』ということ。具体的には、(1)魅力あるわかる授業実現ためのICT活用による授業改善 (2)校務の情報化 (3)学校Webサイトの充実で『見える学校』づくり。この3つをビジョンとして取り組んでいる」と話す。
 また、どのように各校でICTを活用しているのか。そのイメージを共有するために、「ICT活用実践事例集」(http://www.hino-tky.ed.jp/ict-edu/)で事例を提供している。
 ICT活用教育成功のポイントとして、梶野氏は「ICT活用教育推進室」ができたことを挙げる。平成18年度からスタートした推進室は、教育委員会の中でICT活用の戦略を進めていく役割を持つ。中でも最も注目されているのが、「メディアコーディネーター(以下、MC)」の役割だ。文部科学省では「ICT支援員」という名称で呼んでいるもので、ICTを活用する授業案の作成や授業中の指導支援、研修会の企画・運営、ICT活用ニュースの発行などに取り組んでいる。現在MCは3人体制で各校の要望に対応しており、各学校は、こんな授業がしたい、こんな研修が必要、という要望がある際に、MC派遣を予約する。予約は日野市のWebサイトで行う。
 梶野氏はMCについて、「教員のICT活用指導力向上にMCの存在は欠かせない。MCを技術的な便利屋さんで終わらせないためには、ICTを使ってどう子どもたちの力を伸ばしていくかについてビジョンが必要」と言う。
 MCに必要な能力については「先生方へのさまざまなサポートなので、先生方と話していて、何が必要なのかをイメージできる力や、コミュニケーション能力が重要。それがスムーズであれば、先生方から頼りにされるMCとなる」と話す。
 なお日野市のMCは業社に委託する形で、勤務形態は8時半から17時まで毎日。採用条件としては、教員免許保持者が望ましいとしている。


「地デジTV」「電子黒板」導入効果と活用法

◆ 地デジテレビ 校内LAN・コンテンツサーバで活用 
―― 相模原市教育委員会 学習情報班 指導主事 浅倉 勲 氏

相模原市教育委員会 学習情報班 指導主事 朝倉 勲 氏
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普通教室でリアルタイムに視聴せず コンテンツサーバを活用する

 本年政令指定都市となった相模原市では、全国に先駆けて昭和61年、1人1台の授業が可能なコンピュータ教室を整備、平成17年イントラネットの開始と、先進的に多くの実践を重ねている。平成22年度以降の4年間では「学校運営力を発揮できる学校のICT化」を掲げ、小中学校計109校の情報化を推進していく考えだ。昨年度の地デジテレビ対応に関しては、コンテンツサーバと接続した活用を進めている。
 ◇ ◇

 相模原市では、「学校のユビキタス化による確かな学力の育成」を目標とした整備を進めており、地デジテレビの導入について、まず学校現場の状況を把握した。市の独自調査によると、小学校低学年ではテレビをリアルタイムで視聴しているものの、学年が上がるに連れてその率は下がっていた。中学校ではリアルタイムの視聴はほとんどなく、利用率が高いのは、モニターとしての活用で、特に社会科、理科が圧倒的であった。これらを踏まえ、相模原市では、職員室にコンテンツサーバを置き、ここから各教室に教材配信できる校内LAN整備とした。普通教室ではリアルタイム視聴はしない、という整備モデルだ。テレビに関しては、全普通教室、特別教室、コンピュータ室、職員室に配備。全市で約2200台の50インチテレビが整備された。
 各教室からは、リモコンでコンテンツサーバにアクセス、そこに収録されたコンテンツを各教室で視聴する。独自教材作りを進めている相模原市だが、教材をコンテンツサーバに入れておけばリモコンひとつで呼び出すことが可能となり、より活用しやすくなった。リモコンがなければ児童生徒らが勝手にテレビを視聴することはできず、鍵の役割も果たす。
 デジタルテレビは、大型モニターとしても活用できる。実物投影機やデジタルカメラ、ビデオデッキをつなげば、投影したものをすぐに見せることができる。ノートPCをつなぎ、デジタル教科書や英語ノートデジタル版などのコンテンツを提示できる。インターネットに接続しているので、ネット上の教材も提示できるようになった。
 ある小学校では、教師は事前に大きな模擬時計の文字盤を何パターンかデジタルカメラで撮影し、SDカードをデジタルテレビに接続、それを提示して「時計の読み方」を学習した。また、ある中学校では、各グループに1台ずつテレビと顕微鏡を使い、顕微鏡で見つけた鉱物を実物投影機でテレビに映し、グループ内やグループ間で発見したものについて情報交換した。
 活用が進むと、書き込み機能も欲しくなる。ある教員は、透明のビニールクロスをテレビ画面に張り付け、そこに書き込んでいるという。このようなニーズが増えると、電子黒板の導入にもつながる可能性がある。
 浅倉氏は、地デジ対応整備の効果として、「デジタル教材の活用が身近になった点、子どもたちの学習意欲や学習効率の向上などを実感している」と述べる。
 なお著作権への対応についても触れた。著作権法第35条には、著作権者の了解なしに利用できる条件として、「(1)営利を目的としない教育機関であること。(2)授業を担当する教員や授業を受ける児童・生徒がコピーをすること。(3)本人の授業で使用すること」とある。そこで相模原市では、ビデオや自作教材はコンテンツサーバに蓄積し、録画視聴は各教室で行う。録画コンテンツには、収録者の名を明らかにし、他の教員は使うことができない。また、異動してきた教員が前の学校で使っていたものもガードがかかっており使えない。浅倉氏は、「大事なことは、先生方が著作権に関する意識を持つこと」と結んだ。


◆ 地デジテレビ 実物投影機 セット導入で成果 ―― 船橋市立若松小学校 秋元 大輔 氏

船橋市立若松小学校 秋元 大輔 氏
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導入時は研修の最大のチャンス 短時間で大量に良い事例を示す

 前・船橋市管理部総務課、現在若松小学校で教頭を務める秋元氏は、平成17年度から19年度まで、文部科学省の生涯学習政策局参事官付メディア係長を務めており、当時担当として地デジテレビ導入にも取り組んだ。その経験を踏まえた導入・整備を船橋市で実施した。
 ◇ ◇

 船橋市では、地デジテレビを導入する際、「テレビと実物投影機(書画カメラ)はセット」という方針で進めた。この理由を秋元氏は「市の財政当局は学校でテレビがそれほど使われていないことをよく知っており、予算が通らない可能性があった。そこでテレビが活用される方法として、テレビは教室で見せるための提示装置であり、モノを提示するための実物投影機はセットで必要という点を強調して予算要求を進めた」と述べる。
 その根拠については、文部科学省の報告書にあるという。19年度の報告書で、実物投影機を使った地デジテレビの活用が17年度では10・39%であったが、その2年後は15・95%と上がっており、「最終的に教員が一番使ったのが実物投影機」と分析した。
 全校全教室へのデジタルテレビと実物投影機を要求したものの、21年度に導入できた実物投影機は、小学校全54校1〜3年生の全教室、4〜6年生は各学年に1台であった。その結果、何が起こったか。
 「常時教室に置いてある効果はとても大きかった。1〜3年生では、朝、子どもたちが教室に来て、まずデジタルテレビと実物投影機の電源を入れることが習慣化した。教員は、1年生の場合は鉛筆や箸の持ち方、読み聞かせなどを朝の短い時間で取り組んでいる。一方、学年に1台の4〜6年生は、あるクラスが使いたいと思っても、他クラスの予定を見ながら使わなくてはならず、なかなか活用が進まない。しかし、一度実物投影機の効果を知った教員が、ぜひ各教室に欲しいと言い始めた。そこで本校では、PTA後援会にお願いして、高学年も全教室に導入した」
 秋元氏は「機器を入れたときが旬。ここできちんと研修しないと、使わずに教室に置いてあるのが平気になってしまう」と述べる。そこで、機器を入れた学校すべてに研修を実施。今回は1〜3月が導入時期だったため、約3か月間で実施する必要があり、時間に制約があった。そこで、1校について30分程度の研修時間とした。内容は、「テレビと実物投影機を使いたい気持ちにさせる」ことを目的とし、よりレベルの高い研修は、夏休みなど次の段階とした。まず秋元氏が10分間程度で説明し、次にメーカーの担当者が機械の説明を5分間。残りの15分で、教室を前後2つに分け、テレビと実物投影機を2セット用意し、前後で同時進行で行う。
 秋元氏が行う説明は、「地デジテレビの良さ」、次に「テレビ(画面)と実物投影機の活用方法」だ。前者については、臨場感あふれる音と映像、操作が簡単、フレキシブルな操作性、拡張性など。後者については、強調したいところを大きく写すことができる、小さいものも大きく見せられる、PCとつないでインターネット画面も見られる、理科の模範実験は児童・生徒が自分の席から見ることができる、周りのすべてのものが教材化できる、といった事例紹介などだ。「導入時は最大の研修のチャンス。使いたい気持ちにさせ、授業参観などですぐに使えるような内容にすると、活用が進みやすい。学年で3クラスある場合、2クラスの先生が使うと、残り1クラスの先生も必ず使うようになる。そのためには、できるだけ短時間によい事例をどんどん見せていくこと。これはすぐできそうだ、ここまでできたらいいな、と思わせ、デジタルテレビの良さと実物投影機の良さを示すこと。電子黒板機能が付いているテレビでも、いきなり電子黒板の使い方と言うと抵抗を持つ人もいることを考え、まず映す→書き込むという流れを示すこと」と、研修のポイントを挙げた。


◆ 「整備」見据えた「研修」で成果 ―― 堺市教育センター 情報教育グループ 指導主事 浦 嘉太郎 氏

堺市教育センター 情報教育グループ 指導主事 浦 嘉太郎 氏
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「モノ」がなければ始まらない 学習機器は整備台数が重要

 堺市教育委員会教育センター情報教育グループで8年間、ネットワークの整備や電子黒板などの導入、テレビ会議を使った研修など、ICT活用に関する様々な取り組みを行っている浦氏は「整備時の利活用を想定した研修が重要」だと話す。
 ◇ ◇

 堺市では、電子黒板の有効性が注目され始めていた平成18年、指定校小学校9校に電子黒板を配備。効果検証の平成20年には、小学校28校、支援学校2校にボード型を各1台、ユニット型を各1台配備したが、限られた整備のため、一部の教員の活用にとどまったという。
 「電子黒板を見て、自分の授業のどの部分でどう使っていいのか想像できない教員や、これまできちんとやってきたのだから使う必要を感じないという教員もいた。台数が限られているため、設置場所が限られていたり、移動するなど準備が必要であった。また、整備内容と研修内容がうまくマッチングしていなかった」と平成20年度までの状況を述べた。
 そこで、「整備時に教員の利活用を想定」できるよう、「整備と研修の一体化」をめざした。
 平成21年度からは、小学校外国語活動のスタートに伴い、そこでの活用を目的とし、一般財源で、全小学校にユニット型電子黒板とプロジェクター、マグネットスクリーン、専用端末、スピーカーを2セットずつ配備。小学校外国語活動を目的とした導入・活用研修は、目的が明白であり、文部科学省から配備されたコンテンツもそろっていたことから、一定の効果が見られ、活用が進んだという。ユニット型の活用が進むにつれ、「昨年入ったボード型と似ている、じゃあ同じ目的で使おう」ということにもなった。
◇    ◇
 市立高等学校には全教室にボード型電子黒板を整備。高等学校においては校舎の改築が進んでいたこともあり、教室前面にはボード型電子黒板を固定設置、プロジェクターは天吊り、無線LANのアクセスポイントを配備した。校務用PCも、この機会に教職員1人1台配備。これらの整備を前提に研修したところ、教員に好評であったという。
 「スイッチひとつで投影できる様子を見て、これまでそれほど興味を持っていなかった教員からも、様々な使い方のアイデアが出るようになった。これまでこちらが何度研修で伝えても浸透しなかったことが、そのまま教員から、教員の意見として出てきた」
 ここまでくると、活用も一気に進む。現在では各授業で様々な工夫がされており、もうこれがないと授業ができない、という声さえ出てくるようになったという。
 また、特別財源(補正予算)の「電子黒板研究校」では、小学校1校、中学校1校の全教室に電子黒板付デジタルテレビを配備。あわせて配備したHDDブルーレイレコーダ、書画カメラ、デジタルカメラはすべてフルハイビジョン対応だ。また、小学校にICT支援員を配備した。
◇    ◇
 「機器が生徒たちに壊されるのでは?」という心配については、「整備した学校の報告によると、勝手に触るな、電源を入れるな、とは言わず自由に使わせるようにしたところ、破損事故はゼロ。休み時間になると生徒が自由に電子黒板を触ってインターネットエクスプロラーを開くなど、教室の中に溶け込んでいる、と聞いている」と述べた。
 これらの整備と研修について浦氏は「結局、モノがあるかないか、がすごく大きい問題だった。モノがあると教員は取り組む。校長先生や教頭先生も、モノがなければ始まらない、と言うようになった。そんなんムリや、とおっしゃっていた先生がICT活用を、たいへん積極的に深く理解してお使いになっている。非常にスムーズに使われており、多くの教員が喜んでいる」と話す。
 「小・中学校ではそれぞれで違いがある。スピードではなくアプローチが違う、と考えて、導入デザインや研修を進めていくことが重要。電子黒板は学習用機器。やはり整備台数は大事であることを実感している」と述べた。
【堺市教育センター】http://www.sakai.ed.jp/

【2010年08月07日号】


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