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INTERVIEW 
ICT活用と学力向上

──ICT活用 新しいステージへ
「使う」から「使いこなす」「ノウハウの蓄積」へ

和歌山大学教育学部付属教育実践総合センター
 豊田 充崇氏

豊田 充崇氏

 ICT活用による学力向上効果が様々な調査結果から明らかになっている。豊田充崇氏(和歌山大学教育学部附属教育実践総合センター)、野中陽一氏(横浜国立大学教育人間科学部)らの研究によると、ICT活用により学力向上が認められた教科や分野にバラつきが見られたという。バラつきはどんな場合に起こるのか。どんな使い方をすれば学力が向上するのか。豊田充崇氏に聞いた。

 豊田氏らは、これまでICT活用授業を受けたことがない小学校5年生を対象に、ICT活用授業における学力向上効果について検証した。06年の対象教員は、ICT活用初心者・教職歴20年以上の女性教諭(事例1)。07年の対象教員は、ICT活用に長けた教員採用2年目の男性教諭(事例2)。

 対象クラスには以下の条件を整備した。@長期間(半年間)、常時ICT活用を行う。具体的には、液晶プロジェクター、スクリーン、スピーカー、ノートPC、実物投影機を教室に設置 A「デジタル教科書」「電子掛図」ほかデジタルコンテンツの整備。

 事例1の対象クラスで最も多かった活用方法は、実物投影機を活用し、教科書や問題プリント等を拡大提示しながらの説明。全教科において実施、特に算数や国語で多く活用した。

 対象クラスは、和歌山県学力診断テストでは各教科ともに県平均正答率を下回っており、全体的に既習事項の定着度が低かったにも関わらず、ICT活用授業後の3学期、市販テストにおいてC評価(50点満点中35点未満)は、1学期と比較して半減。教科書に完全準拠した「デジタル教科書」を用いた国語科では特に顕著で、各観点において全体的に上昇が見られ、特に「話す・聞く」観点が大きく伸びた。

 また、社会科における「技能・表現」「社会的な思考」が顕著な伸び。社会科においては実物投影機を使い、各種資料を提示・説明していた。理科では、「知識・理解」でA評価(50点満点中45点)が100%に達し、「技能・表現」でも90%以上の児童がA評価を得るなど、全般的に学力向上が見られた。

◇   ◇

 事例2では、半年後の市販テスト結果で、算数、理科の正答率に上昇が見られたが、国語・社会においては限定的だった。

 正答率が3観点においてすべて向上した算数においては、教科書準拠のデジタルコンテンツを補習に活用、教科書の問題やプリントなどの練習問題の回答を実物投影機で提示、繰り返し丁寧に説明するなどをした。
 理科では、過去に標準学力テストで県平均を下回っていたにも関わらず、すべての観点で学級の平均正答率が全国平均を上回った。

 一方、国語は若干低下したが、「書く」の観点は全国平均を大きく上回った(クラス平均94・6、全国平均86・2)。要因として、子どもたちの作文を実物投影機で提示して発表させ、良い表現を示すなどの学習活動を積極的に取り入れていたことが考えられる。

◇   ◇

 事例1の教員はベテランでどの教科にも苦手意識がなかったことから、シンプルな活用方法でありながら普段の授業に効果的にICTを活用していた、と考えることができる。

 それに対し、事例2の教員は国語、社会に苦手意識を持っており、デジタルコンテンツを投影しながらも、それを授業デザインの中に効果的に取り入れることに難航した、と考えることができる。

 「ICT活用」の導入効果は、その使い方や教師の意識によっては効果が限定的になる場合がある。その一方、たとえ国語を教えることに苦手意識を持つ教員であっても「実物投影機で作文を大映ししながら表現を確認し合うと、書く力をつけることができる」など、ノウハウの積み重ねも可能になる。今後は、ICT機器に関して「どんな使い方をすればどんな力がつくのか」、そのノウハウの蓄積が望まれる。※上記研究報告書は、和歌山大学教育学部附属教育実践総合センターHP「センター紀要」(NO17、18)からダウンロードできる。

【2009年3月7日号】

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