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地域連携で電子黒板を活用

三重大学
三重大学
後藤太一郎教授

三重大学教育学部 教員養成の試み

 三重大学教育学部では、地域の小学校との連携で教員志望の学生の資質向上を目指す試みをスタートした。そのひとつが電子黒板システム「mimio」とプロジェクター、タブレットPC、スクリーン等を介した学生や各校での活用支援だ。地域連携を進める理由とその方法、電子黒板の活用法について三重大学教育学部の後藤太一郎教授に聞いた。

地域連携で教員養成

 三重大学教育学部では、学校現場で役立つ指導力の育成を目指したカリキュラムを作成している。教育実習だけではなく、初年次より全学年にわたり、年間20日以上教育現場での活動時間を確保、実践的な指導力を育むというものだ。そのためには、附属学校だけでは不足で、より多くの小中学校が学生の受け入れ先として必要だ。
 そこで、隣接校区の幼・小・中学校との連携を強化、学生の教育現場体験を核とした教育モデルに着手。平成21年度「大学教育・学生支援推進事業 大学教育推進プログラム」にも採択され、「地域連携室」も新設した。
 後藤教授は、「きめ細かい地域連携のためには、指導教官の目の届く範囲であることが重要。そこで大学から自転車で往復できる距離での連携とした」と話す。
 学生が学校に貢献できる連携スタイルを模索、そのひとつが、学校のICT活用促進のサポートだ。三重県では、補正予算などにより鈴鹿市や伊勢市に電子黒板が導入されたが、津市ではデジタルテレビのみ。そこで、推進事業の採用をきっかけに電子黒板セットを20組用意、学生が授業で使えるように学ぶとともに、隣接学校に持ち込み、授業でのICT活用を支援することとした。電子黒板システムに「mimio」を採用した理由として後藤教授は、「NSTA(National Science Teachers Association)でmimioを見た。電子黒板を使うならばこれだと思った」という。学校持ち込みという関係上、持ち運びが便利な点も重要だ。地域連携校からは、早速「使ってみたい」という声があがり、活用がスタート。使い方に関する問合せには、地域連携室から自転車で駆け付ける。隣接地区ならではのメリットだ。

 

授業風景
絵カードの工夫を説明する

特別支援学級の理解を深める
津市立一身田小学校

 実際に各校ではどのように活用しているのか。
 津市立一身田小学校(三重県・山口悦子校長)では、同校の特別支援学級「しいの木」についての理解を深める特別授業が展開されていた。授業者は、特別支援学級を担当する村田真理教諭。
 村田教諭は、電子黒板で今日の課題を提示、「得意なこと、苦手なこと」や、「隣の子と自分の違うところ」を子どもたちに発表させた。今発表すべき課題は電子黒板に投影、出た意見は電子黒板上に書き込んでいく。

 「なおくんも、得意なこと、苦手なことがあるんだよ」
 村田教諭は、さきほど子どもたちから出た意見の一部を拡大して提示、「目で見て理解するのが得意な子、聞いて理解するのが得意な子がいるよね。なおくんも同じだよ」となおくんの特徴を示していく。なおくんは、絵がとても上手だ。そして、考えることに時間がかかる。騒がしい場所や冗談は苦手。
 「なおくんは、朝学習のときはみんなと一緒に学習します。どうしてだかわかる?朝学習は、みんなが静かだから一緒に勉強できるんだよ」、「国語の時間は、『しいの木』で勉強します。考えるのに時間がかかるから、しいの木でじっくり考えるほうが勉強しやすいんです」と、なおくんの写真を見せながらひとつひとつ説明していった。
 次の課題は「なおくんとの関わり方」について。なおくんの特徴についてまとめた投影画面と同じワークシートをグループごとに配布、話し合いを進める。「絵で描いて説明する」、「静かに授業を受ける、話し合いのときも大きな声を出さない」などの意見が出る。
 村田教諭は「ほかのクラスではこんな関わり方を考えてくれました」と、6年生が作ったひろくん(6年支援学級)に上手に伝えるための絵カードなどをスクリーンに提示した。

生徒
ワークシートをもとに話し合いも熱心に進む

得意なこと、苦手なことはみんな違う
視覚に訴える教材で焦点化

電子黒板で考えるきっかけを提供

 今日の授業の目的について村田教諭は、「特別支援学級の子どもたちのことを考えることで、1人1人みんな違って当たり前、その子にあった関わり方があると感じるきっかけを提供したかった。その理解が深まれば、子どもたち自身の生活の幅も広がるはず」と話す。
 電子黒板については「今見せたいところを素早く拡大できる点が便利。授業の進行に合わせて書き込みができる点、資料を効果的に提示できる点もメリット。使い始めたばかりなので、今後は様々な機能を効果的に使ってみたい」と言う。
 山口校長は今日の授業について、「子どもたちにとって視覚に訴えることの重要性を再認識した。今考えるべき点を『拡大』して提示することができるので、子どもたちの思考が整理され、考えやすかったようだ。いつも以上に課題に集中しており、話し合いが進んでいた」と述べた。
 地域連携室では今後も授業の様子をDVDに録画して保存、学生の授業研究や連携校への情報提供として活用を予定している。

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【2010年3月6日号】


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