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一斉指導から学び合いへ〜文科省主催で好事例を公開・共有

「学び合う」活動に焦点 学習者用PCの活用法を提案

 1月16日、千葉県総合教育センターにおいて平成23年度文部科学省主催「国内のICT教育活用好事例の収集・普及・促進に関する調査研究事業」関東甲信越ブロック研究発表会が開催され、全国から280名の教育関係者が集まった。当日は、市川市立真間小学校と千葉県立袖ヶ浦高等学校情報コミュニケーション科の授業公開と、関東ブロックから9校がポスターセッション形式で事例を発表した。テーマは、「21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して‐それぞれのNextStageへ!‐」。

文科省主催で好事例を公開・共有

 千葉県総合教育センターの草刈窄一所長は、「教育の情報化ビジョンに基づき、情報通信技術を活用した一斉授業に加え、個別学習と協働学習など学び合う活動についての研究に取り組んでいる。研究発表から、21世紀にふさわしい学びを目指したそれぞれのネクストステージに進むきっかけにして」とあいさつした。

  今年度は、一斉授業における電子黒板(IWB)の授業活用からさらに実践が進み、情報通信技術の活用で協働的な学び合いをどのように21世紀にふさわしい学びに結び付けるかという点を課題とし、学習者用端末などを授業に取り入れた協働的な試みが増えている。それに伴い当日公開された市川市立真間小学校ではグループに各1台、袖ヶ浦高等学校では1人1台の学習者用端末が活用されていた。

ICT活用 ICT活用
iPad2は調べ学習や資料提示にも
前時の実験のようすを振り返る
ICT活用 ICT活用
作品を見せ合ってアドバイスし合う
TPCでまとめた内容を電子黒板に一覧表示
ict ict

 

【公開授業】

グループ一台のTPCで話し合い――真間小

■千葉県市川市立真間小 4年理科でTPC

 授業者の則元亮教諭はまず、前時に行った「金属を熱する実験」の様子を撮影した動画を電子黒板に映しながら実験を振り返り、本時の課題「水を熱したときの温まり方」を提示。それについて各自で実験結果を予想してからグループで共有させ、グループごとに配布された学習者用タブレット端末(以下、TPC)にその予測を記入して電子黒板で発表し合った。

 師用PCはiPad2を使用。学習者用PCは、書き込みができるTPCを使用している。

  TPCに予測を記入し終えた児童は黒板用PCにその図を転送する。電子黒板には児童たちの予測が一覧表示され、教師はそこから発表させたいものを選択して電子黒板に拡大表示することができる。

  則元教諭は児童が発表した予想について、「以前の学習を踏まえている」、「身近な暮らしの体験を予測に生かしている」点などを評価。次の時間はこの予想を確認するために実験を行う。

  則元教諭はICT活用のポイントとして「実験の目的があやふやなまま実験に取り組むのではなく、明確な目的を持って実験する必要がある。そのために、1人で考える時間を十分に確保してからグループでの練り合い活動を行い、TPCにまとめるという段階を踏むことで、根拠を持って結果をしっかりと予想させるようにしている」と話す。同校ではICTの活用効果について、「電子黒板やタブレットPC、iPad2などのICTを活用したいという児童の意欲は高く、発表活動に良い影響を与える。グループに1台のTPCは話し合いをまとめるためのツールとして考えを深め合うことに役立つ」と分析している。

生徒全員が iPad2を所有――袖ケ浦高

■千葉県立袖ヶ浦高 iPad2を活用

  平成23年4月に新設された同校の情報コミュニケーション科は、情報活用能力や論理的思考力、コミュニケーション力、情報モラル・セキュリティ対応力など21世紀にふさわしい学力育成を目指し、情報通信技術を最大限に授業で活用している。全生徒がiPad2を保有しており、予習・復習はe‐Learningで、教材やプリント類はいつでもダウンロードできる環境だ。また、テレビ会議システムを利用して大学の講義も遠隔で受講できる。

  この日に公開された授業は国語科で、韻文の創作と批評、発表などを行った。

  元吉美智教諭が「資料集を開いて」と言うと、生徒は全員iPad2から資料集の該当ページを開く。情報コミュニケーション科の生徒は、入学時、保護者負担でiPad2を購入しており、鍵付きの個人ロッカーで各自が管理。そのデスクトップには思い思いの画像が表示されており、愛着が感じられるものになっている。

  生徒たちはこれまでに、俳句や短歌、ソネットなどの韻文を作成、それを映像的な作品にまとめている。写真を背景に使ったり、文字の書体や大きさを変えたり、動きや音、エフェクトを加えて視覚的な作品としてまとめたものだ。

  元吉教諭はまず、松尾芭蕉の俳句「閑かさや 岩にしみいる 蝉の声」が、推敲に従って「石」が「岩」になり、「しみつく」が「しみいる」に表現が変わっていく様子を視聴させながら、推敲の方法や重要性について説明した。

  「推敲」について確認した後、生徒はグループごとに制作途中の作品を発表し合い、意見を交換し合う。それらの意見を参考に、さらに作品に推敲を加えた後、最終形の作品を発表し合った。仲間の作品や自分の作品についての感想などはツイッターで書き込んでいった。

  作品に使用されている写真の多くは生徒が自分で撮影したもの。中には、ネット上で使いたい画像を探し、著者の了解を得てから使用した生徒もおり、永野直教諭は、「この1年間の学習で、ネット上の他人の目を意識できるようになり、危険があるからと避けるのではなく、やりたいことを実現するためにどんな行動を取るべきなのかという考え方に変わってきた。保護者からも、入学したことを喜ぶ声が届いている」と話した。

9校が事例を発表 ‐デジタル教科書や個人端末活用など

  デジタルポスターセッションでは9校が事例を発表。TPCやスレートPCなど個人端末と電子黒板、デジタル教科書活用などについての各教科の事例を発表した。

  東京都港区立高輪台小学校では、国語科・社会科・算数科・理科で積極的にデジタル教科書を活用している。

  掌サイズの持ち運びできる小型ハードディスクにデジタル教科書をインストール、各教員はそれを使ってどこにいても教材研究などができる。

  栃木県佐野市立界小学校では、全普通教室に電子黒板を導入して2年目を迎える。また、佐野市では平成23年度に市内全小学校にグループ1台程度のTPCが導入されており、同校では特別支援教室(2〜6年生、計6名)でもTPCを活用。これにより児童1人ひとりの自主的な学習時間が増えたことから、個別指導の時間をこれまで以上に確保でき、授業の流れが安定したと報告した。

 千葉県千葉市立葛城中学校では、英語科のWritingの授業で積極的にeJopuranalPlusを活用している。

 これは2008年に東京大学とマイクロソフトが共同開発した批判的読解力支援ソフト。「ドキュメント」「ナレッジマップ」「レポート」3つのエリアで構成されており、ドキュメントにアンダーラインを引き、それをナレッジマップに移動するとアンダーラインを引いた部分がノードに変化する。ノードに意見を書き込んだり自由にマッピングすることで、批判的読解力を身につけることができるというものだ。

 例えば10カテゴリに分けて英単語を記入、「好きなもの」「嫌いなもの」に分けてマッピング、レポートエリアで文章化することで、1文型ごとに多くの表現活動をより短時間で実現する。相互学習も可能で、様々な生徒の英作文に対してコメントを記入することもできる。

 コメントしたいという意欲がわきやすいため、より短時間で多くの作文を読み、積極的に自発的なコメントを作成していく活動が可能になることから、英語によるコミュニケーション力を楽しく自然に身につけることができる可能性のある活動と言える。

【2012年2月6日号】


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