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【特集】新年度の学校図書館<前編>

  文部科学省は平成24年度からの学校図書館の図書整備に関して第4次となる「学校図書館図書整備5か年計画」をスタートさせる。学校図書館図書標準の達成を目指し、5か年で約1000億円(年間約200億円)、新聞1紙配備分として約75億円(年間約15億円)の地方交付税措置となる。さらに、近年学校図書館担当職員の必要性が強く認識されていることから、今回初めて学校図書館担当職員(いわゆる学校司書)の配置のために約150億円の地方財政措置となる。新学習指導要領が全面実施される中、「読書センター」「学習・情報センター」としての学校図書館の機能向上について特集する。

島根県の「学校図書館力」 県主導でパワーアップ図る

iPad教材
奥出雲町立横田中学校 入口を入ると、
書架全体が見渡せるように配置を工夫した

  学校図書館の活性化に力を入れている県や自治体が注目を浴びているなか、島根県では平成21年度より、県主導で「子ども読書活動推進事業」をスタート。小学校・中学校への学校司書等の配置を始め、さまざまな施策に取り組んでいる。島根県教育委員会指導主事・槇川亨氏に聞いた。

学校司書等整備率 27%から99%に

  同県の読書推進事業は、平成20年2月、ある県議の勧めで同県の溝口善兵衛知事が松江市内の小学校を視察、朝8時過ぎの図書館の前に、本を借りる子どもたちの長い行列を見た時から動き出した。

  学校図書館が子どもたちの知の交流スペースとなっている松江市の事例を広く県内に広げようと「子ども読書県しまね」を目指し、「子ども読書活動推進事業」をスタート。まずは学校司書等を小・中学校に配置。これにより、平成20年の配置率27%が、21年度には98%、23年度には99%となった。

  同時に、図書館整備にも着手。21年度6月の県補正予算により、「学校図書館パワーアップ事業」をスタート。これは、全教職員の協働によって学校図書館の整備に取り組む推進校15校を指定し、その成果を県内に広く普及することで、広く学校図書館の整備が進むようにするものだ。予算は1校あたり50万円。

司書教諭養成に 約480万円

  同年「学校図書館活用コンクール」も開始。これは学校図書館を活用して、他校の参考となる取り組みを展開している小・中学校を表彰するというものだ。

  このような取り組みを進める中で、平成21年4月に指導主事に就任した槇川氏は、学校管理職への働きかけや、研修の場、学校図書館の改造に取り組む学校現場などにも足を運び、情報発信を積極的に行った。

  学校図書館活用教育研修用DVD作成もその1つだ。DVDは全市町村・小学校・中学校・高等学校に配布した。同年12月にはHP「子ども読書県しまね」をオープン。ここでは、学校図書館パワーアップ事業で学校図書館の整備に取り組んだ学校事例を「学校図書館大改造」として掲載(写真)。そのうち4校の事例についてはDVDも作成した。

  平成22年度からは、全学校の司書教諭配置を目指し、研修をスタート。県内5か所で年1回実施している。司書教諭養成のため約480万円の予算も組まれた。学校司書向けの研修会も年5回以上実施されている。
このほかにも、「しまね学校図書館活用教育フォーラム」やイベント、家庭・地域に向けての取り組みなどについてもHP上で紹介している。

  事業スタート以来3年を経て、槇川氏は「読書推進活動は進んでいる」と実感している。文科省学力調査の児童生徒質問紙において島根県では、19年度の「月曜日〜金曜日に全く読書をしない」小学生は21%、中学生32・8%だったのに対し、22年度には小学生17・9%、中学生30・8%と減っており、全国平均(公立)と比べても小学生で2・8%、中学生でも7・3%低い。

  各自治体にも学校図書館の重要性が浸透してきている。同県では学校司書等として、学校司書A(1日5時間・週5日・年35週勤務)、学校司書B(1日6時間・週5日・年52週勤務)、有償ボランティア(1日1時間・週5日・年35週勤務)の3タイプあり、学校司書AとBは、市の場合は2分の1、町村の場合は3分の2を県が負担、有償ボランティアは20万円と全額を県が負担している。

  事業初年度の21年度は司書A/Bが142校、有償ボランティアが196校だったが、23年度には学校司書A/Bが173校と増え、有償ボランティアは152校と減少している。各自治体の負担額が増すにも関わらず学校司書が増加しており、より長時間勤務が可能な学校司書の必要性を各自治体が認識していることの表れと言える。

地方交付税措置 もっと活用を

  平成19年度からの文部科学省による地方交付税措置「学校図書館図書整備5か年計画」(第3次)と、普通交付税措置「住民に光をそそぐ交付金制度」によって、各自治体の学校図書の購入予算も増えている。平成24年度からの「学校図書館図書整備5か年計画」などの地方交付税措置についても、教育委員会は情報発信している。単に地方交付税措置の連絡ではなく、これまで取り組んできた事業についてその成果を報告し、その具体的な利活用法について自治体へ呼びかけている。

学校図書館にタブレットPC

学習の拠点として機能 ―京都市

  京都市は24年度当初予算案に「21世紀型ICT教育の創造モデル事業」として400万円を計上した。小中学校10校を研究校に指定、各校にそれぞれ20台のタブレット型PCを導入し、活用方法などを3年間にわたり研究する。

調べ学習で効果測定

  情報化推進総合センターの岩本情報教育係長によると、タブレット型PCを、まず図書館で利用してもらい、調べ学習などで効果を上げることを目指すという。

  京都市では学校の統廃合などで校舎を新設する場合に、図書館とPCルームを統合してメディアルームとして設置するケースがある。これは本の情報と、Webの情報とを同時に活用することで、情報をより高度に活用する能力を身につけることを目指すためだ。しかし、既存校では構造上の問題で、図書館とPCルームを近づけることが難しいところもある。こうした学校でも、簡単に移動できるタブレット型PCを図書館に持ち込むことで、調べ学習などでより高い教育効果を上げることが期待される。

自由な発想を期待 複数のOSで幅広く

  京都市立桃陽総合支援学校では、文部科学省の学びのイノベーション事業および総務省のフューチャースクール推進事業の委託先校として、タブレット型PCを始めとしたICT機器を導入している。

  同校では教員が機器の活用法を独自に考え、多くの試みが行われている。今回導入されるタブレット型PCについても、教員の自由な発想を引き出し、オリジナルな活用方法を考えてもらい、多様な活用方法を試してもらいたいという。

  また、OSによって使用できるアプリケーションが決まってしまうため、同一環境にはあえてこだわらず、複数のOSを導入し、それぞれの有用性について検証を進めていく考えだ。

  Android端末やiPadなどの場合、利用するアプリケーションを購入してダウンロードしなくてはならないが、その決済の方法も課題だ。クレジットカードやプリペイド式カードで代金を支払う仕組みだが、学校で使用するアプリケーションをダウンロードする場合、どのような決済方式が適当か検討する。

4年後を見据えて 機器の課題を検証

  京都市では6年間のリース契約で各PC教室のPCなどを整備しており、次は平成28年度から新たな機材を導入する予定だ。今後、学校へも携帯型の情報機器の導入が進むと予想される中、28年からの機器更新に備えて、あらかじめ課題を検証する目的もある。

学校図書館図書標準とは

 学校図書館で必要とされる図書の冊数に関しては、文部科学省が「学校図書館図書標準」を定めている。

  それによると、「公立義務教育諸学校の学校図書館に整備すべき蔵書の標準」は、下表の通りとなっている。

  たとえば、K小学校(35人学級・各学年2クラス・合計12学級)の場合、計算式は

  5080+480×(学級数‐6)

  よって、K小学校は5080+480×(12‐6)=7960(冊)となる。

  他に中学校・盲学校(小学部)・同(中学部)、聾学校(小学部)・同(中学部)・養護学校(小学部)・同(中学部)の基準がそれぞれ設けられている。

  ただしこれは平成5年3月に定められたもの。学校図書館の活用を重視する新学習指導要領をふまえた場合、この蔵書数では対応しきれない、という現場の声も。一方で文部科学省によると、この図書標準に達しているのは、小学校の約半数、中学校の半数弱に過ぎない、という現状もある。

  昭和34年に当時の文部省が制定した「学校図書館基準」では本の分類ごとの基準も盛り込んでいるが、その後改定されておらず、文部科学省ではまずこの学校図書館基準の内容の見直しを検討したい、としている。

  また、文部科学省の図書標準とは別に、全国学校図書館協議会(全国SLA)が定めた「学校図書館メディア基準」(平成12年3月21日制定)がある。こちらでは文科省の図書標準とは異なる計算式による蔵書の最低基準冊数に加え、日本十進法(NDC)に沿った配分比率や、ビデオ・ソフト(DVD等の映像資料)、コンピュータ・ソフト(CD‐ROM、DVD‐ROM等)など各メディアについての基準も定めているので参考にしたい。

  なお、学校図書館を学習センター・情報センターとして活用するためには、単に蔵書数が標準値に達するだけでなく、適切な更新も重要である。

まかせて!学校図書館 ―スズキ教育ソフト

図書活用を教材化

iPad教材

 昨年度より小学校で新学習指導要領が実施され、国語科の高学年の学習内容に、具体的な図書や図書館の利用指導に関する記述が追加された。

  スズキ教育ソフトが昨年発売した「まかせて!学校図書館 第1巻」は、図書館の使い方や本の扱い方、調べ学習の方法などを指導することができる提示用教材だ。司書教諭や学校司書だけではなく、一般教諭も活用できる。事前に視覚的な教材を使うことで、より円滑かつ効果的に図書館を活用する力を育む。

  8つのサンプルストーリーで構成され、その内容は一部編集することができるため、各学校の状況に応じた教材を作成することができる。

  その他、アンケート、ワークシートをストーリーに盛り込むことも可能で、よりオリジナル性の高い教材となる。読書だけではなく、子どもたちが図書資料をいかに活用し、情報をまとめることができるか。学校図書館に求められることはますます増えてくるが、本ソフトはそれを支援してくれる。

■小学校低学年用
「としょかんってどんなところ?」「としょかんのきまり」「本をたいせつに」「近くのとしょかんへ」「本のばしょをおぼえよう」「よく読む本はどこにある?」「もくじってなに?」「さくいんってなに?」

■小学校高学年用
「図書館ってどんなところ?」「図書館のきまり」「本を大切に」「近くの図書館へ」「分類って何?」「目次の使い方」「索引の使い方」「キーワードって何?」
(小学校低学年・小学校高学年/シングルライセンス各2940円・税込)

http://www.suzukisoft.co.jp/

【2012年4月2日号】

 

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