特別支援とICT そしてFS仕分け―富山大学 山西潤一教授

 総務省「フューチャースクール事業」2年目、文部科学省の「学びのイノベーション事業」との連携のもと全国で2校の特別支援学校が実証研究校として指定された。そのひとつ、富山県立ふるさと支援学校における実証研究プロジェクトリーダとして、先生方と日々学びのイノベーションに向けて取り組んできた。ここにその一端や課題を紹介したい。

特別支援とICT
山西潤一 教授
富山大学

  ふるさと支援学校では重度の脳性まひで寝たきりの児童生徒から、様々な病状、適応障害を持つ子どもまで多様である。まさに一人ひとりの病状も能力も異なる。このような児童生徒を対象に、指導にあたる教員は、少しでも学習能力の向上や自立に向けた能力改善に日々試行錯誤を繰り返している。そのような現状を見るにつけ、本事業の一人1台の学習端末(以下、TPC)は個の障害に応じた学習環境の構築に最適で、特別支援を必要とする子どもたちにこそ、この環境が活かされるべきだと思う。

  プロジェクト研究を始めるにあたって、小、中、訪問のそれぞれの先生方と何度も議論を繰り返し、大きな目標を以下の3点に置いた。一つは、応答する学習環境の構築とそこでの認知機能の向上や学習促進である。二つは、病気ゆえ、学習分野によって理解が進んでいない児童生徒を対象に、個別課題をTPCに入れての繰り返し指導である。これらは、70年代の認知発達学習理論やCAI、ゲーム学習理論などの成果によった。三つは、自ら目当てを持って学習や生活改善に取り組もうとする態度を育てようとする自立支援である。TPCにその日の健康状態や学習の目当てを書き込んだり、自身の振り返りや教員のコメントが簡単に提示できるコミュニケーションシステムの開発と活用である。

  23年度はこれらの目標を達成するためのハード、入出力インターフェースやアプリケーションソフト開発にあてられ、24年度に入ってようやく日々の授業や学校生活への利用が始まった。もとより子どもたちはデジタルネイティブな世代。TPCの活用に何の問題もない。視点が定まり自らの意志で対象物を操作しようとする脳性麻痺児、学習への持続が難しかった児童生徒の主体的取り組みなど、幾つかの可能性が見えてきたが、子どもたちの変容を記述し、その成果をまとめるべく先生たちは日々教育実践に熱心に取り組んでいる。

  ふるさとの先生たちと24年度事業の推進に向けた課題を議論しているさなか、総務省の事業仕分けで「フューチャースクール推進事業の廃止」のニュースが飛び込んできた。

  この事業は、教育の情報化ビジョン実現に向けた国の政策として進められていると理解していた筆者は、開いた口がふさがらない。そもそも国の公募型事業に採択され、3年間の実証研究やその後の管理運営予算まで厳格に査定しながら、突然廃止とは。仕分け人たる方々は教育の情報化政策の意義や、廃止の声が現場に与える影響を理解されているのだろうか。

  同じくフューチャースクールに取り組んでいるシンガポールや韓国は、国の教育の将来を見据えた学習環境構築や教育方法開発のモデルとして着実な成果を上げてきている。まさかこのまま本当に廃止になるとは思わないが、特別支援教育のICT活用に関するモデルとなるよう取り組んでいる子どもたちや先生方の期待を裏切らないで欲しいものである。

【2012年7月2日号】

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