【特集】特別支援とICT

【Do−lTJapan】小学生・高校生が体験 アクセシビリティ機能もっと活用を

 障がいや病気による困難を抱える高校生・高卒者に、それぞれの困難に応じた支援のためのICT機器・ソフトを提供し、大学進学や将来の就職を実現させようという取り組み「DO‐IT Japan」の夏季プログラムが8月1日〜4日に都内で行われた。第6回目となる今年のプログラムには、全国から8名の高校生と10名の小学生が参加。最終日の公開シンポジウムでは、「高等教育における障がい学生支援の最新情報」、「試験の本質を考える〜書字障がいの生徒に漢字書き取りの出題は適切か?」というテーマで講演が行われ、120名を超える関係者が熱心に聞き入った。

i‐Padで学習が容易に

  小学生プロジェクトでは、自分たちの苦手な分野をi‐Padの支援ツールでどのように補って勉強をすればよいのかを経験した。同プロジェクトはソフトバンクグループがサポートした。

  視力が弱かったり、文章を1行ごとに読むことが難しいなどでパンフレットの文章が理解しづらい児童は、パンフレットを撮影した画像を拡大し、文章を読みやすくすることができる。また、文字で書かれた文章を読んで内容を理解することに困難を抱えている読字困難の子どもは、文章を読み上げてくれる「ボイスオーバー機能」を使って、書かれている文書を理解することができる。位置感覚、方向感覚などの視空間認知に弱さがある児童は、道に迷ってしまうことが多い。そこで経路検索をして道順を事前に確認したり、道筋が示された地図の画像を保存、それを見ながら道順を確認できる。GPS機能を使って、地図上に現在位置を表示することもできる。

  最終日には、児童はi‐Padを使って試験に挑戦。この時使用されたのは、巌淵守・東京大学准教授が開発した、問題用紙を撮影したデータと問題文を読み上げた音声データを組み合わせ、さらにパネルに解答を書くことができるシステムだ。試験終了後、児童のほとんどは「i‐Padでテストを受けることができて、楽だった」と答えた。「楽しい」「面白い」ではなく、「楽」という回答は、学校で紙の問題でテストを受けている時、彼らが大きな困難を抱えていることを示している。

  DO‐IT Japanのディレクターを務める中邑賢龍・東京大学教授は、「視力が弱い子どもは眼鏡を使い、聴力が弱い子どもは補聴器を使う。同様に、会話理解、識字障がい、書字障がいなどの子どもも、適切な支援によって学びを実現することができる。今回参加した小学生は全員、普通学級に在席している。ICTの機能が学習へのアクセスを保証するという取り組みを学習に困難を抱える子どもたちに広げていきたい」と話した。

障害学生の受験対策を

自分の状況を説明できるようになった

Do−lTJapan

アクセシビリティ機能を学ぶ

  大学進学を目指している障がいや病気による困難を抱える高校生を支援する「高校生プログラム」は、日本マイクロソフト(以下、日本MS)のサポートを受けて実施された。

  参加者は、過去のDO‐IT Japanに参加、現在大学で学んでいたり、大学進学を目指している先輩の体験を聞いた後、「自立した生活を考える」というテーマで実際に大学に進学した時に直面する問題についてグループディスカッションを行った。

  障がい者自身が自分の抱えている困難を入試担当者に説明し、さらに必要な支援、配慮を求める「セルフ・アドボカシー」についても体験。各自、実際に自分についての説明をどう行うかを、先輩とペアを組んでそれぞれ考え、発表した。

  翌日は日本MS本社で、MSソフトに標準で組み込まれているアクセシビリティ機能(障がいがあっても操作が容易にできるように設定されている機能)を体験。例えば「Shift」キーを5回連続して押すと、固定キーロック機能が働き、指一本で入力ができるようになる。日本MSの大島友子氏は、「弊社では20年以上にわたり障碍(しょうがい)を持った方にとっても使いやすいものにする活動を続けてきている。WindowsやOfficeには標準でアクセシビリティ機能が組み込まれており、すべての方がコンピュータを快適に、便利に活用し、それぞれの方が持つ可能性を最大限に引き出せることを支援している」と話した。

木偏の"はね"  間違いではない

  最終日の公開シンポジウムでは、大学における支援の実態や、合理的な配慮について意見が交わされた。

  日本学生支援機構の田中久仁彦特別支援課長は、同機構が行った「2011年度大学、短期大学及び高等専門学校における障がいのある学生の修学支援に関する実態調査」について報告した。

  高等教育における障がい学生の在籍者数が初めて1万人を超え、全体の0・32%になっており、特に「病弱・虚弱」と精神障害、パニック障害、高次機能障害、統合失調症などの「その他」が急増しているいう。

  文部科学省高等教育局学生・留学生課の松尾泰樹課長は、「障がい学生の数は、米国の大学では10%なのに日本では0・3%に過ぎない。現在日本は障がい者権利条約の批准準備を進めており、批准されると教育においても障がい者への合理的な配慮措置を取ることが必要。今後、障がい学生の数は増えることが想定され、大学はどこまで支援すれば良いかが課題となる。文科省としては大学の意識を高めて1人でも多くの障がい学生が大学に入り、社会に出て行けるような仕組みを目指す」と話した。

Do−lTJapan
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i-Padで「覆」調べてみる

  西辻正副・文科省初等中等教育局視学官は「試験の本質を考える‐書字障がいの生徒に漢字書き取りの出題は適切か?」というテーマで特に手書きの漢字について話した。

  「国語における言語活動は文字、音声、画像などのメディアによって表現された情報を対象としている。ルールに則った読みの上に、正解が1つだけでない、よりオープン・エンドの解答を求める指導があっても良いのではないか。特に漢字の指導において採点時に、木へんをはねているから間違い、とするのはどうか。常用漢字表では、木偏の2画目の最後をはねても字体は同じとしており、間違いとは言えない。文字を書くという言語活動の表面ではなく言語活動を通して学ぶ内容の評価をすべき」と語った。

  中邑賢龍教授は、読字障がいの学生は、「読み上げソフトを利用しないと学習をすることが難しいケースもある。国語の『読み』の評価を問い直す必要があるのでは」と指摘した。

 

 

 

 


 

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【2012年9月3日】

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