【特集】指導者用デジタル教科書(2012年10月8日号)

児童の体験補い言語力を高める【小学校国語】−浜松市立中ノ町小学校

指導者用デジタル教科書
デジタル教科書の資料やアニメーション教材
は理解を助け、教室の雰囲気を整える役割を
果たす

 浜松市教育委員会では、小中学校の全教室に50インチのデジタルテレビを設置、それを提示機器として使えるよう教育用ノートPCも配備している。デジタル教科書は、小学校において国語、理科、社会を導入。浜松市立中ノ町小学校(静岡県・玉澤政春校長)では1985年より27年間継続して国語教育における研究を行っている。同校においてデジタル教科書はどのように活用されているのか。国語科の授業を取材した。授業者は山田正典教諭(2年1組)。

  この日の授業は「ことばの学習」の「カンジー博士の大はつめい」だ。めあては「かん字とかん字を合体させて、かん字をつくろう」で、漢字の構成を理解することを学ぶ。

  教室前方に設置されているデジタルテレビには、光村「国語デジタル教科書」が提示されている。山田教諭が「『力』と『田』を合体させるとどんな漢字になるかな?みんなで見てみよう」とデジタル教科書を操作すると、子どもたちは、「力」と「田」のカードが「合体ボックス」に入り、合体して出てくるアニメーションに注目。出てきた漢字は「男」だ。この教材で「漢字と漢字の合体」の意味をすぐに理解できたようで、児童は山田教諭が配布したワークシートの類題に取り組んだ。

指導者用デジタル教科書
指導者用デジタル教科書
「門」と「日」が合体ボックスに入ると「間」
こなる(上)ことを学んだ児童は、先生お手
製の合体ボックスに自分の考えた「合体漢
字を入れる学習に夢中になった(下)

  答え合わせもデジタル教科書のアニメーションで行った。「合体ボックス」から出てくる漢字に注目、自分の答えが正解だった子どもは、大喜びでアピールする。

  「みんなも合体漢字を作ってみよう」と山田教諭が取りだしたのが、教科書に掲載されていたものと同じ手作りの「合体ボックス」だ。

  教科書の「これまでに習った漢字」一覧を見ながら、児童は「合体漢字」を考え、配布されたシートに書き込む。「日+青」で晴、「言」+「舌」で話など、子どもたちは次々に書き込んでいく。発表の際は教室中から元気に手が上がった。

デジタル教科書 活用歴は7年目

  山田教諭はこの日の授業におけるデジタル教科書の効果について、「アニメーション教材で興味付けができるとともに、『合体漢字』の意味がスムーズに理解できたこと、『2つの漢字がボックスに入ると、合体した漢字が出てくる』アニメーションがきっかけで学習のゴールが明確になり、合体漢字を考えることに夢中になれたこと。教科書上の説明だと、今日ほど活動が盛り上がるのは難しい」と話す。

  前任校でも光村「国語デジタル教科書」が導入されていたことから、山田教諭の活用歴は7年と長い。当初はプロジェクターを移動して設定から始めて使っていたが、教室にデジタルテレビが常設されてからは、いつでも気軽に使うことができるようになり、活用場面も自然に増えたという。

生活経験の差 埋める役割も

  国語教育の研究歴の長い同校において、デジタル教科書はどのような位置づけにあるのか。

  「研究討議では、デジタル教科書をどう使うかのような話し合いは特になく、通常の教材と同様の感覚です。授業構成を考える際、『デジタル教科書の映像資料に使いやすいものがあった』、『冒頭ではデジタル教科書をこのように提示すると分かりやすい』といった意見が出ます」と話す。

  特に説明文教材や書く活動の補助において、活用効果が高いと感じているそうだ。

  例えば3年生の説明文教材「すがたを変える大豆」では、言葉だけで理解できない児童もいる。そこを、資料映像・教材などで補い、言葉の理解を促し、イメージをふくらませることができる。

  「子どもたちの生活経験の差が言葉の理解の差を生む原因の1つ。その差を補い、教室の雰囲気を整える役割を果たしていると感じています」

  資料映像は数分でコンパクトにまとまっているため、授業のリズムを損なわずにできる。また、「書く」教材では、書くときに気を付けるべき点が提示され、書く手順を分かりやすく伝えることができるという。

「提示」できる場面が増えた

指導者用デジタル教科書
50インチのデジタルテレビに提示
したデジタル教科書はPCで操作する

  教材研究や準備にも良い影響がある。資料探しに費やす時間、教材を作成する時間が減り、教材研究そのものに時間を費やすことができるようになった。「国語科では、教科書の挿絵を大きく提示して話し合い活動を展開することが多いのですが、以前は教科書を拡大カラーコピーしており、手間も時間も必要で、提示できる点数が限られていました。デジタル教科書ならば、挿絵を抽出して学校で拡大カラー印刷したり、デジタルテレビに大きく挿絵を映しだしたりして授業を進めることができ、様々な展開が可能になりました。また、デジタル教科書に同梱されたワークシートにはPDF版のほかにワード版があるため、加工編集が簡単にでき、子どもの実態に即した教材を作成できます」

  今後は、「話し合いを焦点化するための使い方を研究していきたい」と話す。「読み物教材では、それぞれの言葉から何を感じるかについて話し合い、読みを深め合う活動を展開しています。デジタル教科書上に子どもたちの話し合いの経過を書き込んでいくことで、言葉のイメージを広げ深め合う活動につなげていきたいと考えています。デジタル教科書上の書き込みは、そのまま保存できるので、次の時間の振り返りもスムーズ。すぐに話し合いの続きを始めることができます」

  なお来年1月25日には、第27回国語科研究発表会を開催予定だ。

 

【2012年10月8日】

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