特別支援教育の教材を整備充実
日本一を目指すことで 次の日本一が生まれる―広島市立広島特別支援学校

特別支援教育

中尾秀行校長

 広島市立広島特別支援学校(中尾秀行校長・広島県)は昨年9月に2万5千平方メートルの敷地に移転、新たな学校として再スタートを切った県内で最多の教室数を持つ特別支援学校だ。遠くはロシアや台湾から訪れるという同校の見学者は開校以来3月末現在で3700名に及ぶ。「日本一の施設・設備とともに教育内容」と話す中尾校長に特別支援学校としての役割と同校の特徴を聞いた。




五感を刺激する 居心地良さを提供

特別支援教育

玄関は屋根付きで雨でも
カサは不要

特別支援教育

児童生徒の作品や掲示物には
スポットライトがあたっていて見やすい

特別支援教育

アルコープは1人用と2人用がある

 同校の移転・開校にあたり土地の選定から係わったという中尾校長は、「知的障がいの子どもたちに安心して快適に生活できる"我が家"を提供したかった。日本一を目指すことで次の日本一が生まれると考え、ぎりぎりまで時間をかけた」と話す。

  学内には至るところに特別な支援が必要な子どもに対するきめ細かい配慮が見られる。五感への刺激を通して外界を知り、リラックスできる環境とニーズに応じた器材を提供する、という「スヌーズレン」※の発想が生かされているようだ。

  木造を主体とした普通教室は72室、特別教室は20室以上。登校時間にスクールバス19台が並ぶ玄関は屋根付きだ。各階のホールは広々としており、隠れ家のような小部屋(アルコープ)が各所に設置されている。

  ホールや体育館の空調は床に整備され、24時間快適な温湿度に保たれる。4機あるエレベータは色分けされており、滅菌効果のあるアロマの香りが漂う。階段も5種類に色分けされており、広い校舎でも迷いにくい。壁に飾られた児童生徒の作品は、見やすいようにスポットライトが当てられ、様々な教材で雑然としがちな教室も、豊富な収納ですっきりとしている。外光を取り込み程よい照度を確保した温水プールは車いすのまま入ることもできる。スヌーズレンルームは、プロジェクターの光やウォーターベッドなどで静かに過ごす部屋、遊具などで活発に過ごす部屋の2種類を用意した。

目的は卒業後の自立と社会参加

  保健室やトイレなど各室表示も分かりやすいようにピクトグラム化、英語でも表記。トイレには消音機やシャワー洗浄機を完備し、デパートや駅など公共機関と類似の環境を提供。社会に出た際の順応性を育む。

  高等部普通科では職業コースを設置。職業教育のための食品加工室、クリーニングや清掃、陶芸、木工、工作機械、接客・販売、PCなどの実習ができる特別教室があり、企業就労に向けた専門性を高めている。


想像以上に多い 印刷物数・種類

 同校の特徴の一つは学級数と教員数の多さだろう。児童生徒数は平成25年5月1日現在計395名(小86・中74・高235)78学級(小24・中17・高37)。全教職員257名で、教諭はそのうち151名。教職員が多いこと、特別支援拠点校としてのセンター的機能も持つことから印刷物の多さは想像以上だ。

  部数はもちろんだが、様々な教材や掲示物、学級通信など印刷物の種類が多い。学校公開時には厚さ約1センチメートルの資料を400部以上印刷する。入学後の健康調査票も、特別な支援に対応するため質問項目が多岐に渡っており、10ページ以上になる。

  職員会議は可能な限りペーパーレスで行っているが、月平均6〜7万枚もの印刷数で、輪転機の音が毎日のように夜遅くまで続いた。

  そこできめ細かい指導やその充実のためには教職員の時間の確保も必要であること、「教材・教具を個別に作成できるカラー印刷機が必要」という教員ニーズから、今年3月末にカラー印刷機「オルフィスEX」(理想科学工業)を導入。業務負担軽減や児童生徒の教材・教具作成に役立っている。

  「オルフィスEX」の特徴は、印刷速度と圧倒的なコストパフォーマンスによる教材・教具作成機としての有効性にあるという。印刷速度はA4片面で毎分最高150枚。12Pほどの冊子100部であれば10分程度で印刷ができ、A3中とじ印刷やホチキス留めも自動でできる。

  「必要数をその都度印刷することができ、修正もギリギリまで対応できることから、それまで業者に出していた印刷物の多くを学内で作成するようになった」という。

  しかし当初、カラー印刷機の購入希望を教育委員会に申請した際には「本体価格が高価すぎる」と却下された。そこで必要性を文書にまとめ、校長自ら「特別支援学校にとってなくてはならない印刷機」と伝えたところ、購入が許可されたという。

低コストで教材・教具作成に貢献

特別支援教育

同校ではフルオプションで
「オルフィスEX」を導入した

  特別支援学校の児童生徒の多様なニーズに対応すべく、教材・教具は各教員が自作することが多い。その際、「色彩」は重要な教育要素の一つ。児童生徒の作品もカラーで印刷したい。しかし「カラー印刷は高コストなため使用制限がある」というのが多くの学校におけるポリシーであり、同校においてもカラー印刷を躊躇する雰囲気があった。

  「カラーニーズは高いがコストは抑えたい。オルフィスの導入により、この2つの課題を解決できた。さらに教育内容の充実やその周知をサポートする環境がさらに強化された」と話す。

  昨年11月に実施された公開授業研究会と第7回教材・教具展示会では、各教員が作成した教材・教具を展示するとともに、教科ごとに使い方とその写真を掲載した資料集も作成した。全60ページの大作で、500部程度を印刷したが、それもすぐに印刷できたという。

  今年は11月28日に実施する予定で、全国から広く参加を募る。なお教材・教具資料集は同校Webでも紹介している。

※「匂いを嗅ぐ」、「うとうとする」意味のオランダ語からできた造語。五感を刺激してリラックスできる環境を指す。

【2013年7月1日】

関連記事

特別支援とICT

↑pagetop