第12回教育委員会対象セミナー仙台 タブレット端末・電子黒板・校務の情報化

標準仕様で校務の情報化 成功のポイントは“連携” ―鳴門教育大学大学院 藤村 裕一氏

教育委員会対象セミナー
鳴門教育大学大学院
藤村 裕一氏

 藤村氏は、全国地域情報化推進協会(APPLIC)教育WGで主査を務めており、文部科学省と総務省のオブザーバ参加の下、全国標準仕様である「教育アプリケーションユニット標準仕様」と「教育クラウド整備ガイドブック」の作成に関わっている。

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横断的組織で業務の見直しを “セキュリティの確保” “研修の充実”

  教育の情報化ビジョンでは、第5章で「校務の情報化の在り方」について、第6章で「教員への支援の在り方」について触れられている。

  また、文部科学省が示した「教育分野の取り組み 工程表」では、2020年までに「全ての学校に校務支援システムを普及」すること、「ICT支援員の配置を推進」することとしている。

  これは、教員の残業時間が、昭和41年当時月8時間であったのが、平成18年調査では月34時間となっており、「生徒指導等」「授業準備・成績処理等」「事務的業務」の時間が増えている(昭和41年度及び平成18年度度教員勤務実態調査より)ことや、教員が日頃ストレスを感じる業務の1位は「校務処理」となっていることなど(ISEN 校務の情報化と学校セキュリティに関する教員の意識に関するアンケート)の問題を解決するための方策だ。

英国・韓国の「校務の情報化」

 では、海外ではどうか。

  10数年前に全教室に電子黒板を設置したイギリスでは、現在1人1台の学習者用端末整備に移行しており、校務支援システムについてはボトムアップによりほぼ全ての学校でSIMS(=School Information Management System)が活用されている。

  ICTによる学校支援の成果についてイギリスでは、国語・算数の成績について、経済的に同様の状況の学校における1人1人の伸びを調査しており、悪条件でありながら成果を上げている学校の手法を見習い学校経営の改善に取り組んでいる。

  それに対して韓国ではトップダウンで校務情報化が進んでおり、教育委員会に大規模なデータセンターを設置してプロのSEが管理、ヘルプデスクも30名程度常駐しており、職員室はペーパーレス化が進み、各教室には教師用のプリンタが設置されている。

  日本においては自由民主党の教育再生実行本部が公開した「成長戦略に資するグローバル人材育成部会提言」で「成長戦略実現上、投資効果が最も高いのは教育」であり、「グローバル人材育成のための3本の矢」として、「英語教育の抜本的改革」、「イノベーションを生む理数教育の刷新」、「国家戦略としてのICT教育」が掲げられているが、教育改善を支える校務の情報化ビジョンが抜けていることから、その必要性重要性を改めて訴求していく必要がある。

予算確保のための導入目的を整理

  校務の情報化の進捗に伴い見えてきたこととして、予算獲得や効果的な運用成功の方策、導入したものの不安が残る自治体が抱える課題など、いくつか焦点化できる問題点がある。

 まず、予算獲得について。

  予算を獲得するためには、その目的と必要性を財政課に訴求する必要がある。しかしここで「教員の負担を軽減する」ことを第一目標に掲げることを良しとする財政課は多くはない。

  そこで「校務の情報化を進めることで子どものための教育改善ができる」点を訴求する必要がある。例えば「子どもに対する情報を共有・一元管理することで複数の目による教育を実現する」、「教材・指導法情報の共有で授業改善を進める」、「事務処理の効率化により子どものために使う時間を確保する」などだ。また、教育委員会にとっては「情報漏えいなどの事故の防止」の実現も重要な目的となる。

活用を見通した 運用体制を構築

  次に、継続しやすく運用しやすい校務の情報化であること。今ある帳票を電子化するだけ、では「継続的に役立つ校務の情報化」にはならない。「帳票電子化ではなく、データを有効活用するという発想の転換」が必要。

 そのためにはまず、検討・運用は関係者全体が関わること。

  例えば教育委員会であれば「企画管理室」「教育総務課」「保健体育課」「指導課」「学務課」「教育施設課」は全て「関係者」。学校においては、管理職、教員、事務職員、栄養士、養護教諭など。首長部局はもちろん地域や保護者と「関係者」は多岐にわたる。

 次に、データの安全性だ。

  これは特に重要で、例えば教育クラウド化を進める際には同時期に被災しない地域にバックアップデータを保管できるようにするなど細かい配慮が必要。

  なおサービス調達による教育クラウド化は、管理を外部委託できること、システム更新費用が不要となること、各年度の費用負担を平準化できるなどの大きなメリットがある。

  さらに、校務支援システムの選択の幅は増えていることから、他ベンダの製品であってもデータ移行がスムーズに行えるよう標準化されたものを導入することが必須。これについては本年6月、「標準仕様Ver1・1」が公表されており、現在10社26製品が対応している。

  なお校務の情報化に成功している自治体では、出前研修の頻繁な実施と好事例の共有をしていること、首長部局・教育委員会などで横断的な組織をもって導入検討、利用促進にあたっていることなどが挙げられる。

失敗の要因を回避するには

 校務の情報化を進めてもうまく進捗していない自治体もある。いくつか要因を整理すると以下になる。

 導入時や運用時の際の教職員に対する負担軽減策がない場合。

 これについてはICT支援員や全職員への研修、ヘルプデスクの導入で解決できる。

 次に、学校文化や教員の勤務実態、セキュリティ保持に対する配慮が不足している場合。

  これについては勤務実態や学校種に向いたシステムへの改良などで対応し、紙入力してから電子化するといった二重化を防ぐために業務の見直しをすることや、シンクライアントやリモートアクセス機能、2要件認証、暗号化などで対応できる。その結果、例えば自宅などでも安全に仕事ができる仕組みとするなどで活用しやすいシステムとすると良い。

 最後に、活用促進委員会が設置されていない場合。

  校務支援システムは導入がゴールではなくスタートであることを考えると、校種別・職種別活用促進委員会を設けて有効活用策を検討し、それを普及させる必要がある。

【2013年9月2日】

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