実効性のある外国語教育改革を

英語教育は劇的に変わる

実用的な英語力育成に焦点化

外国語教育
文部科学省初等中等教育局
国際教育課
神代 浩課長

 10月12日、ELEC英語教育シンポジウムが開催され、文部科学省初等中等教育局国際教育課・神代浩課長は外国語教育改革について講演した。神代氏は「これまでの英語教育の手法全体に問題があるという認識からスタートすべき」と話す。

 TOEFLの国別ランキング(2012年調査)で日本は163か国中137位、アジアの中では30か国28位と低位置に甘んじている。ちなみに1位はオランダ、アジア30か国ではシンガポールが1位。順位が低いことも問題だが、それ以上に真剣に受け止めるべきことは、かつて「読み書き能力は高いが聞く・話す能力が低い」と言われてきた日本人の英語力が、現在は「読み書き能力も低い」ということ※1。これまでの英語教育の手法全体に問題があるという認識からスタートすべき。現在進行しつつある外国語教育改革をさらに強力に進めることにより、日本の英語教育は劇的に変わっていくはずである。※1(Reading18/Listening17/Speaking17/Writing18/TotalScore70)

英語の授業時数が大幅増 中学校ではトップに

 英語教育改革の必要性については古くから指摘されており、各種政策が講じられてきた。近年においては平成20年に学習指導要領が改訂され、実施年度から小学校高学年に外国語活動を導入。中学校の授業時数は週3コマから4コマとし、指導語彙を900語から1200語に充実。高等学校では「コミュニケーション英語1」を共通必履修とし、授業を英語で行うことを基本としており、中学校において時数の最も多い教科が長期間にわたり国語であったが、現在は英語が首位となっている。

  平成23年6月に文科省は「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」を公表。これを実現するためにも「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」を総合的に問う入試問題の開発・実施の促進や、AO入試・一般入試等においてTOEFL・TOEIC等外部検定試験の活用を促進することが求められている。

  本提言及び「英語が使える日本人の育成のための行動計画」(平成15年)において中学校卒業段階では英検3級程度、高等学校卒業段階では英検準2級〜2級程度以上、教員においては英検準1級、TOEFL(iBT)80点、TOEIC730点以上の力が求められている。

  では、これら目標に対して実際の英語力はどうか。

  公立中学校3年生段階では、前述の基準以上の英語力を有すると思われる生徒数は31・2%。公立高等学校においては31%。公立中学校英語担当教員においてその達成状況はさらに少なく27・7%と4人に1人程度。高等学校においては52・3%であり、目標の達成に向けた取り組みが必要だ(平成24年度)。

新しい英語力強化策 目標はさらに高く

  そこで文科省では上記目標を達成すべく平成25年度予算において、「英語教育強化推進事業」「外国語活動・外国語教育の教材整備等」「日本人若手英語教員米国派遣事業」「将来的な外国語教育の在り方に関する調査研究事業」「外国語指導助手の指導力向上のための取り組み」などに着手している。

  さらに、平成25年4月の「自民党教育再生実行本部」提言では、高等学校卒業段階においてTOEFLiBT45点・英検2級等以上の「全員」達成や、大学における従来の入試見直しと実用的な英語力を測るTOEFL等の一定以上の成績を「受験資格及び卒業要件」とすることが求められており、この提言を受けて政府としての対応すべき政策の方向性が「教育再生実行会議」で議論された。

  教育再生実行会議第三次提言(平成25年5月)では、小学校の外国語活動の開始時期の早期化や時間増・教科化などについて諸外国の実例も参考にしながら検討することとしている。その後下村博文文部科学大臣からは、英語教育の開始時期を小学校3、4年生、授業時数は週3時間が目安であるという方向性も示された。これらの動きから、英語教育の抜本的改革が加速されていると言える。なお「実用的な英語力を測る」例としてTOEFLが挙げられているが、実用的な英語力を測ることができるものであれば良く、TOEFLに限るものではない。

  また、現在「TEAP」(※2)と呼ばれるアカデミックな英語力測定方法が始まっており、一部の大学入試でも取り入れられている。うがった見方だが自民党の提言による最も注目すべき成果は、自民党の政治家の方々に『TEAP』の認識が広まったことではないかと考えている。

全国学テに英語を追加 CAN−DOリスト 到達目標年度内に

 さらに来年度概算要求でも英語教育関連事業を強化する方向である。

  小学校英語教科化に向けた「英語教育強化地域拠点事業」では、67県市を指定。外部専門機関と連携した英語指導力向上事業、外部試験団体と連携した英語力調査、スーパーグローバルハイスクール事業、社会総がかりで行う高校生留学促進事業などである。

  現在行われている全国学力・学習状況調査に英語を導入することも視野に入っている。現在は小6・中3で実施されているが、英語については中3・高3に行うなど時期をずらしていく方向で検討する予定である。

  スーパーグローバルハイスクール事業では、平成26年度に高等学校及び中高一貫教育校を100校・5年間指定。高い語学力や幅広い教養、問題解決力等を身に付けたグローバル・リーダーを育む学校の取り組みを支援する。1校あたり2900万円を要求している。

  これらの取り組みにより、日本の英語教育が劇的に変わることが期待できる。これからの英語教育は、社会で実際に使えるコミュニケーション能力を育成する方向に進むだろう。既に現場レベルで改革は進んでおり、その努力に報いる政策や支援を行っていく。

  前述の「5提言」で提案されたCAN‐DOリストについては、本年3月時点で既に各校で設定するための手引きを作成・公表済。今後は、国としての到達目標をCAN‐DOリストの形で設定する作業に入り、年度内にまとめて提示したい。

※2 TEAP=Test of English for Academic Purposes
上智大学と公益財団法人 日本英語検定協会が共同で開発した、大学で学習・研究する際に必要とされるアカデミックな場面での英語運用力(英語で資料や文献を読む、英語で講義を受ける、英語で意見を述べる、英語で文章を書くなど)をより正確に測定するテスト。

【2013年11月4日】

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