特集:校務の情報化

クラウドで統合型校務支援システム導入―秋田市教育委員会

県内初"10年先"視野に整備

秋田市教育委員会では今年度より、プライベートクラウドを構築してデータセンターで管理し、すべての市立小中学校で校務支援システムを導入した。秋田県初のクラウド活用による統合型校務支援システムを導入した理由と経緯を同市学校教育課主査の長谷山庫之指導主事に聞いた。

学校を異動しても同じルールに
教育情報ネットワーク更新時にシステム見直し

長谷山庫之指導主事
学校教育課主査
長谷山庫之指導主事

「すべての教員に校務用PC」が配備されていたとしても、「すべての教員がメールアドレスを持っている」とは限らない。あるのは学校代表アドレスだけ、それを受け取れるのは共用PCのみという場合もある。そのような環境の学校では毎朝、特別な仕事がある。出勤時、共用PCを立ち上げて学校アドレス宛に届いたメールを受信、添付ファイルを含めてすべて印刷。それを、本文のあて名に示された教員の机に配布する「メール係」という仕事だ。

秋田市もほとんどの学校に「メール係」が存在する。校務用PCは配備されているものの、使えるのは学校代表アドレスだけだったという名残りからだ。イントラメールは使用できるが、申請者だけが使える仕組みで、個人情報を含んだデータのやりとりはFD(フロッピーディスク)を使うなど、使い勝手が良いとはいえなかった。

メールアドレスを全教員に付与する

そこで秋田市教育員会は平成24年度当時、2年後に控えた教育情報ネットワーク環境更新のタイミングで「すべての教員にメールアドレスを付与して連絡手段を確保すること」「指導要録の電子化を進めること」など、校務の効率化を図る統合型校務支援システムの導入を構想。「不便さ」の解決に向けて準備を始めた。当時、各校サーバとNAS(ネットワークを通じてアクセスできるハードディスク)約70台で学校情報を教員が管理していたが、学校ごとに運用ルールが異なることから、学校を異動しても同じルールで仕事を継続できるように標準化を進めたいと考えた。

学校情報の安全管理に向けて、プライベートクラウドによるデータセンターの活用も視野に入れた。これは、平成23年3月の東日本大震災で被災地の多くの学校情報が失われたこと、秋田市で発生した爆弾低気圧による停電で、導入していたNASのデータが損失するケースが発生したためだ。新庁舎行政ネットワークの更新に向けた勉強会にも参加し、データセンターも見学。その信頼性、安全性を感じたという。

共用PCによる学校代表アドレスの仕組みにも不便さを感じていた。
教員は職員室でPCに向き合う時間は少なく、各自が短時間で確認できる環境が必要だ。ところが学校現場からは、個人アドレスは不要、これまでメールを使わなくても仕事ができた、という意見も出た。同市教員の平均年齢は49歳。校務にメールを使用したことがない層が少なくはない割合で存在している。
しかし秋田市教育委員会は、「使ったことがないのは、これまでそのような環境がなかったから。あれば使う」、「今このタイミングで進めなければ、以後5年間、使うことができない。学生時代自由にメールで情報交換をしてきた世代が、教員になったとたん紙でのやりとりしかできない環境に置かれることになる。それで良いのか」と考え、事業を進めた。

要件を個別に検討 内容の充実を図る

さらに効率的なシステム構築のために、データセンターでのプライベートクラウドを採用。学校教育に役立つシステムとするには、回線の強化も必要だ。これまでの10Mbpsから100Mbpsに拡充することとした。統合型校務支援システムを導入して先行導入校で実証し、2年目に全校導入を図るなど、向こう5年間の青写真を計画していった。

ぜひ実現したいと考えていたことが、指導要録の電子化だ。当時、手書きによる転記には、膨大な時間がかかっていた。新学習指導要領の実施に伴い、外国語活動の評価も加わり、記載すべき内容が増えた。道徳や小学校英語の教科化で、今後さらに増える可能性もある。

統合型校務支援システムの選定にあたっては、すでに導入をしている全国の事例を調査し、それらの知見から、プロポーザル方式による総合評価としながらも、データセンターや校務支援システムについての必要要件は別途検討し、それを盛り込んだ提案を要請することとした。

「校務支援システムを含めたネットワーク構築と運用は、様々な要素がからむ。すべてを網羅した過不足ない提案のためには様々な知識が必要で、簡単なことではない。そこで、各要件を予め指定することにした。秋田県初の事例として失敗は許されない。一つひとつ丁寧に決めていく必要があった」と話す。

他自治体での運用実績を評価

データセンターについては、秋田県内にあることを要件とした。

統合型校務支援システムについては、ICT活用推進委員会(校長、教頭、教務主任、情報担当教員、教育委員会、学識経験者として林良雄・秋田大学教育文化学部教授が参加)で検討。これは継続的に開催されている委員会で、平成24年度のテーマを新教育情報ネットワークの在り方とし、システムを評価した。

システム選定のポイントは他自治体における安定的な運用実績だ。

秋田市は、小中学校全69校で教師用PC約1500台、児童・生徒用PC約2万7200台という規模。そこで同規模程度の自治体において安定的な運用実績を重要視した。

その結果秋田市が指定した校務支援システムは、EDUCOMマネージャー「C4th」(株式会社EDUCOM)だ。通知表のカスタマイズが全校に対応できる点も現場教員から評価を得、出席管理、通知表、調査書、指導要録、グループウェアを導入。EDUCOMの校務研修プログラムを手厚くしてフォロー体制を強化することとした。

これらを明確にしてプロポーザル提案を受け、教育情報ネットワークの更新をNTT東日本と契約。平成26年2月下旬には活用できる体制が整った。

小中11校に先行して導入

26年度4月から、グループウェアシステムの活用を全校でスタート。同時に先行導入校(小学校6校、中学校5校を指定、そのうち1校は小中併設校)では、成績管理や通知表の作成、指導要録の作成まで校務支援システム「C4th」で行い27年度の全校活用に向けて知見を蓄積する。

先行導入校は、各校から希望を募り決定した。約20校が手を挙げたことについて秋田市教育委員会は「学校現場が手書きの煩わしさから解放されることを望んでいることの現われ。通知表は各校独自に電子化が図られていたが指導要録にはデータを連携できず、すべて一貫してできるシステムが望まれていた」と話す。

10年先のインフラを見越した整備をしたいという思いから実現したシステムだ。今後、教材配布の仕組みの構築やeラーニングシステムの導入、タブレット端末の導入など、様々な新しい仕組みの導入を検討していく可能性がある。そのための器はこれで準備できたと語る。

■プライベートクラウド
=教育委員会内などでクラウドシステムを構築し、学校など特定の利用者を対象としてクラウドサービスを提供する形態。
 ■パブリッククラウド
=不特定多数の利用者を対象に提供されるクラウドサービス。Windows Azure(マイクロソフト)、Yahoo!クラウド(Yahoo!JAPAN)、Google Apps(Google)ほか。

【2014年7月7日】

関連記事

↑pagetop