ICTは”単なるツール”ではないー文部科学省・永井克昇視学官

グローバルな舞台でイノベーションを起こすことができる人材育成を目的に、理工系科目の基礎であるSTEM教育と呼ばれる科学技術教育が世界的に注目を浴びている。STEMとは、サイエンス(science)、テクノロジー(technology)、エンジニアリング(engineering)、数学(math)。日本でもSTEM教育に力を入れる動きが始まっている。

情報を科学的に理解する

永井克昇視学官
文部科学省初等中等教育局
永井克昇視学官

「ICTはツール」と言われている。確かにツールだが、「単なるツール」ではなく、「大きな力を持つツール」である。社会の価値観や構造を変える力、学校や授業の在り方、その構造を変える力を持つツールだ。いまや子供の学びに大きな影響を与えるこのツールと教育は距離を置くわけにはいかない状況にある。

しかし、授業中にICTを活用した学習活動を行いさえすれば良いという段階は過ぎている。タブレット端末・PCや電子黒板を「教具」として「活用」するには、教員による意図的・計画的な活用が必要だ。授業が終わった際にどんな力が身についているのかを見極めた取り組みが求められている。

そのために必要なものが「教員のICT活用能力」。そしてこれを身に付けるために最も重要なことは、教員が「本気」になって取り組むことである。

本気で取り組むためには、その必要性や重要性を理解、納得する必要がある。納得できないと、本気で取り組むことができない。

そこで教員研修では、新しい授業アイデアやスキルを習得すると共に、これまで蓄積されてきたICT活用を理論化して知識や技能を汎用化し、正しく理解する必要がある。ICT活用とは、情報活用であるということ、それを教員が「正しく理解」して「適切に実施」することが重要だ。

■ICTと学力向上 ベースは「豊かな心」

ICTと学力の関係についてよく問われる。

学習指導要領において、学力とは「生きる力」である。この学力を構成する要素の1つが「確かな学力」即ち、基礎的な知識・技能、思考力・判断力・表現力、学習意欲そして情報活用能力だ。

「情報活用能力」は「読み、書き、計算」に続いて第4の基礎学力。PC等ITの操作スキルではなく、情報を活用する力だ。この概念はようやく浸透しつつあるように感じている。この情報活用能力を有意に発揮・活用するためには、いくつか要素がある。

その1つが「情報の科学的な理解」だ。

「ICTを子供に持たせると、どんどん使いこなす」とよく聞く。しかし、「よく理解していない」のに「できる」ということを単純に評価してはいけない。

「情報」は、人を滅ぼすほど力がある。それを知らずにおもちゃのように使うと、社会問題が起こる。よって、「情報を科学的に理解する」必要がある。きちんと知らないのに使えてしまう、という面は大きな危険をはらんでいる。

もう1つ重要なのが、「豊かな心」をベースとした「心構え」だ。これがないと、ICTに限らずどんな能力も有意に発揮・活用できず、やはり社会問題につながる。

この問題を解決に導くためには「家庭」を巻き込む必要がある。家庭において大人がどんな行為を見せるのかで学校教育がリセットされてしまう危険があるからだ。

■解を導き出す問題解決能力を育む

今後、向上させるべき学力は「問題を解決する力」「活用・探求する力」。「知っている」という力ではなく「様々な知識を活用できる力」である。

問題解決には「解を当てはめる問題解決」と、「解を導き出す問題解決」がある。

「解を当てはめる問題解決」に、ICTは役に立つ。反復練習は、ICTの得意分野だ。

もう1つの「解を導き出す問題解決」能力の育成には、「考える」工程が欠かせない。

解を導き出す「考える」力を育むためのポイントは、「失敗を許す」こと、「諦めさせない」こと。試行錯誤の繰り返しが「考える」力を育んでいく。この「試行錯誤」に、ICT活用は極めて有効に機能する。

加えて重要なのが「意欲」という学力だ。

「意欲」があれば社会に出てからも学び続けることができる。「意欲」は、「目指すべき学力」を身に付けるためのエンジンと言える。教員はこの「意欲」を育み子供を社会に送り出す必要がある。

■ICT環境整備

到達目標は100%

子供の学びにとって「大きな力を持つツール」即ちICTの活用を広げていくためには、教員が手を伸ばした場所にその環境がなければならない。

先進事例を参照して情報機器やネットワーク環境を充実し、学校と家庭をつなぐための準備を進めていく必要がある。
各県のICT環境整備の達成状況は、毎年行われている「学校教育の情報化等実態調査」(文部科学省)で報告されているが、県の格差が年々広がっているのが現状だ。

この報告書で各自治体が確認すべきことは、達成すべき目標を100%として、それに到達するまで、あとどれくらい不足しているのか、を見ること。平均を超える、順位を上げることで安心してしまう傾向があるが、平均達成や順位上昇は相対評価であり、本来の目標とは異なるもの。ICT環境整備においては100%達成が全県にとっての目標だ。

【2014年11月3日】

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