教育クラウドの行方 「クラウド等の最先端情報通信技術を活用した学習・教育システムに関する実証報告書(案)」

地域特性や異なる学習形態を検証

電子黒板もクラウド活用可能に
 セキュリティポリシー改訂も必要

新たな学びの推進に向けて平成26〜28年度、文部科学省と総務省は連携して「先導的な教育体制構築事業」及び「先導的教育システム実証事業」(以下、「先導」を3地域12校で行っている。各地域ではそれぞれ異なった課題をもち「クラウドを活用した新しい学び」の在り方を検証。さらにICTの活用状況や学校種、地域特性(都市部、山間部、 離島等の地理的多様性)等を考慮し、検証協力校として32校選定した。今後、教育クラウド活用はどのように進んでいくのか。総務省「先導」の「クラウド等の最先端情報通信技術を活用した学習・教育システムに関する実証実施報告書(案)」から現在の検証成果をまとめる。

「クラウド等の最先端情報通信技術を活用した学習・教育システムに関する実証実施報告書(案)」によると、教材コンテンツはHTML5に準拠し、OSやブラウザーの種類に関わらず表示と動作が可能な教育用コンテンツを複数の学習サービス提供者から選定して活用。さらに、教員が手軽に自作教材を作れるオーサリングツールを開発。ワープロ感覚でできるようにし、数式や画像、映像コンテンツの挿入もできるようなものにした。

本実証に向けて各地区の既存のICT環境に加え、追加の整備も行い6つのケース「校内学習」「校外学習」「遠隔・協働学習」「持ち帰り学習」「学習管理」「教員の教材作成」を検証。本報告書(案)によると以下のことが明らかになった。

▽実証校では電子黒板の利用が普及していることを踏まえ、本クラウド・プラットフォームが電子黒板からも使用できることが求められる。

▽端末の選定は各地域・学校に委ねられているが、OS等の選定については、利用目的や学習者のレベルによって選択すると効果的。

▽使用する利用端末の違いにより、生徒からの評判が分かれた。動作が機敏な端末に人気があり、起動に時間がかかる端末や、コンテンツの種類によって利用できない端末は人気がなかった。

▽今回の実証では、1クラス40名分のタブレット端末から一斉に動画を視聴する試験を何の問題もなくクリアできた環境は存在しなかった。

▽各自治体や教育委員会、学校にて規定している情報セキュリティポリシーの改訂が必要になる場合がある。
▽OSやブラウザーの種類の広がりを考えると、すべての組み合わせでの動作を保証するのは困難。BYODでは推奨環境を提示すべき。

▽タブレット端末を学校外に持ち出し実施した校外授業について、主に教員やICT支援員、教育委員会から寄せられた意見で最も大きな要素は、端末紛失時における技術面、運用面での対応。端末に保存された写真やメモなど学習者情報の保護や、サインインされた状態の端末の不正利用防止といった観点から、端末の強制的なロックや消去のような技術的な仕組みが必要。本機能を実現する技術としてMDM(=Mobile Device Management)と呼ばれるソリューションが存在するが、現在のクラウド・プラットフォームには搭載されていない。

「持ち帰り」は自宅のネット接続環境が課題

自宅での端末持ち帰り学習について児童生徒にアンケートをしたところ、「何度もくりかえし復習できる」「普段勉強をしない人もすると思う」「PCにしかできない勉強法もある」というメリットを感じる一方で、課題に感じることの多くが「端末の接続の遅さ」に起因するものであった。「紙の学習のほうが早く進む」という意見もあり、「PCならでは」の学習方法を確立して実証に積極的に取り入れることが今後望まれる。

学校情報管理ポリシーガイドブックを策定

総務省では、教育委員会・学校向けに「学校情報管理ポリシーガイドブック」を、プラットフォーム事業者向けに、「セキュリティ要件ガイドブック」・「クラウド環境構築ガイドブック」を、コンテンツ事業者向けに「コンテンツ作成ガイドブック」・「コンテンツのアクセスシビリティガイドブック」を作成している。

「学校情報管理ポリシーガイドブック」では、総務省が提供する教育・学習クラウドを利用する際の情報セキュリティポリシーの変更の必要性やクラウド間連携を行う場合のポイント、児童生徒の端末の持ち帰りやBYODの際のセキュリティ上の留意事項などをまとめた。

端末環境の入れ替えは、毎回、手動で運用を行っていると大変であることから、専用ツールなどで自動化を図ることも合わせて検討する必要があることにも言及している。

教育システム実証事業データ

 

【2015年5月4日】

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