水族館の果たす社会的役割 “頭で理解 体で体験”印象ある活動を

水族館

文部科学省 「社会教育功労者」を受賞 新江ノ島水族館 堀由紀子館長

 地元、相模の海にこだわり続けてきた新江ノ島水族館の堀由紀子館長が先月、文部科学省から「平成24年度社会教育功労者」として表彰された。これは、(公財)日本動物園水族館協会(以下、JAZA)の推薦によるもので、JAZAで16年にわたり理事を務め、全国の動物園や水族館における社会教育活動の質の向上・維持を実現させた功績が認められた。今でこそ遠足や修学旅行などでの体験活動は必須事項だが、堀館長は早くから体験活動を取り入れた水族館として活動を続けてきた。これまでの体験活動、これからの参加体験活動について聞いた。

 昭和29年、新江ノ島水族館の前身である「江の島水族館」が近代的水族館第一号としてオープンした。江の島と富士山を左右に見て、相模湾の壮大な景色が広がる絶好のロケーションだ。その後、平成16年に「新江ノ島水族館」として新たに開館。堀館長は、前身では3代目、現館では初代館長となった。

社会教育施設や研修施設として

  「動物園、水族館は博物館の一つですが、一般に博物館と呼ばれる施設に対して"生きている生き物"を資料としているのが特長です」。長年理事を務めたJAZAは、種の保存(自然保護)、レクリエーション、調査・研究、教育・環境教育の4つの目的のもとに151施設が会員となり、「社会教育施設」の発展に寄与している。

  「社会教育施設として大切なのはテーマです」と語るように、同館では地元相模湾の生き物を主とし、江の島の海を、環境ごと再現するという地域性を出しながら国際性、生物多様性などをテーマに、「エデュテインメント型水族館」(エデュケーションとエンターテインメントを組み合わせた合成語)を目指している。

  同館では昭和30年代より50年近く「海洋科学教室」を開催し続けた。これは触れて、調べて、飼育する、といった現在求められる体験活動に近いもの。平成11年には、当時の文部省が実施した「親しむ博物館づくり事業」に手を挙げ、実績を積んだ。

  現在では、研修施設として藤沢市の教員が初任者研修として利用することもある。「県の施設、"なぎさの体験学習館"も併設しています。遠慮なくなんでも仰ってください。出前授業にも対応していますが、学校も忙しいですので、今後はテレビ会議のようなシステムの構築も必要だと感じています」。

体験活動を豊富に提供 ナイトツアーも人気

  海が目の前に広がる同館では、屋外での体験活動も重視している。役目を終えた潜水調査船「しんかい2000」を(独)海洋研究開発機構(JAMSTEC)の協力で常設展示。「深海」をテーマとしたJAMSTECとの共同研究・公開にも力を入れている。

  「つい最近、40名程を相模湾にお連れし深海の学習講座を開催しました。"しんかい"のパイロットによる講話など、大掛かりな講座となりました」。同館は今後、深海を本格的に取り上げる水族館としての使命も果たしたいと考える。

  また、岐阜県にある世界淡水魚園水族館の館長も務める堀館長は、絶滅危惧種の増加、特に、淡水魚の減少を懸念する。「川のコンクリート化により森林から川へ栄養が流れにくい状況です。人間が考えた自然保護が、バランスを崩していることもあるのです。自然との共存共栄の難しさも感じています」。

  それらをいかに子どもたちに楽しく学習してもらうか。両館では、水族館に泊まって魚たちの夜の生態を知るお泊まりナイトツアーが大人気だ。「子どもたちは嬉々として体験しています。学芸員とのコラボレーションでは、子どもたちからこれはできないかと注文が出ることもあります。参加体験学習ですね。頭で理解し、体験してそれを印象付けることが大切です」。

【2012年12月17日号】

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