【新たな教育旅行】バルト三国で平和学習

<リトアニア編>日本のシンドラーの原点 世界遺産の街並みを見下ろす

 バルト海に面したリトアニア共和国・ラトビア共和国・エストニア共和国は「バルト三国」と呼ばれ、ヨーロッパで人気上昇中の観光地。ラトビアにはバルチック艦隊が出航した港がある。古き良き時代の街並みを残し、湖と森に囲まれ、平和を肌で感じとることができるが、実は長きに渡り近隣国に支配され、独立後22年が経つ。日本とは縁の薄い国と思うかもしれないが、実はそうではない。リトアニアにはかつて「日本のシンドラー」と呼ばれた杉原千畝がいた。バルト三国からリトアニア、ラトビアの今後の教育旅行素材を探してきた。(取材/國吉圭介)

近隣諸国との深い歴史 独立して22年

リトアニア

今も古典様式の建物が多く残る
首都ヴィリニュスの街

 バルト三国は、北からエストニア、ラトビア、リトアニアと並び、北東はロシアとベラルーシに、南西はポーランドとロシアに接している。今回は、成田空港からフィンランド航空でヘルシンキを経由し、リトアニアの首都ヴィリニュスへ。およそ12時間半の旅だ。

  バルト三国は、北欧諸国やドイツ、ポーランドとの深く複雑な歴史があり、19世紀にはロシア帝国に支配された。ロシア革命後に独立を果たすが、第2次世界大戦を経て1945年にソ連が占領。91年、ソ連の8月クーデター後に3国そろって再独立を実現し、2004年にはEUへ加盟。歴史の中で翻弄された国々なのだ。

古典様式の建築物群は 世界遺産に登録

  リトアニアの首都ヴィリニュスの旧市街地はユネスコの世界遺産に登録されており、バロック、ゴシック、ルネッサンスといった古典様式の建築物が多く残る。

  街中には伝統工芸品、リネン・ウールの洋服や小物、革製品、琥珀の原石や加工品など、小さな専門店が軒を連ねる。
バルト海に面した国々は琥珀(アンバー)の一大産地で、ヴィリニュスの「アンバーミュージアム・ギャラリー」は小ぶりだが一見の価値があり、虫が入った琥珀など珍しい物も展示・販売されている。

杉原千畝の功績を 称えるモニュメント

杉原千畝のモニュメント

杉原千畝のモニュメント

  日本人にぜひ訪れてほしいのは、ネリス川の河畔に建つ「杉原モニュメント」だ。外交官・杉原千畝の功績を称え、杉原の出身校(中退)である早稲田大学が建立。広島で被爆した線路の敷石も展示されている。

  第2次世界大戦中、リトアニアのカウナス領事館に赴任していた杉原は、ナチス・ドイツの迫害によりヨーロッパ各地から死を逃れてきた難民たちの窮状に同情し、外務省からの訓令に反して大量のビザを発給した。それにより、約6000人の命が救われた。

  避難民の多くがユダヤ系であったことから、海外では「日本のシンドラー」と呼ばれることもある。自身は戦後、外務省を退官させられたが、1985年にイスラエル政府がその功績を称えたことにより、世に知られるようになった。

  先にふれたように、バルト三国は長きに渡り支配されてきた歴史があり、街にはその爪痕が見られる。個人でユーラシア大陸の石を5万個集めたという「ストーン・ミュージアム」を訪れた時のこと。近くの公園を通ると、「この場所は、住人が捕まって大勢の人が亡くなった所だ」と聞いた。独立したのは、まだ20数年前の出来事なのだ。建物や公園の一つひとつが、平和教育の一環としても活用できる地である。(9月16日号「ラトビア編」に続く)
【取材協力:リトアニア政府観光局、フィンエアー】

【2013年8月19日号】

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