教育旅行・体験学習特集

【南九州教育旅行現地視察会】豊かな学びで主体性を育む

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北九州マップ
九州教育旅行の情報=kyoiku.welcomekyushu.jp

平成28年熊本地震で南九州への教育旅行は大きな影響を受けたが、1年が経過した今、急速なスピードで復興が進んでいる。昨年7月からは地震被害や復興過程を学ぶ震災学習プログラムを整備する新たな取組を始動。南薩縦貫道の全線開通により交通面も格段に向上し、教育旅行の実施先として大きな飛躍を遂げた。(一社)九州観光推進機構は3月、首都圏の高等学校教員を対象に「南九州教育旅行現地視察会」を実施。震災後の正確な現状の把握と共に、南九州ならではの平和学習や歴史、民泊など個性豊かな学習素材の体験視察を行った。

 

南九州の学習素材を視察

熊本県 防災・歴史・環境など被災地ならではの体験

羽田空港から約2時間のフライトで熊本空港に到着した一行は、バスで1時間弱の距離を移動し、熊本城へ。震災後の現状を視察した。

【熊本城】

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石垣の中心部がえぐれるように崩落した戌亥魯
全ての復旧までには20年を要するという

加藤清正公が約400年前に7年の歳月をかけて築城した熊本城。熊本地震により震度7の激震を2度受けた城郭は、石垣の崩落が目立つ。城の内部は立入禁止区域のため、ボランティアガイドの案内で堀の外側から見学。百間石垣前には崩れた石垣の石が並べられており、復旧作業の様子が分かる。全ての城郭の修理には20年以上かかるという。

戌亥魯は石垣の中心部が崩落し、隅石がかろうじて城郭を支えていた。ガイドは「石垣の隅石は柱、中心部は壁の役割を果たしている。災害で石垣が崩落しても、建物が残るよう400年前の建設時に計算されていた」と説明。独特の弧を描く武者返しなど、石垣の積み方の解説は歴史と復興の両面からの学びが期待できる。

城郭の復旧工事は急ピッチで進んでおり、安全に見学できる歩行ルートも整備。刻々と変化する状況を見学できる。

周辺には23店舗が集まる「桜の小路」や、歴史文化体験施設「湧々座」などが並ぶ「桜の馬場城彩苑」も隣接。食事や買物など班別行動の場所としても利用可能だ。

【水俣病資料館】

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語り部の吉永理巳子さん
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水俣病発生時から現代までの変遷を展示
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青井阿蘇神社の楼門は茅葺屋根が美しい

熊本市内からバスで約2時間移動し、水俣市立水俣病資料館に到着。語り部・吉永理巳子さんの講話を聞いた。吉永さんは家族3人が水俣病で他界。無知による周囲の差別や偏見と戦いながら送った半生を伝えるため、語り部の活動を開始するまでに40年の年月を要したという。「国やチッソ鰍ゥら正確な情報を早く周知してほしかった。水俣病の話題を避けてきたが、語り部となり逃げずに向き合う事の大切さに気付いた」と語る。

語り部による講話はスライドを使用しながら約1時間で行われている。

館内では常駐するスタッフの説明を受けながら、発生の背景や被害状況の資料展示を視察。水俣病発生から60年以上が経過した今も、裁判や潜在被害者の問題が残る現状が見られた。「単に被害について学ぶのではなく、福島の原発事故の問題などにつなげてほしい」と語る。

教育旅行では館内見学の前に、バスの中で語り部による街案内と約15分の映像による学習も実施されている。

【国宝青井阿蘇神社】

2日目の朝は、大同元年(806年)創建の国宝青井阿蘇神社を見学。同社は平成20年に五棟の社殿群(本殿・廊・弊殿・拝殿・楼門)が国宝に指定された。茅葺の社寺建築では全国初となる。

宮司の福川義文さんは社内を周りながら、建築物や保存されている宝物について説明。楼門の上層の隅木下には、貴重な神面が取り付けられており、教員らの目を引いていた。建立された平安時代から現代に至るまでの歴史的な事象の影響を受けているため、歴史学習として幅広く活用できる。

弊殿内部の華麗な彫刻が施された欄間は四季や動物を表現しており、歴史だけでなく当時の風俗も学べる内容となっている。


宮崎県 地元の風土感じる"五感"刺激する民泊

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教員も薪割りに挑戦(上)
周囲に田畑が広がるのどかな民泊地域(下)
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【北きりしま田舎物語】

宮崎県では、北きりしま田舎物語推進協議会の民泊受け入れ農家・鬼川直也さん宅を訪問した。教員らは鬼川さん親子の説明を受けながら薪割り体験に挑戦。薪で起こした火でもち米を蒸し、野菜等の具材と混ぜ合わせておこわを作った。

鬼川さんは、「体験した子供たちは薪を割った瞬間の音や、斧の重さで手がしびれる感覚に驚く。蒸したもち米の匂いなど、全ての内容が五感を刺激する体験になっている」と語る。

初めて体験する教員もおり、鬼川さん親子の指導のもと、四苦八苦しながら体験。体験者だけでなく、その場にいた教員らにとって笑いの絶えない時間となった。

薪割り体験後は、昼食を喫食。体験時に炊いたおこわご飯や宮崎県の郷土料理「煮しめ」などが並んだ。民泊体験時にはこれらの新鮮な食材を生かした郷土料理づくりも行うという。普段家族で食卓を囲む機会が少ない生徒にとっては貴重な体験となるだろう。

北きりしま田舎物語推進協議会は、北きりしま地域(小林、須木、野尻、えびの、高原)を主な活動範囲として、農家民泊を柱とした事業を展開。子供たちに「出会い」「体験」「感動」の機会を提供し、家族の一員として扱い、コミュニケーションを図る努力を行っている。受け入れ家庭は、人見知りやうまく会話の輪に入れない子供への接し方などの研修も受けるという。

また、安心・安全のためにAED等の「救命救急講習会」や、保健所による「浴室と食品の衛生講習会」、専門講師による「リスクマネジメント講習会」などの受講も年1回義務付け、受入農家のスキルアップも図っている。体験前には学校側と地震の際の避難場所の確認や、子供のアレルギーなどの情報を交換。緊急時には事務局車による送迎など安心の体制を整えている。

今回の宮崎県視察は行程の関係上、1か所だけだったが、同県は農業王国としての食、太陽光発電などから学ぶエコ、マリンスポーツなどのプログラムが豊富。教育旅行では隣接の熊本県や鹿児島県の素材と組み合わせた行程が考えられる。

なお宮崎市で教育旅行を実施する場合、学生・引率教員1人あたり最大5000円の補助制度があり、平成33年度まで受付を行っている。


鹿児島県 知覧で知る平和の尊さ 薩摩の史跡を巡る

宮崎県から鹿児島県へ移動し、知覧特攻平和会館に向かった。視察会当日に知覧金山水車IC~南九州知覧IC間が開通したことにより、鹿児島市から枕崎市を結ぶ南薩縦貫道が全線開通。北きりしま地域から知覧まで約1時間半で到着した。

【知覧特攻平和会館 知覧武家屋敷庭園群】

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中央展示室には陸軍一式戦闘機「隼」や出撃時の
映像展示などがある

「知覧特攻平和会館」では、会館に隣接する特攻平和観音堂や特攻隊員の宿舎である三角兵舎等を視察。館内では戦争当時の歴史背景や特攻に至った経緯、特攻隊員の遺書について語り部の講話を聞いた。

同館には、特攻隊員たちの貴重な遺品・資料が展示されている。教育旅行では生徒たちと同世代の若者が戦争に参加した事実を通して、より深い平和学習が実現できるだろう。同館脇には知覧文化会館もあり、300名以上の場合は分散させて見学もできる。

周辺には、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された知覧武家屋敷群があり、国の名勝に指定された7つの庭園が公開されている。教員らは母ヶ岳を借景にした築山泉水式庭園や枯山水式庭園などを視察。農業高校など植物や庭園技術を学ぶ生徒だけでなく、歴史の学習素材としても多く利用されている。

【維新ふるさと館】

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薩摩を中心に近代化の源流が学べる維新
ふるさと館
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基礎部分のみが残る仙厳園の反射炉跡

鹿児島市の維新ふるさと館は、薩摩を中心とした幕末・維新期の歴史を体感しながら学べる施設。

地下1階の維新体感ホールでは、幕末から明治における政治改革の背景を西郷隆盛などのロボットがドラマ仕立てで語る「維新への道」を上演。歴史が苦手な子供にも分かりやすい解説で、楽しみながら学べるよう工夫されている。1階の幕末探訪・郷中教育コーナーでは、年長者によって教え導かれた薩摩独特の「郷中教育」を参加体験型装置で紹介。西郷隆盛の出生地である幕末期の下鍛治屋町を再現した装置で、下級武士の生活が体感できる。

同館周辺には西郷や大久保利通など薩摩の偉人ゆかりの史跡が点在しており、フィールドワークにも便利。

【尚古集成館・仙厳園】

平成27年世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産(略称)」の構成資産「旧集成館」は、薩摩藩主・島津斉彬が興した日本初の洋式工場群跡。この地には欧米列強に劣らない強く豊かな国にするため、製鉄、造船、紡績、薩摩切子などのガラス、薩摩焼の研究・製造などを展開し、短期間で産業の近代化を成功させた歴史がある。

現在の「尚古集成館本館」は旧集成館機械工場の建物で、瓦吹きの屋根と石を積み上げた壁からは日本における西洋化の源流が感じとれる。屋内には島津家の歴史や殖産興業に関連した展示がされており、模型やシアター上映による解説も分かりやすい。

隣接する島津家の別邸・仙厳園には、大砲を鋳造するため鉄を溶かした反射炉跡や、琉球王国から贈られた建物・望嶽楼など、社会科の教科書でも馴染み深い遺跡が保存されている。反射炉は集成館内で写真や図面をもとに再現された模型と合わせて見学できるため、イメージが膨ませやすい。

御殿前には、錦江湾を池に見立て桜島を借景にした美しい庭園が広がっている。島津斉彬が初めてガス灯の実験を行ったという灯篭もあり、教員らの注目を集めていた。

園内には300人が利用可能なレストランが整備。周辺に鹿児島の歴史民俗や文化遺産に関連した展示を行う黎明館もあり、合わせて見学できる。

その他にも鹿児島県には屋久島や全国唯一のロケット発射場である種子島宇宙センターなどがあり、自然・環境学習でも利用できる。

 

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【2017年4月24日号】

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