【南九州教育旅行現地視察会】参加者の声(抜粋・敬称略)

歴史・平和・環境・防災・人権学習・民泊〜広がる教育旅行の可能性

震災に対処する術が各地で生かせる学びに

熊本城をご案内いただいた時の衝撃は予想以上であった。城は周辺が立ち入り禁止区域で、さらに修復が始まっているので遠景のみだが、テレビの映像などで何度も見た城の様子が思い出された。日本は全国各地で大震災が起こる可能性がある。震災に対処するための学習素材にはなり得るかもしれない。崩れた石垣をパズルのように組み立てていく作業を行うというお話は大変興味深かった。

過ちを繰り返さないため被・加害者の両面から学ぶ

今回、水俣病資料館を訪れることができたのは大変良い経験となった。特に「語り部」の話から同地区内での差別、チッソとの関係などが理解できたのは有益であった。修学旅行における環境学習での活用は十分考えられる。アクティブ・ラーニングとして、チッソ側の話をもっと掘り下げると学びの発展が期待できる。これからの世代には、東南アジアなどにおいて日本が開発の手助けをする際、チッソのような過ちを犯してはならないことを学ばせたい。また、中学では道徳が教科となるため、その視点での学習が可能になると更にニーズが広がる。

市街地巡りなど通して気づき行動する経験を

水俣病資料館では生徒が資料館を見学する前に、スタッフによるバス案内がされているが、生徒にとって資料館で学習するだけではなく市街地を巡るということは重要なことだ。この地を訪れることで、生徒は水俣病を一つの単語として記憶するのではなく、「水俣病から何に気づき、どのように考え、そして行動していくか」を経験するだろう。

人吉の行程で歴史体験 クラス・班別学習にも

参加者の声3
社内の宝物を紹介する宮司の福川さん

青井阿蘇神社は、神仏習合の痕跡が明瞭に残っており、教育旅行で人吉を訪れたらぜひ見学したい。神社側でも見学のポイントを示し、境内図を参照しながら探させるなど、生徒の興味関心を喚起する努力をしている。人吉市内では、人吉城趾や人吉城歴史館など城下町全体をめぐる行程を組むことも考えられる。日本史の分野では、人吉城主としてこの地を治めてきた相良氏を通じて鎌倉時代の地頭、戦国・近世大名について学ぶことができる。領主と城下町、鎮守の関係を考える上でも重要な素材だ。人吉市街でのクラス行動や班別行動などを組み合せながら、歴史を体感させる場にできるのではないか。

受け入れ家庭との交流で豊かな人間性を育む

まだ引率経験のない民泊を体験視察できるということで、関心をもって視察に臨んだ。北きりしまの体験では、受け入れ側の準備体制を知り、その意義や教育的効果を理解することができた。レジャー施設や有名なスポットを見学するだけのパッケージ型の旅行では味わえない良さが民泊にはある。現地の方との寝食を共にした生活体験や交流は、豊かな人間性を育む一助になるだろう。

宿泊先の安全対策も万全 「五感」を使った体験に

参加者の声4
炊きたてのもち米を混ぜる教員

北きりしま田舎物語では、食をとおして、農業・食糧・命の大切さを知る機会を提供している。現代の子供たちにとっては、「五感」を通しての経験は、大変よい経験である。また、宮崎県の宿泊補助最大5000円の助成金制度は大きいと感じた。また、安全対策・緊急対応についての様子も理解でき、安全・安心な体験を心がけている様子がうかがえた。体験交流型教育旅行(民泊)は最近流行であるが、安全面や緊急連絡体制は重要である。

同世代の思いから学ぶゆかりの地での平和学習

毎年授業でアジア・太平洋戦争を取り上げる際、特攻隊員らの年齢を伝えると多くの生徒たちは大きな衝撃を受ける。自分たちと変わらない年齢で戦争へ駆り出されていたという現実は、生徒らに平和への大切さを身にしみて実感させる。実際に知覧をはじめとしたゆかりの場所で平和学習を行う教育的効果はとても高いと思う。多人数でも対応できる環境があり、クラス数が多い学校の修学旅行でも旅程に組み込みやすいと思う。

屋敷の見学だけでなく歴史景観を守る学習にも

参加者の声1
知覧式の武家屋敷が並ぶ

知覧武家屋敷の視察では、入口に沖縄によくある石敢當を見つけ、琉球との関係の深さを感じた。玄関に向かう途中から望める庭園も小さいながら魅力的で、山並みを庭園に取り入れた借景などの工夫が素晴らしい。日本庭園でありながらも、庭石の景色や植生に南国を感じる。昨今は歴史的景観への配慮を求める動きが進んでいるので、こうした歴史的建造物そのものについての学習の他に、それらを含んだ街並みをいかにして保存していくかについてのケーススタディも生徒たちに体験してほしいと感じた場所であった。

日頃の教科書での学習が実を結ぶ場所・鹿児島

維新ふるさと館では、明治維新について、主人公・西郷隆盛のロボット劇が見学できた。小学生でも理解できる内容で、歴史への興味づけには面白い。また、館内展示室で西洋風に作曲された「君が代」を聞くこともできた。維新に関する史料展示は大変面白く、ゆっくり見てまわることができる。仙巌園で視察した、明治初期の水力発電所などの史跡は教科書にも掲載されている。生徒にとって日ごろの学習が実を結ぶような史跡をめぐることが出来たことは、今回の最大の収穫であった。

維新の地・薩摩の学びに歴史総合への展開も期待

参加者の声2
瓦屋根の尚古集成館

仙巌園・尚古集成館は薩摩藩の先見性を知ることが出来る施設である。島津家の別荘と西洋式工場があった場所であり、現在でも島津家が運営していることに驚きを感じた。反射炉や集成館から、外国船が迫る中での国防への切実さを感じることができるだろう。また、集成館内の展示では鹿児島への鉄砲・キリスト教伝来の必然性を地図から理解することもでき、新学習指導要領の「歴史総合」ともつながる部分があるだろう。

薩摩の富国強兵を通して多様な視点で向き合う

尚古集成館で受けた解説は、薩摩・鹿児島という視座に立ちながら、歴史的・文系的視野のみならず、重豪公の進取の精神や斉彬公の集成館事業を通した世界的視野、更に近代的技術を独自に理解・実践した際の理系的視野、西南戦争を経て「日本一の工業県」から「農業県」となった鹿児島県の現状までの経済的経緯など、多様性に富んでいた。このような様々な視点から臨めば、歴史に興味のある生徒だけでなく、工業科の生徒たちにも有効な素材と言える。


主体的な学びを支えるA・L素材の宝庫

(公財)日本修学旅行協会事業部長 仲條誠司

新しい学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」が重視されるという。修学旅行をアクティブ・ラーニングのフィールドワークとして位置づけるとすれば、南九州はその素材の宝庫であると言っても過言ではないだろう。一方で、学ぶ側も現地の知識や最新情報を積極的に収集し、語り部や専門家の話に耳を傾け、自分の意見を以て対話的に学びを深化させる姿勢が必要になるだろう。当地で学ぶことで各学校がその目的を果たし、受け地と一体になって学習成果の大きい修学旅行が実施されることを期待したい。

 

<< 記事へ戻る

【2017年4月24日号】

<<教育旅行・体験学習一覧へ戻る