「心の教育」インタビュー

日本PTA副会長
島田益吉さん


 「心の教育」を実践、推進するのはまず、家庭の親一人ひとりでなければならない。当事者を代表して、日本PTA全国協議会副会長の島田益吉さん(東京都公立中学校PTA協議会会長)に、この課題へPTAがどう取組むのか、具体策と方針をうかがった。一方、家庭と共に、学校生活の中で「心の教育」を推進する教師の課題や連携する上で家庭・親に望むことなどを、東京・足立区中学校長会長の高木昭彦校長からうかがった。


−−「中央教育審議会」の答申では、かなり具体的で細部にわたって家庭教育、しつけの目標が述べられています。主体であるPTAとしてどのように受け止めていますか。

 本来、我々親が責任持って行うべきことで、親一人ひとりに委ねられた問題なのですが、行政に踏み込まれたのです。「そこまで言われなくてはならないのか」と、私個人としては恥ずかしかった。指摘するのであれば、親が同じ立場で言うべきだったことを、他人任せにしてしまったわけです。


−−これを踏まえ、親、PTAは今後どのようにあるべきと考えますか。

 私たち親もこれからは、教育に対する一つの「目標と責任」を持たなくてはいけません。何でも学校や先生にお任せで、批判ばかりするのではなく。その前提は子どもたちのため、大きくは、時代の変化に対応した社会づくりの主体者であるという視点が必要です。


−−ではPTAとして何をしますか。

 今、子どもたちの中で「保健室登校」が増えています。担任より比較的時間のゆとりがあって、しかも成績などに直接の利害関係のない養護教諭が、生徒の話相手になってあげることが貴重なのです。PTAの活動でも、我が子と同様に他の子ともゆっくり話し合う場を設けたい。またPTAの会員や地域の様々な特技を持った方に協力を頂いて、「本物の魅力」に触れさせたいと思います。
 学校で子どもと同じテーブルで子どもたちの話を聞く機会は意図的に行わないと意外に少ないものです。子どもたちも内心では大人に聞いてもらいたい、話したいと思っているのです。
 そこで大人はすぐ結論を出さない、子どもの意見を引き出す。事前にシナリオを用意して、それに沿って「さあどうぞ参加して下さい」と進行するのではなく、子どもの意見を尊重して進めていくなどの、運営の工夫も重要です。


−−親の立場でできる教育に積極的に関わる、ということですね。そこで課題となることは。

 一流のスポーツ選手、ベテランの職人さんなど「本物の魅力」には、子どもたちは素直に感動し、受ける影響は大きい。でもまったくの無償ボランティアでは継続性がありません。
 必要な事業に積極的に取り組んでいけるためには、財政の基盤をしっかり整備することが課題です。PTAは社会教育団体の中でも、財政の基盤整備が弱い。行政の補助金にばかり頼るのでは、保護者として主体性を持った活動に向かえないと考えます。


−−学校教育や教育行政への意見、要望は。

 学校の情報開示の流れがある一方で、全体的にはまだ閉鎖的なところも多い。何の問題もないようなポーズをとらず、内部の情報をもっと地域に投げかけてほしいと思います。その架け橋がPTAなのです。
 私が初めてPTA会長になった当時、用事で学校に出かけて行っても、校長・教頭以外、他の先生方の顔がお互いに分からない。これは問題だと思い、翌年から新役員全員が揃って職員室を訪問し、あいさつすることにしました。


−−中教審答申の「学校評議委員」の提言に見るように、今後は家庭・地域との連携が学校にとって不可欠になりますね。

 私の地元・世田谷では阪神大震災をきっかけに、地域住民と学校とが防災対策などを語り合う場が設けられて、「学校評議員」のさきがけとして各地から注目されています。地域の防災センターとしての学校の役割を話し合うもので、学校運営そのものについての住民参加は、今後の課題です。その場にはぜひ現役の保護者の代表であるPTAが、主体性を持って議論の場に加わっていただきたい。
 そして子どもが将来の夢を、希望を持って描けるような、親も夢のある子育てができるような、支援と環境作りをしていかなくてはなりません。


−−先生方には何を望みますか。

 学校では知識・知育ばかりでなく、中学を卒業したら一人の人間として生活ができるような、人間教育を行っていただきたいですね。それが学校の「心の教育」だと思います。そして教師だけでなく保護者にも言いたいのですが、大人も子どもも学力・有名校だけの尺度でなく、たくさんのメジャーを持ってほしい。
 今の子には、平均台から一度落ちたらもう這い上がれない、復元力の無さを感じます。失敗してもまたやり直せる、ということを様々な教育の場で教えて頂きたいのです。そのためには、先生がかける一言が計り知れない勇気づけになるのです。

(教育家庭新聞99年2月27日号)