食から始める総合的な学習



 来年度から小・中学校で本格的に実施される総合的な学習の時間。テーマの一つとして「福祉・健康」が掲げられており、食を主題に設定して取り組む学校も多い。T食から始める総合的な学習U。国際理解、環境、情報、と子どもたちの発想とともに無限の広がりが期待できる。

子どもの現状
 近年、社会生活の向上とともに食環境も豊かになった。コンビニエンスストアの普及などで、食べたいものはいつでも手に入る恵まれた環境。しかし一方で、スナック菓子やジュース類の過剰摂取、朝食欠食など子どもたちの食生活の乱れが指摘されるようになり、肥満や高脂血症など生活習慣病の増加が懸念されている。このような時代であるからこそ、子どもの頃から、自分の食生活に関心をもち食について学ぶことが必要となってくる。
 平成9年9月の文部省保健体育審議会答申において、それまで一部で栄養素を教える教育ととらえられがちであった「栄養教育」が「食に関する指導」に改められ、より一層健康教育の中の重要な一部分としてT食Uが位置付けられる事となった。

栄養教諭へ
 T食の指導Uにあたって、重要な役割をもつのが学校で唯一の食の専門家である学校栄養職員。  これまでにも多くの学校栄養職員がティームティーングなどの形で授業へ参画していたが、今年から本格的に「栄養教諭」の創設へ向けて動きだした。家庭科や保健体育科における指導や子どもたちの健康状態に応じたカウンセリング、保護者への対応などが主な役割として挙げられており、さらに総合的な学習の場ににおける学校栄養職員の活躍にも期待は高い。

モデル校の実践
 平成12、13年度の事業として進められている文部科学省「食生活に関する教育実践事業」のモデル校を、これまでいくつか取材してきた。各校とも子どもたちの食生活の実態把握から始まり、総合的な学習はもちろん学校教育活動のあらゆる場面で食を取りあげている。
 愛知県佐織町立北河田小学校では、食をテーマにした「すこやかタイム」(56時間)と体育をテーマにした「ふれあいタイム」(14時間)の2本柱で総合的な学習の時間を設定。5年生では米をテーマに、地域の米料理調べや米を使ったおかし作りなどに取り組み、インターネットで南アフリカ共和国日本人学校の生徒達と交流学習を実践。食文化の比較などを行った。  静岡県大須賀町立横須賀小学校では、生活科、総合的な学習の全学年全時間を食をテーマに設定。5年生は「私たちの食事を見直そう」と題して、自分たちの食生活を振り返り、ごはんとみそ汁調べ、米作り、大豆作り、味噌作りへと発展させた。
 「子どもたちは大人が思いつかないような実に様々な発想をします。食を総合的な学習の中核に据えることで多くの広がりを持たせることができた」と同校の中田和明教頭は話す。  食は人間の生活の基本。子どもにとっても身近なテーマであり、自分の生活を見直すきっかけ、地域を知る機会にもつながる。

地域の職から学ぶ
沖縄の伝統的な食文化
 総合的な学習の時間は、各学校が地域や学校、児童生徒の実態に応じた教育活動を行うこととされているが、子どもたちの身近な食、地域の食から学ぶことは多い。今回、独特の個性を持つ沖縄の食文化を取材し、食から学ぶ伝統文化について考えた。

● ユニークさとヘルシーさが自慢の琉球料理
 2002年本土復帰30周年を迎える沖縄は、暗い陰を落とす基地問題とは裏腹に、明るい太陽、豊かな自然に恵まれ、独自の文化を育んできた。日本一の長寿県の源とされる食文化もその1つ。
 江戸時代、薩摩藩による支配を受けるまで、沖縄は琉球国という独立国として、日本と東南アジアの貿易の中継地であった。そのため、現在でも琉球料理にはその名残がある。特徴的なのが「チャンプル(ごちゃまぜ)」料理であろう。たとえば、沖縄を代表する「ゴーヤ」(苦瓜)を使った「ゴーヤチャンプル」はゴーヤをはじめとするさまざまな野菜、肉などを混ぜ合わせたものである。一度食べるとやみつきになる一品で「何でも混ぜ合わせるのがうちなー(沖縄)流」と沖縄の人は笑う。つまり、「チャンプル文化」だ。
 一方、豚肉を使った「ソーキそば」(沖縄そば)は、さっぱりとした食感の、いわゆる日本そばとは味、趣ともに大分異なり、どちらかというとタイ、ベトナム、カンボジアなど東南アジアの麺類を思わせる重厚感ある味。ソーキそばの例でわかるように、沖縄料理は伝統的に豚肉が中心となっている。琉球王朝時代、宮廷料理であったものにも豚肉が多く使われている。それを証明するかのように、マチグワー(市場)には、豚肉が所狭しと並んでいる。興味深い事実がもう1つ。昆布の生産高日本一は言うまでもなく北海道だが、消費量日本一は沖縄なのだ。ここにも「チャンプル文化」たるゆえんがありそうだ。

● 過渡期にある琉球料理
 ユニークさとヘルシーさで注目を集める琉球料理だが、問題を抱えていないわけではない。正統派の琉球料理とされる宮廷料理はすでに姿を消しつつある。手間がかかりすぎるからだという。そして、一口に琉球料理と言っても、離島の多い沖縄では、島独自の料理が少なくなく、そうした料理は後継者がいなければ当然消え去ってしまう。また、若い世代は地元の琉球料理よりもファーストフードや他の料理に目が行きがちだ。
 こうした伝統的な食文化を絶やさないためにも、子どもの頃から地域の食に興味をもち、学ぶ機会をもつことが求められるのではないだろうか。





(2002年1月12日号より)