子どもとからだの健康 なぜ?色覚検査の廃止

なぜ?色覚検査の廃止

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 色を見分ける感覚を・色覚・といいますが、色覚に異常があると、色を正しく判断できない場合があります。今までは小学校4年生を対象として、・色覚検査・が一斉に行われてきました。しかし、文部科学省の発表によりますと、来年度からは希望者のみの実施となります。そこで今回は、・色覚異常・とはどういうことか、色覚検査がなくなると、どういう影響があるのかなどについて、三楽病院眼科部長で、東京大学非常勤講師の岡島修さんに伺いました。


色覚異常とは

色覚異常には先天性のものと、緑内障などの病気に伴っておこる後天性のものがあります。後天性のものは、もとになる病気の1つの症状としておきるため、今回は先天性の色覚異常について、お話しいただくことにしました。

──まず、色覚異常の人が、ものを見て何色なのかがわかりづらいのはなぜですか?

 ものを見る時は、外の光が目の網膜に届き、そこにある・視細胞・が光を感じ取って、その情報を脳に伝えるので、「見える」のです。視細胞には、色を感じとる働きをするものと、明るさを感じる働きをするものがあります。このうち、色を感じとる視細胞の働きに異常があると、色を見分けにくくなります。それが・色覚異常・です。色を感じとる視細胞には、赤を感じとる視細胞、緑を感じとる視細胞、青を感じとる視細胞と、3種類あります。

──視細胞の異常と、それによっておこる状態は?

 人にものを教えるのと教えないのでは、立場が違うというような雰囲気があります。

 3種類の視細胞のうちの1つが欠けると、・2色型色覚・といい、感じとる色の種類が減ります。以前は・色盲・などといわれていました。また、視細胞のうちのどれかの働きが悪い状態を・異常3色型色覚・といいます。これは・色弱・ともいわれています。

──色覚異常の原因と治療法は?

 遺伝によるもので、日本人男性の20人に1人、女性の500人に1人の割合で、およそ300万人以上に色覚異常があります。遺伝子のどこかに問題があるということなのですが、今のところ、有効な治療法はありません。

──色覚異常だと、色がどのように見えますか?

 たとえば緑を感じる視細胞がない、または弱い人は、赤と緑、オレンジと黄緑、緑と茶、青と紫、ピンクと白や灰色、緑と灰色や黒の組み合わせがわかりづらいです。赤を感じる視細胞がない、または弱い人は、上記の色に加えて、赤と黒、ピンクと青がわかりづらいです。これらの組み合わせは色覚異常の人の目にとって似た刺激であるため、判別しにくいようです。

──色覚異常の子の様子はどうでしょうか?

 強度の色覚異常のお子さんの場合は、幼稚園から小学校の低学年にかけて、苦労することが多いようです。たとえば学校で、「これは何色?」と聞かれて、違う色名をいうと、皆に笑われたりする。4年くらいになると、自分の苦手な色がわかるので、そういうときは黙っていたりします。

──日常生活ではどのように対処するのですか?

 自分で対処のしかたを覚えていきます。たとえば、木の幹は茶色、葉っぱは緑ですが、その見分けが難しい場合、色だけでなく、形や性状で見分けて記憶します。つまり葉っぱは緑、幹は茶というわけです。ですから、カバーを取ったクレヨンのように、何の手がかりもない状態では、色がわからなくて困る場合があります。

なぜ?色覚検査の廃止

──今度の色覚検査の廃止の理由は?

 「色覚検査をすることは差別につながる」というものです。その背景には、「色覚異常者は生活の中で困ってはいない」という考え方があります。

──岡島先生はどのようなご意見ですか?

 色覚異常の相談でこの病院に来られる方は年に100人以上で、皆さん、いろいろな悩みをもっておられます。色覚異常には強度と弱度があり、強度の人は色をまちがえてしまう場合がかなりあり、決して「生活上の困難はない」とはいえない状態です。普段の生活には差し支えのない弱度の人には、強度の人のそうした思いを理解できないのかもしれません。

──それでは、どのような心構えが必要ですか?

 最も大事なことは、「自分がどういう場合にどういう色を間違いやすいかをわかっていること」であり、それが唯一の自衛策だと思われます。ですから、色覚検査をして事実を知ることは必要でしょう。それがないと、自分が色覚異常だという認識もなく、周囲も、その人が色覚が悪くて色を間違えるのだとは思い及びません。子どもの場合など、ふざけていると思われがちです。

──病院ではどんな相談がありますか?

 高校生以上の方からは「なりたい仕事があるが、色覚異常はさしさわりがあるか」という質問や、「今やっている仕事に、ちょっと困ることがある」など、仕事絡みのものが多いです。

──そのお答えはどのように?

 今ではごく一部ですが、色覚異常では就けない仕事があるということや、就くとハンディが大きい仕事、また、自分がわかっていれば大丈夫だという仕事があることをきちんとお話します。色覚異常者に対しての「根拠のない差別」と、仕事に就くのが難しいことをきちんと告げる「適正な制限」をうまく分けるのは難しいことです。しかし、事実を知るのは重要なことですから、色覚検査を行い、色覚異常者が自己認識できるようにし、そうした人たちが住みやすいような世の中を作ることが、より重要だと考えています。


(2002年4月27日号より)

 


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