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子どもの心とからだの健康 夏の感染症
梅雨が明けると、まぶしい夏。幼稚園や保育園では「手足口病」や「ヘルパンギーナ」、小学校では「プール熱」(咽頭結膜熱)がはやる時期でもあります。これらは「夏かぜ」のグループに入る病気です。今回はこうした病気の正体や対処のしかたなどについて、元杏林大学客員教授で、東京都感染症予防検討委員会会長の南谷幹夫さんに伺いました。
■3つの感染症
手足口病
−−まず手足口病についてお聞きしますが、どのような症状でしょう?
病名の通り、手足口に発疹が出る病気で、1〜2年毎に流行します。唇の周囲、頬、歯茎、唇に小さな水疱ができ、まもなく崩れて、軽い痛みがあります。また、手のひら、指、足、お尻、膝にも発疹がでます。
−−年齢層で多いのは? 4歳以下で、1〜2歳の子どもに多いです。たまに若いお母さんや、新しく入った保母さんがかかることがあります。
−−病気の原因は?
今日お話する3つの病気は、腸の中で増殖するタイプのウイルスによるものです。その中でも手足口病は、コクサッキーウイルスA群の16型や、エンテロ71ウイルス型が病原体であることがほとんどです。ときにはコクサッキーウイルスA10型のこともあります。
−−治療法は?
治療法はありませんが、4、5日から1週間で、大事にならずに治ります。特にかゆいわけでもなく、38度前後の熱が出て機嫌が悪くなり、食物を飲みこむ時、痛みを訴えることがあります。
−−感染から発病まではどのような状態ですか?
保育園や幼稚園ではやるのですが、感染してから3日〜5日ほどで発病し、5日〜1週間で治ります。また、感染しても症状がでない人も多くいます。症状はなくとも、病原体は出しています。
−−感染のしかたは?
つばが飛んでうつったり(飛沫感染)、咽頭の粘液が空気の中に飛んでいてうつりますが、1週間から10日くらいのことです。ただ、先にも触れましたが、今回の3つの病気のウイルスは腸の中でも増えるので、どの病気のウイルスも、便の中には4〜5週間出続けます。
−−何日くらい幼稚園や保育園を休むのですか?
病気が軽いものですし、症状がよくなれば行ってもいいという指導をお医者さんはするでしょう。治ったら登園許可書を書いてもらい、登園するとよいでしょう。入浴は発疹が消えれば差支えありません。
−−他に気をつけることはありますか?
先ほどお話しました病原体のうち、エンテロ71型が原因である場合は、髄膜炎になる場合があります。ウイルス性の髄膜炎は細菌性のものと違い、治りやすい病気ですが、まれに重くなることがあります。高熱が続く、吐く、ひきつけるなどの症状が出たら髄膜炎の可能性があるので、すぐお医者さんに診てもらいましょう。
プール熱 −−「プール熱」というのはどのような症状ですか? プール熱は正式には「咽頭結膜熱」というように、発熱、咽頭炎、結膜炎の3つが主な症状です。けれども3つの症状がそろわずに、そのうちの1つだけということもあります。幼児と学童の間でおよそ3〜4年ごとに多くなります。
−−原因は何ですか?
アデノウイルスの感染によるものです。このウイルスは1〜49型までありますが、プール熱はほとんど3型です。アデノウイルスはいろいろな病気をおこし、胃腸炎発疹や髄膜炎、膀胱炎をおこすこともあります。5〜6年前には日本で初めてアデノウイルス7型の肺炎がみつかり、死者がでたこともありました。また、大人が8型にかかって失明するような結膜炎をおこすこともあります。
−−治療法は?
咽頭結膜熱は重い病気ではなく、また特効薬はありませんが、自然に治ります。昔はプールのある時期にはやり、プールは閉鎖されました。今はプールが1年中ありますが、消毒が十分に行われているので、あまりはやらなくなりました。
ヘルパンギーナ
−−この病気の特徴は?
毎年夏になると流行する代表的な夏風邪です。口の前方に発疹ができる手足口病と違い、のどの奥に発疹がでます。乳幼児の病気であること、潜伏期間、うつる時期などは、手足口病とほとんど同じです。コクサッキーA群ウイルスでおこります。5〜6日間で治ります。
■ 流行具合
−−手足口病、ヘルパンギーナ、プール熱のはやり具合は、どうですか?
今はヘルパンギーナの患者さんが多いです。比較をするときは、「定点」あたりの患者さんの数で比べます。定点というのは医者の数のことです。たとえば全国には約3000、東京には142の定点があります。患者さんの数を、診た先生の数で割ると、定点あたりの患者さんの数がわかり、全国と東京のはやり具合が比較できます。
たとえばこの時期「プール熱」は全国で定点あたりおよそ0・1です。これは10人の先生が1人診るかどうかの割合です。これが「手足口病」ですと、全国の定点あたりが1に近い。1人の先生が1人を診るくらいです。それに比べ、「ヘルパンギーナ」は全国で定点あたり1・32、東京で1・66ですから、現時点では、ヘルパンギーナが最も患者さんが多いといえます
■ 消毒で予防を
−−3つの病気の感染を予防するには?
最も大事なのは、手を洗うことです。手足口病などはいろいろなところに発疹がでますし、人は具合が悪いとき、顔をさわるものです。特にくしゃみや鼻がでるときはそうで、「風邪は手からうつる」といわれています。手を石けんで洗っても、随分ウイルスは減ります。ただ、逆性石けん(陽イオンによる消毒作用をもつ石けん)では効果はありません。もし消毒をするなら、アルコールがよいでしょう。
−−消毒をするときは?
のどのうがいにはイソジン(ヨード系)がよいでしょう。衣類の消毒には、次亜鉛ソーダ(塩素系)がよいです。時間が経つと効果がなくなるので使用する時に準備します。
どう違う? ウイルスと細菌
−−最後に、ウイルスと細菌の違いを教えてください。
細菌は自分の体のしくみだけで生き、自分を分裂させて数を増やしてゆきます。ところがウイルスは自分の力だけでは生きられず、人の中に感染して細胞の代謝を利用して増えていきます。
細菌を殺すには、細菌の代謝を利用した抗生物質がありますが、自分で増殖できないウイルスには抗生物質はききません。インフルエンザや水疱瘡には抗ウイルス薬ができています。また、ウイルスには1度感染すると免疫ができるグループがあります。これを利用したのが予防接種です。
(2002年7月13日号より)
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