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生涯にわたる読書の意義

国立教育政策研究所シンポジウム

五十嵐絹子氏

 国立教育政策研究所は8月3日、東京・千代田区の文部科学省で「第29回教育研究公開シンポジウム『生涯にわたる読書‐家庭・学校・地域で育む生きる力』」を開催した。同研究所の研究成果を教育関係者や国民に還元し、学校運営や教育内容等に役立てていこうという趣旨のもの。今回は国民読書年にちなみ、読書体験がもたらす成長などについて、実際の学校や社会の現場での取り組みや、読書と学力の関係などについての同研究所の研究成果が発表された。

【講演】最大の読書教育支援は学校図書館の活用

 学校図書館アドバイザーの五十嵐絹子氏は山形県・鶴岡市で40年間学校図書館で活動を続け、学校図書館の本の貸出数を飛躍的に向上させた実績がある。「学校図書館が動き出すと子どもが変わる、教育が変わる〜本を読む子は必ず伸びる〜」と題した基調講演で、五十嵐氏は次のように述べた。
 ◇    ◇
 読書は良いことと考えられているが、本当に本を読むことが楽しい、という風に子どもたちを育ててきただろうか。読み聞かせだけでは本を好きにはならない。いくら目の前に本がたくさんあっても、放っておいては、子どもが自然に本を読むようにはならない。しかし、本は読んでも読まなくてもいいというものではなく必要なものであり、必修科目として組み込まれるべき。学校図書館の活用が、最大の読書教育支援だ。
 どうしたら子どもたちが生涯本を楽しめるようになるのか。まず本への興味づけ(読書動機)。“読む”ことがまだ得意でない小さい頃は読み聞かせをして“聞く読書”とすること。本の情報をたっぷり伝えること。そして授業中のドリルが終った後の隙間時間など頻繁に読書の時間を設け、読書時間を確保する。図書室では自由に読ませるのではなく、例えば15分は本を探し、30分は席を立たずに読む、といった様に静かに本を読む時間をとる。1冊の本を完読することで、子どもは自信を持つことが出来る。読書の質を高め、読書習慣作りをすることが大切だ。
 図書館活用教育が何をもたらしたか。これまで学校に勤務した中で実感したのは、全校読書が盛んになった学校は、必ず学力も上がったということ。読書は、聞く力・読む力・話す力・集中力・想像力・興味を持つ力を育て、それは全て学力のもとになるが、何よりも育つのは学習意欲だった。子どもの読書がその子の生きる力をどれだけ育むか、計り知れない。

【研究報告】小学生から成人までの読解力と事後行動は

 国立教育政策研究所が平成19年度から3年間行った「言語力の向上をめざす生涯にわたる読書教育に関する調査研究」の報告が行われた。この研究では「言語力」を単なる語彙力というよりも、日常的で自律的な生活行動や生活習慣の形成力を含めた読解力を中心として捉え、生涯にわたる読書教育として全ての年齢層の言語力向上を図ろうとするもの。
 研究データは小学校調査を関東・関西の5県8市15校で小学校6年生を対象に、また中学校調査を同14校で中学2年生を対象に行い、社会人調査はネットコミュニティを用いたウェブ形式のアンケートで行った。

読み取り問題を実施 他メディアとの比較も

  福岡教育大学教授の井上豊久氏は「小中学生の読書活動と言語力を育てるメディア」について報告。小学校6年生の1か月の読書状況は「本も1冊以上読みマンガや雑誌も読んだ」が最も多く61・9%。「マンガや雑誌は読んだが本は1冊も読まなかった」「本は1冊以上読んだがマンガや雑誌はまったく読んでいない」と続く。そして読解力を調べる「読み取り問題」を実施し、読書と読解力の因果関係は右図上の結果となった。
また読書後に「本の中に線を引く」「同じ作者の他の作品を読む」といった発展的行動をとっている場合、問題の得点が高く、読解力がついていることがわかった。なお、中学生調査でも同様の調査結果となっている。
テレビやインターネット等の他のメディアとの接触時間と読解力得点の平均値の関係の調査では、新聞以外は長時間の接触は読解力に良くない影響を及ぼす。ただしテレビゲームと電話以外は適当な時間(1時間前後)なら読解力に悪い影響を及ぼすとは言えない、としている(右図下)。

  国立教育政策研究所総括研究官の立田慶裕氏は研究報告「成人の読書への関わりと言語力」の中で、「たくさんのメディアの中で本はどのような価値があるのか考える必要がある」とし、男女別・年齢別に読書量や本のジャンル、読書時間を調査。さらに読書後の行動にも注目し、普段から本に高い関心を持つ人ほど読書量が多く、また読書中・読書後にその本と関わる行動として色々なこと(同じ作者の他の本を読むなど)をする人ほど読書量が多い傾向があることがわかった。

  世帯収入別にみると、読書量や日常的な関心の平均値は低所得層に比べて高所得層の方が高くなっているが、低所得層の中でも多様な事後行動を取る人ほど読解力の平均値が高い。成人分野の読書活動においても、読書への関わりを増すような読書教育活動をどう展開していくかということが、読解力、リテラシーの向上につながっていく可能性がある、としている。

小学生調査「読書状況と読解力」読解力得点の平均値
読解力得点
調査「メディアとの接触時間とその他の生活時間と読解力得点」
調査

 



【2010年8月21日号】